12月31日に始まる第99回全国高校サッカー選手権大会。兵庫県代表としてこの大会の出場するのが、2年連続11回目の出場となる神戸弘陵学園高校だ。Jリーグ屈指のアタッカー江坂任らを育てた谷純一監督にテクニックの定義と指導法を聞いた。
出典:『サッカークリニック』2020年7月号
強い負荷の中でもミスをしないこと――技術を結果につなげられる選手を育てるための方針を聞かせてください。谷 1年生については、神戸弘陵学園高校が目指す「相手を見て判断するサッカー」を意識させながら、1人1個ずつボールを使った、ドリル形式のメニューに取り組ませています。そこから、相手をつけたドリブルのメニューに移行し、判断せざるを得ない状況をつくります。1年生の間でポイントになるのは、練習に夢中になれるかどうかです。先ほど説明した「技術の細かい部分を具体的に指示する」こととは話が別になりますが、練習自体の狙いを細かく選手に伝えるのではなく、熱中するうちに自然にうまくなったり、サッカーの理解が深まったりするのが理想です。技術を教えるよりも、感性を磨くという表現のほうが正しいかもしれません。プレッシャーがない遊びの状況から強度を上げ、判断も含めた技術面を伸ばしながら、最終学年を迎えるイメージです。
選手が楽しめるように、ジュニア年代でよく行なうドリブル競争のようなメニューも取り入れています。こうした練習を繰り返していけば、1年生のときには感覚でプレーしていても、3年生になる頃には意図的にプレーする選手に成長できると考えています。
――正しい判断の下で技術を使えれば、チームの結果にもつながっていきやすいと思います。ただし、高い強度の中でもミスをしないことが重要になります。谷 日本でテクニックがある選手というと、ボールを持ったときのタッチやコントロールが柔らかい選手が挙げられます。しかし、海外ではミスなく正確にプレーできる選手が高いテクニックを持つと評価されます。
私が監督として初めて選手権を経験した2013年度の試合を見返すと、当時の選手たちの足元の技術は今いる選手たちと遜色ありませんでした。ただし、パススピードや攻守の切り替えは今よりも遅いと感じました。16年度と17年度には高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグWESTで戦いましたが、Jクラブのアカデミーの選手との間に感じた差も同じくプレースピードの部分でした。
相手のプレッシャーの弱い状況でうまさを発揮できるのは当たり前です。高校年代のトップクラスの選手は、身体的、心理的に負荷がかかった状況でも、クオリティーを保ったプレーを90分間続けられます。プレミアリーグで特に感じた点は、シンプルにプレーする際の精度の高さです。プロに進んだ選手は、ミスなく正確にプレーしつつ、大事な場面では個人技を発揮できる選手ばかりでした。
――他チームで印象に残っている選手はいますか?谷 ドリブラーの印象が強いガンバ大阪ユース出身の食野亮太郎選手(リオ・アヴェFC=ポルトガル)は、どのエリアでも仕掛けるわけではなく、チャンスの場面になると、プレーのギアを上げていました。ベンチから見て彼から「ボールを取れた」と思っても、結局は取れなかった場面がたくさんあったことを覚えています。運ぶドリブル、仕掛けるドリブル、パスの3択を常に持っているので、対面する選手としては、どう止めれば良いかが分かりませんでした。
ドリブルの種類を見ても、大きめに蹴って速く走るドリブル、足元に収めるドリブルなど、複数の種類を状況に応じて使い分けできるのが印象的でした。状況を考慮せずに仕掛ける選手が多い高体連チームのドリブラーとの違いを感じた瞬間で、本当にテクニックがあるとはこういうことなのだと学びました。
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