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2021-06-22

【ボクシング】炎の左豪打。“和製パッキャオ”福永亮次がワンパンチで失神TKO勝ち

福永のフィニッシュブロー炸裂。藤井の体はゆっくりと落下していった

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 WBOアジアパシフィックおよび日本スーパーフライ級タイトルマッチ12回戦は21日、東京・後楽園ホールで行われ、チャンピオンの福永亮次(角海老宝石)がWBOアジアパシフィック同級5位、日本8位の藤井貴博(金子)を8回1分19秒、痛烈なTKOで降した。福永はWBOアジアパシフィック2度目、日本タイトルの初防衛に成功している。なお、同時に保持している東洋太平洋タイトルはこの試合にはかけられていない。

 サウスポー同士の一戦は、その風貌から“和製パッキャオ”とも呼ばれるチャンピオンの一方的な展開で流れていた。ただし、挑戦者の頑張りもあって、KOへの予感はどこにも見当たらなかった。そんな8ラウンド、あまりに凄絶なフィニッシュが、突然にやってくる。

 本人いわく「アッパーカット」、記者の多くは左ストレート、あるいはクロスとフックの中間に見えたそんな左の一撃だった。このパンチを顔面に直撃された藤井の体は一気に脱力。おそらく意識はその時点で失われていたのだろう。中腰になったまま立ち尽くす。そこに福永の右から左。「あれは手ごたえがありました」というフォローアップのパンチで、挑戦者は大きく弧を描くようにロープ際に転落。その上体はリングエプロンにはみ出した。当然ながら、レフェリーの杉山利夫は即座に試合終了をコールする。

敗者は担架で退場。残酷にして、あまりにも美しいノックアウトでもあった。   
敗者は担架で退場。残酷にして、あまりにも美しいノックアウトでもあった。

 試合後、エレベーターホール横での囲み取材、「最後のパンチはよけいだったって、会長に怒られました」と勝者は頭を掻いた。いや、たとえ残酷だったにしろ、非情の一打が打てるのが強いボクサーの証。終の結末に突き立てた野獣の牙こそに、福永が34歳にして見せたものすごい凄味。だからこそ可能性を感じたのは私だけではなかったと思う。

 前日の計量後の取材で、「1人で登山しているのを見続けるような、たぶん、つまらない試合になると思います」。勝利宣言の前にそんな奇妙な表現を置いた藤井だったが、翌日のサウスポー対決では、まったく余裕はなかった。

 初回から福永が攻めたてる。ジャブが鋭い。ワンツーもシャープ。右フックも強烈だった。ボディにグサグサと突き刺すフック、アッパーも含め、いずれも挑戦者に少なからぬダメージを与えていたはずだ、

 藤井はこれに対し、下がって、さらに下がって、それからときおり前に出ると短い連打を試みる。彼が語っていた作戦とはこのことか。だが、チャンピオンの圧力を食い止めることはできない。5ラウンド、左ストレートからの連打で、福永をロープ際に追いやる場面もあったが、ボディブローを浴びて勢いは消えた。続く6ラウンド以降、ときに両腕を下げたまま迫る福永に、藤井は反撃の手立てがない。それでも、粘り続けられたのは、32歳にしてタイトル初挑戦の執念だったかもしれない。だが、凄惨なノックアウトシーンはこの直後にやってきた。

 日本が公認するアジアのタイトルを総なめにしている福永は、これですべてKO・TKOによる勝利を14(4敗)に積み上げた。そろそろ世界が視野に入ってこないかと記者に促されると、ちょっとだけ固い顔になって答える。「まずは日本の強い選手に勝って、それからお話します」。以前は強打はあるものの、はっきりとガサツに見えた福永のボクシングだが、このところ、きれいに成形されたボクサーパンチャーへと導かれている。あとは、どこかに、この選手にしかできないプラスアルファが着色できれば、あるいは、世界に向けて、そのハードヒットの号砲を打ち鳴らすかもしれない。

文◎宮崎正博 写真◎菊田義久

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