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2020-12-14

【女子ボクシング】37歳の高校教師・奥田朋子が”世界”奪取

奥田(左)の右が吉田を捉える

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13日夜の大阪・エディオンアリーナ大阪第2競技場では、WBO女子世界スーパーフライ級タイトルマッチ10回戦が行われ、挑戦者で東洋太平洋&日本女子バンタム級王者の奥田朋子(ミツキ)が、チャンピオンの吉田実代(三迫)に6回1分38秒負傷判定勝ち(59対54×2、57対56)。世界初挑戦でベルトを巻いた。吉田は昨年の大晦日、初防衛に成功して以来となるリングで無念の王座陥落となった。

流れを決めた初回のダウン

1ラウンドも後半に入ったところだった。奥田の右カウンターで吉田がダウン。開始から前がかりに攻め入る吉田の入り際を捉えたもので、あれは準備してきたパンチ、と奥田は胸を張った。これが試合の流れを決めた。スタートはまだ硬さの見られた奥田の肩の力を抜き、勇気づけた。肉体のダメージこそ感じられなかったものの、吉田の精神的なダメージは大きかった。

2ラウンドも奥田をコーナーに詰めたところで右を打ち下ろされ、吉田が腰を落とす。これで完全にペースは奥田に傾いた。とはいえ、ともにパンチを打ち込んでは密着した状態になり、展開は停滞しては仕切り直しを繰り返す。その間隙を突いて、印象的にこつこつ捉えていたのは、奥田が時折、見せるコンパクトな左右のストレートの連打だった。

その一方のもみ合いのさなか、5ラウンドには奥田がバッティングで右目の上をカット。続く6ラウンド、2度目のドクターチェックを経てストップとなったが、勝敗は明らかだった。

井岡に惹かれた高校教師


勝利をコールされ、奥田(左)は絶叫した

「明日は自分の人生を思いきり表現したい」

計量後のオンライン会見で、そう言葉を残していた奥田。生まれ育った岐阜で中学のころに柔道と出合い、1対1の勝負に魅了された。立命館大時代はインカレ5位、関西2位の実績を残す。卒業後、高校教師になってからは、指導する側に回っていたが「自分はまだプレイヤーとしてできる、まだ何かやりたい」という気持ちがどこかにあったという。

奥田に火をつけたのは井岡一翔(現Ambition)だった。教え子との練習中、右ヒザ前十字靭帯を傷め、入院していた年末年始、病院のテレビで“大晦日の顔”だったころの井岡の世界戦を見て、心惹きつけられた。1年後、今度は会場で生観戦。30歳。ずっと踏ん切りがつかなかった気持ちにケリをつけ、前に踏み出した。「覚悟を決めて、ボクシングに時間を割こう」と全日制の高校を辞め、それぞれ週3回、通信制高校の保健体育教師、また別の高校のスクールカウンセラーとして働きながら、ボクシングに打ち込んできた。

37歳。リング上でインタビューに応え、「夢のような気分ですけど、この場に立って、世界一になることは、ずっとイメージしてきました」と力強く語ったが、ここから先のことは「何も考えていなかった」と頭をかいた。が、オンライン会見の宣言には続きがあった。

自分が新しいステージに進むためにーー。チャレンジしてきた人生を思い描いてきたリングで見事に結実させ、これから奥田はチャンピオンとして、どんな道を歩んでいくだろうか。
7勝1KO2敗2分。

今年8月に三迫ジムに移籍し、加藤健太トレーナーに師事した吉田。自分がどう変わったのか、「自分でも楽しみ」と話していたが、成果を見せることはできなかった。コンビを組んで、まだ4ヵ月。加藤トレーナーからは「伸びしろだらけと言われている」と自身のこれからの成長を描いていた。このまま終わるわけにはいかないだろう。14勝2敗。

冨田は新人王対決制し再起

セミのライトフライ級8回戦は、同級4位の冨田大樹(ミツキ)が5位の井上夕雅(尼崎亀谷)に3-0の判定勝ち。関西の実力派ランカー同士、23歳の冨田が2016年、21歳の井上が2017年の全日本ミニマム級新人王という一戦は、前評判どおりの好試合になった。

今年7月、ベテラン40歳の堀川謙一(三迫)と東洋太平洋王座を争い、円熟のボクシングに完敗した冨田。試合後の「自分はあんなもんじゃないと証明したかった」の言葉どおりの見違えるようなボクシングで、序盤を完全に支配した。

リーチを生かしたジャブ、右ストレートを上下に決め、左に回る。井上の攻めはステップ、ボディワークでかわし、丁寧に試合を進めた。3回には狙いすましたワンツーでダウンを奪い、着実にリードを広げていく。だが、ポテンシャルを秘めた井上も、そのままでは引き下がらなかった。

後半は下肢のバネを利かせたコンビネーションで、ぐいぐい肉薄しつつ、冨田の返しにカウンター、リターンを狙う。両者が終盤に繰り広げたテクニカルな意地の張り合いは見応えがあり、試合終了ゴングと同時に場内を大きな拍手が包んだ。元WBOアジアパシフィック王者でもある冨田は15勝5KO2敗。「またタイトル戦線に戻りたい」と誓った。井上は10勝1KO2敗1分。追い上げは届かなかったものの、まだまだ今後に期待をもたせる内容だった。

ボクシング・マガジン 1月号

文◎船橋真二郎/写真◎宮原和也

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