富士通フロンティアーズとIBMビッグブルーが対戦したアメリカンフットボールの日本社会人選手権「JAPAN X BOWL(ジャパンXボウル)」では、オフェンスの決定力の差が際立った。揺るぎのないランニングゲームを支えたのは何か。
試合の始まる前、富士通オフェンスには黄信号が点灯していた。主将のWR宜本潤平が左手の負傷のため試合欠場となったのだ。
宜本は、QBマイケル・バードソンとのコンビネーションがシーズンが深まるにつれてどんどん良くなっていた。ワイドアウト(一番外にセットするレシーバー)の快速エースは中村輝晃クラークだが、プレーが崩れた時や、勝負をかけたダウンのレシーバーとして機能しているのは宜本だった。
小柄だが俊敏で、ボールへの執着と集中力はリーグ1といってもよい宜本。
「当初のデザインではないプレーとなって、空いているところに走り込む、バードがそこに投げる、というのが、僕とアイツとの中で、理屈ではなく感覚のところで成立している。そこはフットボールなので。言葉がどうこうではない」という、まさにホットターゲットだ。
その宜本がいない。バードソンのパス力は半減する可能性があった。
危機をあっさり乗り越えたのは、RBトラショーン・ニクソンとバードソン自身のランニングアビリティー。それを最大限に発揮させる強く大きく巧いOLの力だった。
象徴的だったのは、試合前のオールXリーグ25ポジション発表だ。5人のOLの内、C(センター)を除く4ポジションを富士通の選手が占めたのだ。
T(タックル)の小林祐太郎、勝山晃、G(ガード)の望月俊、藏野裕貴だ。各チームの米国人エッジラッシャーからQBのブラインドサイドを守り続けるLT小林は6年連続7回目、180センチ、120キロとOLとしては小柄ながら高い戦術理解と技術でOLの要となっている望月は5年連続5回目の選出だった。
選からは漏れたが、安定感のあるC山下公平、負傷を押して奮闘するG斎田哲也も含めたメンバーは、個々が強いだけでなく、ブロックのコンビネーションにも優れている。富士通オフェンスはOLのゾーンブロックを最大限に生かす作戦に出た。
ピストルフォーメーションから、QBバードソンが、自身のキーププレーとRBニクソンのランをオプションし、次々にゲインを奪い、エンドゾーンに走り込んだ。
インサイド、アウトサイドのゾーンブロックは極めて強力で、IBMの全タックル数37の中で、DLはわずか8タックルだけ。切り札のDEジェームス・ブルックスには4タックルを許したが、もう一枚の看板DLチャールズ・トゥアウは、ゼロタックルと完璧に封じ込んだ。
RBニクソン、QBバードソンの武器の一つは、サイズとスピードだ。186センチ、102キロのニクソンと、195センチ110キロのバードソンは、ディフェンスに追われても、ダウンフィールドでの1対1なら、簡単には倒されなかった。
第4クオーター、ランプレーに出たバードソンは、IBMの181センチ93キロの大型DB中谷祥吾にパシュートされたが、強烈な張り手のようなスティフアームで文字通り中谷を一発KOした。倒される瞬間に、右手の鉄槌が届いて、バードソンの抱えたボールを掻き出したのは、中谷の主将としての、そしてトップリーグプレーヤーとしての意地だったのだろう。
富士通の藤田智HCは、試合前に「そのQBが一番力を出せる(オフェンスの)形でやるということが、まずは一番大切かなと思う。その選手に合ったオフェンスの形と、周囲のメンバーとのコンビネーションが合えば、良いQBになる」と語っていた。
そのアジャストが、この試合の中でも生きたということなのかを尋ねた。
藤田HCは、宜本がいないから、時別なアジャストをしたというのではなく「ピストルも、その他のフォーメーションも、もともと今年のオフェンスのパッケージとして持っているもの。たまたま昨日の試合はそれが出たから、多く使うことになっただけ」と、普段の取り組みの延長であることを強調した。
富士通は、1月3日の日本選手権・ライスボウルに向けて、特別に練習量を増やしたり、練習日を設けたりせず、普段と同じ取り組みで試合に臨むという。
富士通と藤田HCが目指しているのは「木鶏」のようなフットボールチームなのかもしれない。そんなことを考えている。
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