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2020-11-08

優勝をかけた早慶戦――“ドラフト1位”早大・早川、慶大・木澤の集大成へ

慶大・木澤(ヤクルト1位)は早大1回戦で、7回3失点で敗戦投手(1対3)。早大・早川(楽天1位)との投げ合いに屈したが、気合十分の投球を見せた

泣いても笑っても学生ラストゲーム


 ものすごい気迫である。抑えれば雄叫びを上げ、ナインを鼓舞。まさしく勝利のへの執念だ。決して大げさではなく、慶大・木澤尚文(4年・慶應義塾高)からはエースとして、チームのすべてを背負っている覚悟を感じた。

 しかし、白星へ導くことはできなかった。

 勝てば2季ぶりの東京六大学リーグ制覇となる早大1回戦(11月7日)。チームが1対1に追いついた直後の7回裏一死一塁、高めに入ったスプリットを早大・蛭間拓哉(2年・浦和学院高)に左翼席へ運ばれた。痛恨の勝ち越し2ランとなり、木澤は7回3失点で敗戦投手となった(1対3)。

 こちらも、負けてはいない。対する相手先発の早大の左腕・早川隆久(4年・木更津総合高)は、15奪三振で1失点完投。2回戦で、早大は勝利か引き分けで10季ぶりの優勝、慶大のV条件は勝利のみとなった。

 10月26日のドラフト会議で早川は楽天、木澤はヤクルトから1位指名を受けた。「ドライチ対決」として注目を集めた一戦。木澤はどんなに報道陣から早川との投げ合いについて話題を向けられても、表情を崩すことはない。

「(話題にしてもらえるのは)ありがたいこととして、(優勝をかけた)特別な早慶戦ですけど、普段どおりできるかが大事。いつもどおりの投球ができるようにマウンドに立ちました」

 対照的に早川は、小誌インタビューに応じてくれた際に「早慶戦でのドラフト1位同士は、あまりないことだと思います。東京六大学を盛り上げていきたい気持ちが強い」と、主将としてチームの勝利を最優先とした上で、木澤を意識する発言が飛び出していた。

 だが、実際に神宮に足を踏み入れれば「自分と向き合って、自分は自分のピッチングをする」と、目の前の慶大打線に集中した。そして、早川は「死に物狂いで投げた」という言葉を2度使い、気力の充実ぶりを見せた。

 今秋は2勝先勝の勝ち点制ではなく、総当たりの2試合制であるから、8日の2回戦が泣いても笑っても学生ラストゲームである。

 早大・小宮山悟監督は「投げさせます!」と主将の連投を宣言すれば、早川は「最後、神宮のマウンドに立っていられれば」と、いつでも、どこでもスタンバイする構えを見せた。

両エースは連投覚悟


 もちろん、後がない慶大・堀井哲也監督も「明日の状態を見て、リリーフを考えている」と連投を示唆。木澤は「反省して明日、やり返したい!」と鼻息を荒くして、こう続けた。

「今日は打たれるべくして打たれた。もともと2日間、投げるつもりでいた。今日の責任は、明日取る。厳しい状況ですが4年間、やってきたことをすべて出し切って終わりたい」

 早大と慶大の激突、1903年に始まった伝統の一戦である。今秋は「伝説の名勝負」として語り継がれる60年秋の「早慶6連戦」から60年。今年1月には当時、両校を率いた慶大・前田祐吉氏と早大・石井連藏氏が野球殿堂入りした。2010年秋も、早慶による優勝決定戦が行われた。10年後に訪れた天皇杯をかけた大一番は、両エースにとって集大成である。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止対策による、ガイドライン下で開催されている今秋。連盟規定により延長はなく、早大と慶大に許された戦いは9イニングのみである。どんな展開になろうとも、早川と木澤が命運を握る。

 チームを背負う「自覚」とは、経験した者にしか得られない財産だ。結果的に勝者と敗者に分かれるが、今後の野球人生において、宝物のような1試合になることは間違いない。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎

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