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2020-10-26

【ボクシング】「友人対決」比嘉大吾×堤聖也、今夜ゴング

アマチュア時代から7年を経て戦う比嘉(左)と堤(写真=Ambition GYM)

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注目のバンタム級10回戦、元WBC世界フライ級王者の比嘉大吾(Ambition)、日本バンタム級13位の堤聖也(角海老宝石)の一戦は、昨日25日にJBC(日本ボクシングコミッション)で計量が行われ、バンタム級リミットを比嘉は100g、堤は200gアンダーでクリア。PCR検査の結果、出場全選手、各チーフセコンド、対象者全員の陰性も発表され、あとは今夜、東京・後楽園ホールで打ち鳴らされる試合開始ゴングを待つばかりとなった。

 計量はともに一発でパス

1995年生まれ、同い年のふたりは、比嘉が沖縄・宮古工業高、堤が熊本・九州学院高のアマチュア時代に2度対戦し、堤の2勝という過去がある。それ以来、親交を結んできた友人同士、当時とは立場を入れ替えての戦いとしても興味を呼んでいる。

現状、新型コロナウイルス感染防止対策の一環で計量の現地取材はできず、ふたりがどんな様子で、現場の空気感がどんなだったかはわからない。それぞれの所属ジム提供の写真を見る限りでは、比嘉は終始、口元にうっすら笑みをたたえているように見え、引き締まった表情が目立つ堤もフェイスオフの際、マスク越しの目元がやや緩んでいるように見えるカットもあった。

計量後、にらみ合う比嘉(左)と堤
計量後、にらみ合う比嘉(左)と堤(写真=角海老宝石ジム)

雰囲気の一端は計量終了後、合同オンライン会見に応じてくれた堤のコメントにうかがえた。

 「もっとピリピリしてるかなーと思ってたんですけど、思いのほか普通の比嘉大吾でしたね。最初に顔を合わせた瞬間、向こうが(片)手を立てて、『おう』みたいな感じでやってきたんで、僕の中では一瞬、びっくりしたんですけど。まあ、わからないです。それも、もしかしたら作戦かもしれねえ、とか、いろいろ(笑)」

沖縄で見た比嘉の「闘争本能」


2018年2月、沖縄で行った凱旋試合。比嘉(左)は計量後、アイスを口にした瞬間に生気を取り戻した(写真=船橋真二郎)

計量後、比嘉の発する空気がどう変わるのか、望んでも仕方のないことだが、見てみたかった。2018年2月、故郷・沖縄への凱旋試合の計量の姿が目に焼き付いている。つまり比嘉がベストに近い状態でリングに上がった最後の試合のときだ。

すでに減量は綱渡りの状態だった。東京での公開練習で見た比嘉の表情は虚ろ。1週間後、那覇市内のホテルの計量会場に現れた比嘉にも覇気はまったく感じられなかった。

それがガラリと変わるのは、その場にいた全員の緊張感でピンと張りつめた空気の中、フライ級のリミットでクリアした比嘉に続き、挑戦者のモイセス・フエンテス(メキシコ)も計量をパス、比嘉陣営がパフォーマンスのために用意していた沖縄のブルーシールアイス・紅イモ味を一口だけ口にした直後だった。

目にみるみる生気が宿り、全身から殺気に近いものがみなぎった。無表情のままだったのが、一層迫力を際立たせた。アイスクリーム用の木のサジを無造作に口にくわえ、ポーズを取る姿もさまになった。苦しい減量を乗り越え、ふっと表情をほころばせることも、ホッと安堵することも一切なく、一瞬にして戦闘モードに切り替わった。この人の闘う本能を見せつけられた思いだった。

では、今回の比嘉はどうか。写真では穏やかでリラックスして見えるが、やはり空気感までは伝わってこない。大勢の報道陣はおらず、目の前にいるのは関係者のみということもある。実際のところは堤と同じく「わからない」のが正直なところだ。

そのとき堤は「世に出る」と言った

“友人対決”ということに特別な感慨は見えない比嘉に対し、堤は全身で受け止めている。というより、燃えさかる火にさらに薪をくべるように、自分の力になるものはすべて貪欲にモチベーションに換えているのが堤だろう。

「僕は(比嘉が持っているものを)奪う立場だし、この状況を楽しみたいと思ってやってるんで。こうして7年ぶりに友だちと戦うことも、ほかの人たちにはできることじゃない、面白いことなんで。しっかり噛み締めて戦いたいと思ってて、燃えてるんですけど。あいつは多分、サバサバしてるんで、自分のことに集中って感じなんじゃないですかね」

