26日、東京・後楽園ホールで行われたバンタム級10回戦、元WBC世界フライ級チャンピオンで、現WBCバンタム級8位、WBA同級9位の比嘉大吾(25歳=Ambition)対日本バンタム級13位・堤聖也(24歳=角海老宝石)の注目の一戦は1-0(96対94で比嘉、95対95、95対95)の引き分けに終わった。 高校時代にアマチュアで対戦経験(堤の2勝)があり、以来、旧交を温めてきた“友人”同士の決闘は、なんとも表現しようのない、もやもやしたものを残して終わった。両手を掲げられ、健闘を讃え合う両者の表情が、それを如実に表していたものだ。
倒しに倒して一気に世界まで登りつめ、大舞台でも倒しまくってきた比嘉にとっては、2階級アップしたとはいえ、“KO勝利”が背負った宿命。前戦でハードヒッター中嶋一輝(27歳=大橋)と引き分けを演じた堤にとっては、つかみきれなかった勝利を、わずか1ポイント差でも手に入れることが“命題”。ともにそれらを証明できなかったのはもちろんのこと、「あのときこうすれば……」の思いが駆け巡っている気がするのだ。
ロープを背負う比嘉に、堤は右ボディブローで迫る「見る時間が長くなってしまった」と反省の弁を繰り返した比嘉は、立ち上がりから、自ら退いてロープを背負う場面を再三見せた。「ボクシングを多少知ったので……」という言葉には、引き出しの多さを披露したいという気持ちがあったのかもしれない。堤を誘い込み、カウンターを当てる。右オーバーハンド、あるいは左フックと、そういう狙いも感じ取れた。が、そこは堤も反応よくかわし、手数で追い込んでいった。敢えてガードの上を叩いて釘づけを狙い、左右のボディブローを叩き込んだ。「上(顔面)は効いたのはなかった」という比嘉の言葉には、ボディブローは嫌だったことを暗に示している。
ペースを引き戻した比嘉の硬いジャブ 序盤にして、自ら“退き”のリズムを築いてしまった比嘉は、本来持っている圧倒的な推進力をついぞ示すことはできなかった。中盤から、左ジャブで堤の顔面を弾いたのは「ジャブが硬かった」と言わしめるもので、一定の効果を表した。が、そこからのつなぎがどうしても取れない。強靭な下半身を生かした連打。しかも、強いブローを連続して打てる。それが比嘉を比嘉たらしめる“ストロングポイント”なのだが、自ら手放したのが発端となり、「左ダブルを打たせないための左回り」(堤)など、堤がそれを打たせない間合いづくりの巧さを見せたのも理由だ。
左右フックで比嘉のガードを叩き、左ボディブローを突き刺す堤 そして堤。比嘉らしからぬスタイルに乗じて、前半はペースを握った。ボディブローで心身ともに削っていく作戦が、奏功の道を着実に歩んでいるように見えた。けれども、「前半飛ばし過ぎていたので、中盤はセーブさせた」(石原雄太トレーナー)。攻めながらうまく休んでいるように見えたが、「連打して、もう一押しのところで若干、間ができてしまう」と本人が悔やむとおり、一気に攻めまくれない。比嘉のカウンターの“圧”もあっただろうが、そこを乗り越える姿を見せたかった。
野木丈司トレーナーは、“バンタム級の比嘉”の圧倒的パワーを戦前から何度も語ってきた。だが、比嘉自身がパワーパンチに固執するあまり、力みかえった右オーバーハンド一撃を叩きつける場面が何度もあった。見た目は派手だが、相応の効果があったとは言えない。ワンアクションあっての左フック一発も、滑らかでキレがあったこれまでとは異質のものだった。“2階級上”を意識しすぎたのかもしれない。フィジカル面で劣っていることを悟ってのものだったかもしれない。野木トレーナーが「2、3戦後に本当の姿が見られる」と語ったとおり、いまの比嘉がバンタム級にフィットしているとは言い難い。
とはいえ、堤サイドとしては、比嘉の持ち味を出させないことに成功したものの、“越えられるはずの壁”を突き破ることができなかった。向かい合った者だからこそ体感してしまう比嘉の圧力もあったろう。中嶋戦で披露した“出入りのキレ味”を体現し続けることができなかった。
終了の瞬間、ふたりは両手を広げて抱き合った ともあれ、互いに傷をつけることなく終わったことは間違いない。そして両者とも、課題が見えたこともはっきりしている。それを教え合ったという点で、「貴重な一戦だった」と将来振り返ってほしい戦いだった。
TKO勝利した大湾は、戦績を7戦6勝(4KO)1敗とした セミファイナルは、比嘉とともに移籍初戦に臨んだ“大器”大湾硫斗(22歳=Ambition)が登場(スーパーバンタム級8回戦)。2年ぶりの試合は、初回から右左右のコンビネーションでサウスポー岸根知也(27歳=ミツキ)からダウンを奪う幸先良いスタート。その後は岸根の奮闘に遭ったものの、右ボディストレート、左フック、左右アッパーカットと強打を次々に叩き込み、5回1分26秒でレフェリーストップ。大いなる期待を抱かせる再スタートを切った。
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