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2020-12-01

【私の“奇跡の一枚” 連載95】“妥協のない生き様”を貫いた『白いウルフ』元関脇益荒雄・阿武松親方の40年に思うこと

その鋭い目が昔からチャーミングだった益荒雄。写真は“白いウルフ”全開時代の懐かしい三賞受賞写真(昭和62年3月)

長い人生には、誰にもエポックメーキングな瞬間があり、それはたいてい鮮やかな一シーンとなって人々の脳裏に刻まれている。
相撲ファンにも必ず、自分の人生に大きな感動と勇気を与えてくれた飛び切りの「一枚」というものがある――。
本企画では、写真や絵、書に限らず雑誌の表紙、ポスターに至るまで、各界の幅広い層の方々に、自身の心の支え、転機となった相撲にまつわる奇跡的な「一枚」をご披露いただく。
※月刊『相撲』に連載中の「私の“奇跡の一枚”」を一部編集。平成24年3月号掲載の第2回から、毎週火曜日に公開します。

鮮やかな印象を残して

令和元年秋場所後、かつて益荒雄として相撲史に鮮やかな輝きを残した阿武松親方が体調不良を理由に、角界からきっぱりと去っていった。

私が新弟子・手島広生(親方の本名)に初めて会ったのは昭和54(1979)年3月、大阪府茨木市の押尾川部屋宿舎だった。

それから40年、「阿武松部屋」で彼が弟子たちに遺していったものは「あきらめない精神、魂のDNA」と久子夫人も語っている。『押尾川新聞』を担当する私が痛感したのは‶稽古に精進する厳しい姿勢と、“妥協しない生き様”だった。
 
親方の「次世代の指導者を育てたい」の原点は『白いウルフ』に沸いたときにあった。

福岡県糸田町から186㎝・83㎏での一番出世

大関大麒麟の「押尾川部屋」が誕生したのは昭和50年11月。翌51年、江東区木場に新たに部屋が完成、9月に「土俵開き」となった。

澤田一矢氏らの「三筆工房」により機関紙『押尾川部屋』(年3回発行)の第1号が創刊されたのは、53年9月場所番付発表日で、小生も第2号(53年12月)から編集に参加、第3号は大阪に出向き、「新弟子インタビュー」を第一面に掲載した。福岡県田川郡糸田町出身の手島広生(昭和36年6月生まれ)が、押尾川親方の強い誘いから飯塚高等学校を2年修了の時点で中退。初土俵を踏んだのは17歳の昭和54年3月場所。中学1年の時から5年間は柔道で、福岡県大会にも出場している。

早朝から新弟子としての雑務、稽古に励み、序ノ口以降、連続の勝ち越しもあり、翌年3月には新三段目に昇進。

9月場所前の第7号では、「思い切りのいい頭からの立ち合いと、得意の右四つで攻め込むのが自分の型。腕の力に頼り過ぎるのを反省、足腰をさらに鍛えます」と答えている。押尾川親方の「下手からの投げに頼らず頭をつけ、上手からの攻めも大切に」に応えて稽古もさらに充実。翌56年11月に幕下へ昇進。58年7月には待望の十両昇進を実現。

新十両「益荒雄」、10勝5敗で準優勝

初土俵から4年でつかんだ関取の座。新たな四股名「益荒雄」(剛勇な男子=益荒男)を授かり、化粧廻しが故郷の糸田町から贈られた。「玄界灘の荒波と旭日、日本一の槍」という勇壮なデザイン。新十両は準優勝。60年7月は初の十両優勝。帰京後、優勝杯を手に「体重が増え、前に出られた。巡業では体重120キロ。焼肉、野菜、果汁の健康献立で夏を乗り切る」と語った。61年3月では2度目の十両優勝。4度目の入幕となった11月(西13枚目)は11勝4敗で初の敢闘賞を受賞。

糸田町と『白いウルフ』

翌62年1月は横綱双羽黒戦での金星で技能賞。新小結の3月には、2横綱・4大関を破り殊勲賞を獲得。

炭鉱不況、糸田線廃止と暗い話題ばかりだった糸田町では花火が打ち上げられ、テレホンカードがつくられ、全国から寄せられたニックネームは「白いウルフ」で決まる。

素早い立ち合いから右を差し、左上手をがっちり引いての攻め。内掛け、外掛けありのスピード相撲は、まさに「ウルフ」。

翌5月場所(東小結)も2横綱、2大関に勝ち、殊勲賞。4連続三賞受賞を記録した。まさに旋風! 男・益荒雄が最高に光り輝いた時代だった。

益荒雄・阿武松そして――

平成6(1994)年10月、引退後に所属していた大鵬部屋から阿武松部屋として独立。これまでに、小結若荒雄、阿武咲など計9人の関取を輩出。さる9月末、元幕内大道に名跡を譲り、久子夫人とともに、博多に居を構えた。

相撲界卒業後の親方の第4の人生も、その魅力にあふれるウルフ的「妥協のない生き様」に、新たな人との絆が生じるに違いない。

語り部=大石享太郎(元機関紙『押尾川部屋』編集担当)

月刊『相撲』令和元年11月号掲載

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