富士通フロンティアーズがIBMビッグブルーを破って3連覇したアメリカンフットボールの日本社会人選手権「JAPAN X BOWL(ジャパンXボウル)」。MVPのRBトラショーン・ニクソンを筆頭に富士通のオフェンスが目立ったが、勝利を支えたのは、タフで乱れることのないパフォーマンスを続けたディフェンスの力だった。
第2Q、残り2秒。IBMのQB政本悠紀からパスをキャッチしたWR上廣淳史がアクロスルートから右サイドラインを上がろうとしていた。富士通のDBが1人完全にブロックされるのが見えた。場内に歓声が上がり、もしや、と思った瞬間、大きな赤い影が上廣に襲い掛かった。187センチ112キロの富士通LB大橋智明が正確かつ激しいタックルで、一発で上廣を倒した。ここで、前半が終了した。
この局面、第2Q11分にIBMオフェンスが自陣41ヤードでファーストダウンを更新した後、第2Q残り6秒から時計が流れ、IBMがプレーできずに前半終了となっていた。しかしIBMサイドラインが「タイムアウトをコールしていた」と抗議し、いったんロッカールームに下がった富士通の選手やコーチたちが呼び戻されて、残り2秒からプレーの再開となっていた。
1プレーしかできない中、ヘイルメアリーパスを狙うには少し遠かったものの、ロングパスをケアするのが当然のシチュエーション。しかしIBMは4WRセットのいわゆる「4縦」を狙うと見せかけて、右に1枚セットの上廣を誰もいないアンダーニースのアクロスを走らせ、政本がパスをヒットした。上廣が、味方の3人のWRがディフェンスを縦にストレッチした右サイドライン沿いを走り上がれば一発TDも、という狙いだった。
意表を突いたプレーコール。いったんは前半が終了となり、サイドラインから引き揚げたことで富士通の選手たちの緊張がゆるんだとすれば、決まる可能性はあった。ただ、今の富士通の選手にそういう「揺らぎ」はなかった。
大橋は「距離があるので、ロングパスはないと判断していた。とにかくTDさえとらせなければよい場面。下がって守っていたけれどすぐに上がってきちんと対処できた」と振り返った。
大橋は第1クオーターにも、ゴール前でブリッツし、政本にプレッシャーをかけてインテンショナルグラウンディングを誘っい、大きくロスをさせていた(記録はQBサック)。
IBMの試合の入りは決して悪くなかった。高木稜、ジョン・スタントンが好リターンで、冒頭から2回のオフェンスシリーズはいずれも50ヤード付近から。政本のパス、高木のランなどで、2回とも(エンドゾーンまで20ヤード以内の)レッドゾーンに侵入した。しかし、富士通ディフェンスの堅い守りで、K佐藤敏基のフィールドゴール(FG)に終わっていた。
大橋は「キッキングで50ヤード付近までリターンされると、すぐFGレンジに入ってしまう。そういう局面でタッチダウンを取られずに3点で抑えられたのは大きかった」と振り返った。
この試合を通じて、富士通のディフェンスは、冷静にプレーし、しっかりタックルしていた。5インターセプトのCBアルリワン・アディヤミを筆頭に8試合で12インターセプトを記録した「ボールホーク」揃いのDB陣が、レシーバーに対する適切な距離感としっかりと両手を回したタックルで、IBMのランアフターキャッチを阻んだ。
IBMのレシーバー陣は栗原嵩、近江克仁らスピードと身体能力でリーグ屈指の選手が揃う。ボールを競り合って抜かれた場合、一発でTDまで持っていかれる可能性があった。無理に前に出てインターセプトを狙うのではなく、ビッグプレーを許さない。冷静な判断があった。
その裏にあるのは、富士通ディフェンス陣の「FGで止めていれば、必ずタッチダウン(TD)を取ってくれる」という、味方のオフェンスに対する信頼だ。そして事実、試合はその通りになった。
IBMオフェンスは、パス25/40、276ヤード、ラン26回94ヤード、ファーストダウンは20回、ターンオーバーはゼロ。総獲得ヤード、ファーストダウンは富士通を上回った。ただ勝負どころの決定力が違った。対する富士通ディフェンスは、今季チーム最多の50タックル。QBサックも含むタックル フォー ロスは8回で-33ヤードだった。
試合後、LB鈴木將一郎に話を聞いた。「今日もタックルが課題だった。特にゲームの途中までは」という。「(IBMは)やはり、回り始めたら、手が付けられなくなるオフェンスなので、皆の焦りが出た場面もあった」と反省を忘れていない。
39歳の鈴木は、春に手術、今季は開幕戦で再び負傷し、この試合が再起戦だった。IBMのハイパーオフェンスに対抗するため、伸び盛りの24歳OLB趙翔来とイーブンローテーションでプレー機会を分け合った。「まだ全然動けていない。趙とは勝負できていない。もっともっと上げていく」とどん欲だ。太い上腕には血管が浮く、鍛え上げられた肉体は健在だ。
筆者は、鈴木から、10月に書いたRB金雄一のレポートについて「(金の)34歳はまだまだ中堅です。ベテランなどと書かないでください」と軽くたしなめられたことがある。大橋も「自分も30歳。でも、將一郎さんがいるかぎり、LBは『年なんで』とか一切言えない」と、チーム最年長のハート&ソウルから良い刺激と煽りを受けている。
「去年の(日大QBの)林(大希)君もうそうだったが、(ライスボウルで対戦する)関学の奥野(耕世)君も、年齢は自分のほぼ半分。負けていられない」と語る鈴木。23年のキャリアを持つフットボーラーが凄みのある笑顔を見せた。
【写真/文:小座野容斉】
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