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2023-09-27

変形性ひざ関節症教室 第24回 変形性ひざ関節症の診断② ひざ痛がある変形性ひざ関節症ではない病気

ひざは健康寿命延伸の要の関節。ところが、中高年になると、ひざ関節の軟骨がすり減り、「ひざが痛い」「水がたまる」「痛くて長く歩けない」「ひざか変形した」などといった症状に悩む方が増えてきます。今回は、ひざ痛の原因となっている病気について、変形性ひざ関節症以外のものを、ひざの専門医・田代俊之ドクターが説明していきます。

ひざ痛の原因はさまざま

 中高年の方がひざが痛いからといって、変形性ひざ関節症とは限りません。別の疾患がひざの痛みの原因である場合もあります。また、ひざの痛みを伴う別の疾患から、変形性ひざ関節症に進行する場合もあります。

 変形性ひざ関節症に関係の深い疾患として、大腿骨顆部骨壊死(脆弱性骨折)があります。ひざの上の大腿骨内側顆部の一部が壊死する原因不明の病気で、壊死した部分がくずれて凹み、そこから変形性ひざ関節症へと進むことがあります。

 関節リウマチは、変形性ひざ関節症と症状が似ている疾患です。自己免疫疾患の一つで、全身の関節に炎症が起こり、軟骨や骨を溶かして関節が変形します。

 ほかにもひざ痛の原因疾患として、関節に炎症を引き起こす痛風や偽痛風、細菌が関節内に入り込んで起こる化膿性関節炎、繰り返しのストレスで生じる離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)や腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)などがあります。
 これらの疾患も見落さないように診察・診断します。

大腿骨顆部骨壊死(脆弱性骨折)

  体重のかかる大腿骨内側顆部(ひざのすぐ上で大腿骨が大きくなっている部分)が壊死する疾患です。中高年の女性に多くみられるのが特徴で、高齢で骨が弱くなっているところに、負荷が加わり、軽微な骨折が起こることが原因の一つとして考えられています。

 歩いているときに突然、激痛に襲われるところから発症することもあり、ひざに負担がかかり続けると、関節面の一部の骨がくずれて陥凹し、軟骨がすり減って、変形性ひざ関節症へと進行することもあります。

 発症後すぐは、レントゲン検査をしてもわかりません。MRI検査でBone Marrow Lesion ( BML :骨髄病変) としてわかることもあります。治療方法は、変形性ひざ関節症と同様に、保存治療が原則になります。骨壊死の進行や症状によっては、手術が必要になることもあります。


画像:田代俊之
 
関節リウマチ

 関節リウマチは、自分の免疫が自分の身体の一部を攻撃する自己免疫疾患(※)の一つです。

 ひざだけでなく、全身の関節の滑膜に炎症が起こり、軟骨や骨を溶かし、関節を破壊・変形します。女性に多く発症するといわれています。関節の強い痛みのほか、朝、手がこわばるなどの症状を伴うこともあります。

 診断では、レントゲン検査のほか、血液検査で炎症の状態やリウマチに特徴的にみられる物質を調べます。治療としては、新しい薬剤が開発され、薬物治療は進歩してきています。

※自己免疫疾患:ヒトの身体には、外界の病原体から身体を守る免疫システムがあります。自己免疫疾患は、この免疫システムに異常が起こり、本来排除すべき病原体だけでなく、自分自身の組織も攻撃して破壊してしまい、症状を起こす病気です。


画像:田代俊之 イラスト:庄司猛

 関節炎・靭帯炎などによるひざ痛

 【痛風・偽痛風】痛風は、血液中に溶けきれなくなった尿酸が結晶化し、関節などの組織に炎症を起こし、激しい痛みや腫れなどの症状が現れる病気です。ほとんどが男性に発症し、主に足の親指や付け根、足首が痛みます。偽痛風はピロリン酸カルシウムの結晶が関節内に出てきて起こる関節炎です。発症は高齢の女性にやや多く、痛風に似た症状が発作のように出るので偽痛風といいます。多くはひざが痛みます。炎症に対しては痛み止めを使い、数日間で症状は軽快します。化膿性関節炎との鑑別が重要です。

化膿性関節炎】本来無菌組織の関節に細菌が入り込み、炎症が生じた病気です。急激な痛みと腫れでひざを動かすのもつらいです。発熱することもあります。関節液の細菌検査や血液検査によって診断します。早期に治療しないと、軟骨や骨が破壊されてしまいます。ひざの関節内注射などによって発症することもあります。治療としては関節洗浄や抗生剤投与などを行います。

離断性骨軟骨炎】成長期にみられる疾患で、スポーツなどでストレスが関節に繰り返しかかると、軟骨の下の骨が壊死して骨や軟骨片が母床の骨から分離し、さらに進行してはがれることがあります。はがれた骨軟骨片は関節内遊離体となり、関節のひっかかりの原因になることがあります。ひざでは85%が大腿骨の内側顆部に起こります。発育期では安静や免荷で自然治癒することが多いですが、年齢や症状により手術を行うこともあります。

腸脛靭帯炎】ひざの曲げ伸ばしをすると、大腿外側にある腸脛靭帯と大腿骨外側上顆がこすれます。ランニングやひざの曲げ伸ばしをしすぎると、この部分に炎症が起こります。これが腸脛靭帯炎です。運動や歩きすぎたあとにひざの外側に痛みが出ます。基本的には、安静・ストレッチなどにて治療します。

プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さん
JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長
1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。

 

この記事は、ベースボール・マガジン社の『図解・即解!基礎からわかる健康シリーズ 変形性ひざ関節症』(田代俊之著、A5判、本体1,500円+税)からの転載です(一部加筆あり)。 Copyrightⓒ2022 BASEBALL MAGAZINE SHA. Co., Ltd. All rights reserved.

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