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2020-12-26

【ボクシング】注目の“ライト級決戦”。勝者は三代大訓! 元世界王者・伊藤雅雪を2-0判定で下す。

三代のジャブが、伊藤の顔面を弾き続けた

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 26日、東京・墨田区総合体育館で行われたファン注目のライト級10回戦は、東洋太平洋スーパーフェザー級王者・三代大訓(みしろ・ひろのり、26歳=ワタナベ)が、元WBO世界スーパーフェザー級王者・伊藤雅雪(29歳=横浜光)を2-0判定で下し、群雄割拠の国内ライト級に颯爽と現れた。

 世界タイトルマッチを彷彿とさせる照明、演出等、会場の雰囲気づくりが成された体育館。YouTubeで前座から全試合ライブ配信され、クラウドファンディングでは3700万円もの金額が集まった豪華イベント。その“大トリ”を務める一戦は、終始ひりひりと緊迫感に満ちあふれた展開に包まれた。

“ジャブの名手”が、初回からその武器を存分に活かした。決して切れ味鋭く、スピード感あふれるものとは思えなかった。だが、ポンポンと放っていくそれは、伊藤の顔面を次々と捉えていく。早くも伊藤の右目周りはうっすらと赤みを帯び、この元世界王者の心理に食い込んでいくに足るものだったように思う。


伊藤の右ストレートがヒット。しかし、三代は微妙にその威力を殺していた

 しかし、これまで戦ってきたステージ、キャリアの点で断然優る伊藤は、徐々にプレスを強めると、こちらは鋭い右ストレート、あるいは右クロスを放っていく。それは時折、三代の顔面をヒットしたかに思えたが、そのほとんどは堅いガード、あるいはヘッドスリップ、ショルダーブロックに阻まれた。

 ジャブをヒットさせ続けた三代は、絶妙な距離もキープした。伊藤にとっては遠く、三代にとってはジャブ、続けて放つ右ストレートを当てられる間合い。打った後のステップバックも冴えて、伊藤のリターンをもらわない。
 いちばん厄介な三代のジャブを抑止し、なおかつダメージングブローとなる右を狙う伊藤だが、“予測に長ける”からこそ届かないと察知するや、打つのをやめてしまうシーンも。これは、世界タイトルを獲る以前の、伊藤の姿だったように感じた。

「三代選手のジャブは予想以上だった。そこをピックアップして、修正しないまま、ラウンドが進んでしまった」(伊藤)

 4回、フットワークでリズムを取り戻した印象の伊藤は、距離を詰めて打ち合いに巻き込む。オフバランスからも必死に打ち返す三代には、余裕が薄れてきたかに思えたが、続く5回はふたたび三代がジャブで立て直す。6回には伊藤の右をまともに食って左目周辺を腫れさせ、何度もその圧力に巻き込まれかけたが、「とにかく落ち着くこと。青い炎をともして、静かに燃えることを心掛けた」(三代)


ジャブに続く右。三代のコンビネーションはシンプルだったが、“起点”があるからこそ効果を上げた

 ジャブのトリプルから右、右から左フックを返す、左ボディフックを叩きつけるなど、瞬間では効果的な攻撃を見せた伊藤だったが、あとが続かない。右を打たせてバックステップを刻み右カウンター、シンプルなワンツー。右から左フックと、ジャブをヒットさせてからのバリエーションはシンプルながら、三代の攻撃は印象的だった。

 互いに高い技術を持ち、折々にカウンターにカウンターを狙うなど、スリリングな攻防も披露した。互いに反応の高さもあって、いずれもクリーンヒットは奪えず、ダウンシーンも想像できなかったが、話題、期待の大きさに違わぬ好ファイトを築いた。

「“殺気”を消したんです。伊藤選手は予備動作をよく見ているので、自分でも予期せぬタイミングで打ちました。それは普段から癖づけていること」。三代がジャブをヒットさせ続けた理由を解説してみせる。それが、一見シャープさやスピーディーさを欠いて見えた理由だ。力みを抜き、着実にミートさせる。これが“三代ジャブ”の秘訣なのだ。

「三代選手の気迫を感じました。打ったら当たるけれども、自分でもわからないが手が出なかった」(伊藤)。チャンスをつくるものの、もう一押しができない。焦りが前面に出てしまい、効果的な後続打を放つことができない。大接戦だったが、主導権は微差ながら常に三代が握っていたように思う。


「この試合で経験値、自信も上がった。吉野選手とやるときは1.5倍くらい強くなっているはず」と三代は豪語した

 ともに「勝ったら戦いたい」と語っていた日本・東洋太平洋・WBOアジアパシフィックの3冠王者・吉野修一郎(三迫)に向け、勝者は「今日は不甲斐ない内容だったけれど、吉野選手だったらもっと楽に勝てる。春ごろに戦って、ぶっ倒したいと思います」と宣戦布告。会場に足を運んでいた吉野はこれをどう受け止めたろうか。この試合も決まれば、国内ライト級はさらに沸騰するはずだ。

 試合後のリモート会見に応じた敗者は、「今後のことは年末年始、ゆっくりして考えたい。目指しているのが国内ではないので、自分よりランクが下の選手に負けたのは厳しいし、国内で、いちからやり直すのは簡単なことではない」と、両目周りを腫れさせながら気丈に語った。

 三代の戦績は11戦10勝(3KO)1分。伊藤の戦績は30戦26勝(14KO)3敗1分。

ボクシング・マガジン 1月号

文_本間 暁 写真_小河原友信

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