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2018-12-31

ホットターゲット欠場に動ぜず 富士通の最強ゾーンブロック&ラン 【2018ジャパンXボウル レビュー(後)】

富士通フロンティアーズとIBMビッグブルーが対戦したアメリカンフットボールの日本社会人選手権「JAPAN X BOWL(ジャパンXボウル)」では、オフェンスの決定力の差が際立った。揺るぎのないランニングゲームを支えたのは何か。

ジャパンXボウル【富士通 vs IBM】第1クオーター、67ヤードを走って先制TDを決めた富士通RBニクソン=2018年12月17日 撮影 Yosei Kozano

富士通フロンティアーズ○35-18●IBMビッグブルー (12月17日、東京ドーム)

 試合の始まる前、富士通オフェンスには黄信号が点灯していた。主将のWR宜本潤平が左手の負傷のため試合欠場となったのだ。
 宜本は、QBマイケル・バードソンとのコンビネーションがシーズンが深まるにつれてどんどん良くなっていた。ワイドアウト(一番外にセットするレシーバー)の快速エースは中村輝晃クラークだが、プレーが崩れた時や、勝負をかけたダウンのレシーバーとして機能しているのは宜本だった。
 小柄だが俊敏で、ボールへの執着と集中力はリーグ1といってもよい宜本。
 「当初のデザインではないプレーとなって、空いているところに走り込む、バードがそこに投げる、というのが、僕とアイツとの中で、理屈ではなく感覚のところで成立している。そこはフットボールなので。言葉がどうこうではない」という、まさにホットターゲットだ。
 その宜本がいない。バードソンのパス力は半減する可能性があった。

ジャパンXボウル【富士通 vs IBM】第1クオーター、富士通RBニクソンがIBMのDEブルックスに追われながら20ヤードを走ってファーストダウン=2018年12月17日 撮影 Yosei Kozano

 危機をあっさり乗り越えたのは、RBトラショーン・ニクソンとバードソン自身のランニングアビリティー。それを最大限に発揮させる強く大きく巧いOLの力だった。
 象徴的だったのは、試合前のオールXリーグ25ポジション発表だ。5人のOLの内、C(センター)を除く4ポジションを富士通の選手が占めたのだ。
 T(タックル)の小林祐太郎、勝山晃、G(ガード)の望月俊、藏野裕貴だ。各チームの米国人エッジラッシャーからQBのブラインドサイドを守り続けるLT小林は6年連続7回目、180センチ、120キロとOLとしては小柄ながら高い戦術理解と技術でOLの要となっている望月は5年連続5回目の選出だった。

ジャパンXボウル【富士通 vs IBM】IBMディフェンスの2枚看板ブルックス、トゥアウのプレッシャーも届かず、パスを決める富士通のQBバードソン=2018年12月17日 撮影 Yosei Kozano

 選からは漏れたが、安定感のあるC山下公平、負傷を押して奮闘するG斎田哲也も含めたメンバーは、個々が強いだけでなく、ブロックのコンビネーションにも優れている。富士通オフェンスはOLのゾーンブロックを最大限に生かす作戦に出た。
 ピストルフォーメーションから、QBバードソンが、自身のキーププレーとRBニクソンのランをオプションし、次々にゲインを奪い、エンドゾーンに走り込んだ。
 インサイド、アウトサイドのゾーンブロックは極めて強力で、IBMの全タックル数37の中で、DLはわずか8タックルだけ。切り札のDEジェームス・ブルックスには4タックルを許したが、もう一枚の看板DLチャールズ・トゥアウは、ゼロタックルと完璧に封じ込んだ。
 RBニクソン、QBバードソンの武器の一つは、サイズとスピードだ。186センチ、102キロのニクソンと、195センチ110キロのバードソンは、ディフェンスに追われても、ダウンフィールドでの1対1なら、簡単には倒されなかった。

ジャパンXボウル【富士通 vs IBM】第4クオーター、富士通QBバードソンのスティッフアームを受けながらボールをパンチングするIBMのDB中谷=2018年12月17日 撮影 Yosei Kozano

 第4クオーター、ランプレーに出たバードソンは、IBMの181センチ93キロの大型DB中谷祥吾にパシュートされたが、強烈な張り手のようなスティフアームで文字通り中谷を一発KOした。倒される瞬間に、右手の鉄槌が届いて、バードソンの抱えたボールを掻き出したのは、中谷の主将としての、そしてトップリーグプレーヤーとしての意地だったのだろう。
 富士通の藤田智HCは、試合前に「そのQBが一番力を出せる(オフェンスの)形でやるということが、まずは一番大切かなと思う。その選手に合ったオフェンスの形と、周囲のメンバーとのコンビネーションが合えば、良いQBになる」と語っていた。
 そのアジャストが、この試合の中でも生きたということなのかを尋ねた。
藤田HCは、宜本がいないから、時別なアジャストをしたというのではなく「ピストルも、その他のフォーメーションも、もともと今年のオフェンスのパッケージとして持っているもの。たまたま昨日の試合はそれが出たから、多く使うことになっただけ」と、普段の取り組みの延長であることを強調した。

ジャパンXボウル【富士通 vs IBM】第2クオーター6分、富士通RBニクソンが16ヤードを走ってTD=2018年12月17日 撮影 Yosei Kozano

 富士通は、1月3日の日本選手権・ライスボウルに向けて、特別に練習量を増やしたり、練習日を設けたりせず、普段と同じ取り組みで試合に臨むという。
 富士通と藤田HCが目指しているのは「木鶏」のようなフットボールチームなのかもしれない。そんなことを考えている。

【写真/文:小座野容斉】

ジャパンXボウル【富士通 vs IBM】ライトナーコーチを中心に記念撮影する富士通OL陣=2018年12月17日 撮影 Yosei Kozano

ジャパンXボウル【富士通 vs IBM】IBMのDEブルックスのプレッシャーをかわしてパスを投げる富士通QBバードソン=2018年12月17日 撮影 Yosei Kozano

ジャパンXボウル【富士通 vs IBM】第4クオーター、富士通RBニクソンがこの試合3本目のTDランを決める=2018年12月17日 撮影 Yosei Kozano

ジャパンXボウル【富士通 vs IBM】第3クオーター3分、TDパスを狙う富士通QBバードソン=2018年12月17日 撮影 Yosei Kozano

ジャパンXボウル【富士通 vs IBM】第3クオーター、富士通WR森田が41ヤードのパスをキャッチ=2018年12月17日 撮影 Yosei Kozano

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