野心をむき出しにするのは以前から変わらない。堤というボクサーをはっきり心にとめたのは2017年6月。WBA世界ライトフライ級王者の田口良一(ワタナベ)が6度目の防衛戦を控え、スイッチするロベルト・バレラ(コロンビア)対策として、当時平成国際大4年の堤をスパーリングパートナーに起用していたときだった。

それまでも練習に来ていたワタナベジムで何度か姿を見かけていたが、言葉をかわしたのはそのときが初めてだった。田口の印象、調子について尋ねると、堤は礼儀正しく、世界チャンピオンへの敬意がこもったコメントを返してくれた。それから彼自身のことを訊いた。

「僕も卒業したらプロになるんで。そのうち世に出るんで、覚えておいてください」

こちらに食い入るような目を向けて、世界チャンピオンになる、でも、有名になる、でもなく、世に出るという表現を使ったのが印象に残った。口に出すことで自らを駆り立てている、といったパワーを感じた。

比嘉との試合は「美味しい」


2018年9月、プロ3戦目を挙げた堤(写真=船橋真二郎)

堤自身が「デビュー戦のつもりだった」と言った3戦目。プロで初めて迎えた日本人対決は、見応えのある熱戦だった。アマ経験者の稲元純平(熊谷コサカ)と相打ちのタイミングのカウンターを狙い合う、テクニカルな打ち合いを展開。一瞬早く堤の右カウンターが捉え、ダウンを奪うと、有効打で切り裂いた稲元の目の上のカットによる3回ストップ勝ちを収めた。

「初めて8オンスのスリルを味わいました。怖かったです」と言ったあと、「でも」と、ニッとニヒルな笑みを浮かべ、「楽しいっすね」とつぶやいた姿には凄みがあった。が、そのDANGAN・B級ボクサートーナメント決勝がメインの興行は観衆も少なく、このボクサーが世に出るには至らない。

「あの試合で評価を上げてもらったし、僕のことを知ってくれた人が多いと思う」と堤が振り返ったのは今年1月、DANGANが企画した『山中慎介杯 GOD’ S LEFTバンタム級トーナメント』決勝の中嶋一輝(大橋)戦だった。アマチュアのころからサウスポーとはサウスポーで戦うという堤が、プロでは初めて左構え主体で戦い、冷静に作戦を完遂。中嶋の強打を封じ込んだように見えたが、結果は引き分け。優勢点で優勝を逃した。

だが、その悔しさを堤は誰にも向けなかった。「まだどこかに弱さがあったのかな、と。チャンピオンになるには、そこを断ち切って、勝ち切らないと。やっぱり、(中嶋の)カウンターを警戒してたんで。もう半歩、あと半歩の勇気が僕にあれば、KOできたのに。それを今になって考えているようじゃ遅いんですけど……」。込み上げてくる悔し涙をこらえながら、まだ試合から10分と経たない控え室で激しく自分を責め、最後に言った。「絶対に這い上がります」。

そこに舞い込んできたのが、比嘉との試合だった。 かつてないような注目を浴びる中、「僕は今すぐにでもチャンピオンになれると思ってるし、だったら、早く僕が世界レベルにあることを証明して、ベルトを獲りたいんで。早く証明できるに越したことはないんで、ありがたいですね」と言ってのけた。

「2団体で一桁の世界ランクを持ってて(WBC8位、WBA9位)、元世界チャンピオンで、知名度があって、人気のある選手じゃないですか。もう、美味しいなーって(笑)」

持つ者と持たざる者と


野木トレーナー(右)とのコンビを復活させた比嘉(写真=Ambition GYM)

自分が持っていないものを仲の良い友だちから奪いに行く戦い。そう堤は言った。だが、堤が持っていて、比嘉が持っていない決定的なものがある。この世界チャンピオンになる、世に出る、というどこまでも真っ直ぐな渇望だ。正確に言えば、かつての比嘉が持っていたものである。比嘉優位の声は多いが、この違いが果たしてどう出るのか。

堤の前に合同オンライン会見に臨んだ比嘉。記者の問いに一つひとつ丁寧に答えてくれた、どんな言葉より、強く印象に残ったものがある。それは目だ。あくまで個人的な感想だが、とてもきれいな目、澄んだ目をしているな、と感じた。2月の復帰戦のあと、ジムを移籍。再び全幅の信頼を置く野木丈司トレーナーと組んでからのオンライン会見でも、1ヵ月ほど前に横浜市内の公園で取材させてもらったときにも、感じなかったことだ。これが何を意味するのか、それもわからない。

すべての答えは今夜、後楽園ホールのリングで出る。

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文◎船橋真二郎

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