2018年夏に就任以来、様々な試練を越え、昨季は甲子園ボウル出場を果たした日大の橋詰功監督が任期満了で退任した。名門フェニックスへの新戦術の導入、QB林との関係、オクラホマ大へのコーチ留学で得たもの…。様々な視点から振り返っていただいた。(初出:『NFLドラフト候補名鑑2021』2021年4月7日発売。肩書きは当時)
取材・構成 小座野容斉 Text/Yosei Kozano Photo / Yosei Kozano, Getty Images
戦術は一から全部インストールした――橋詰監督は、立命館大学で、スプレッドオフェンス「リッツガン」を生み出しました。日大は伝統的にショットガンのチームです。2つのオフェンスにはどういう違いがあったのでしょうか。
橋詰 私は、日大のショットガンに詳しくないのです。立命館に20年以上いて、日大と試合したのが1回か2回。それも春の交流戦でやった程度。甲子園ボウルは、立命が出るようになってからは日大があまり出なくなったのですれ違いです。だから、しっかりスカウティングしたとか、ビデオを見たということもない。篠竹監督がおられた日大のイメージぐらいしかない。どう違うかと言われてもなかなか難しいんですよ。
――QBがセットする位置が違う…。
橋詰 そうですね。全盛期の日大のショットガンは、ボールの位置から7ヤードか8ヤード後ろにQBがいて、ランプレーをするとなったら、そこから戻ってこなあかん、もしくは(RBに)ダイレクトスナップしなくてはならない。今我々がやっている(ショットガンの)5ヤードくらいのスナップだと、Iフォーメーションからと全く同じタイミングでランプレーができる。
ヴィアーとかIとかで、QBがスナップを受けて下がりながらRBに渡すのと、ショットガン隊形から5ヤード後ろで受けて、ちょっと前に出ながらRBにボールを渡すのは、メッシュポイント上はほぼ同じです。フォーメーションがどう変わろうと、OLのブロッキングのアサイメントとタイミングをほぼ変えずにランプレーができるというのが一番大きいところじゃないかなと思いますね。
――日大の選手たちの受け止め方はどうだったのでしょうか。
橋詰 僕は、新しいオフェンスをインストールするときに、今までやってきたことを聞いて、それにアジャストしながら導入するのは難しいという考えです。僕の知っているオフェンス、プレーブックを一から全部インストールするという形でないと…。オフェンスに限らずディフェンスでもそうなのですが、全部が一つのパッケージになっています。違うパーツをいろいろ組み合わせるということをやるとうまくいかない。
――ハイブリッドはできないということですか。
橋詰 どちらの戦術もよく理解していて、意識的に組み合わせるということはあるかもしれないのですが…。よくわからないものを「今までこのプレーがうまくいってたからとりあえず入れて」みたいなことはしないほうがいい。僕の知っているオフェンスをそのまま全部最初からやりました。
――去年の日大は、RBに(川上、秋元、柴田という)タレントがそろっていてランを重視したオフェンスでした。
橋詰 他チームに対して十分に勝負ができる選手が、一個しかないポジションに2人から3人いたのは相当なメリットでした。特にRBは消耗が激しいポジションです。そこにフレッシュな状態であのレベルの選手が3人いる。彼らをどううまく使うべきかはだいぶ考えました。
――3人はタイプの違うRBで、共通するのはフィジカルとスピードでした。
橋詰 僕のやるフットボールでは、フィジカルが弱い選手はフィールドには出られない。その大前提があります。ただ、去年のチームはいかんせんOLの素材が、というか身体能力で勝負できるような選手が、ほぼいなかった。あの事件の前に、OLの選手が何人か退部しことなどもありました。
レシーバーの選手を、身長あるからとりあえずOL、QBだった選手もOLというように作り上げたOLだったので、やりたいフットボールがなんでもできたという感じではなかったです。そんな彼らでも、結果的に一定レベル以上のOLとなってくれました。立命館時代の選手で、現富士通の安木達之コーチがOLたちを一から鍛え上げ、コーディネーターとしても貢献してくれました。
▲QB林が指揮官を見る眼の中には信頼がある
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