29日、東京・後楽園ホールで行われたWBO女子世界スーパーフライ級タイトルマッチ10回戦は、前王者・吉田実代(33歳=三迫)が王者・奥田朋子(38歳=ミツキ)に攻勢をかけ続けて2-1(96対94、96対94、94対96)判定勝利。昨年12月に奪われた王座を取り戻した。
文_本間 暁 写真_馬場高志
身長167cmの奥田と161cmの吉田。それに加えて奥田はアップライト(上体を立てる)、吉田はクラウチング(前傾姿勢)に構えるから、6cm以上の身長差を感じさせる。さらに、奥田は両腕を前方に突き出しているから、懐はいっそう深く見える。その位置からポンポンとショートを出して吉田の頭を小突くと、一転して深い右ストレート、さらに右アッパーカットを伸ばす。特に右アッパーは、ストレートとタイミングを同一に打つので、見分けがつきづらい。吉田は序盤、これらに苦しんだ。
上体の出し入れでなんとか対応していた吉田は、中盤に入るとさらに深いダッキングを繰り返す。奥田のストレート系ブローは、何度も頭の上を通り抜けていく。こうして王者の攻撃を空回りさせた吉田は、そのまま入り込む圧を強め、奥田の左に巻き込むように放つ右フックをヒットしていった。
吉田の圧力に押されてバランスを崩す奥田。見栄えでマイナスポイントとなった ロープを背負いながらカウンターを狙う奥田だが、吉田の前進を止めるためにクリンチを多用し始める。しかし、吉田はこれを振りほどきながら左右フックを奥田の顔面にねじ込んでいく。吉田の腕力に振り回されてバランスを崩す奥田も、ジャッジの印象はマイナスになった。
右フックをヒットして、さらに追撃を加えたい吉田だが、右足がついていかない癖は直り切っていない。上体だけがどうしても突っ込んでしまい、そこを奥田のショート連打が浅くだが捉える。吉田の攻勢を取るか、奥田のヒットを取るか、後半のジャッジが行ったり来たりしたのは、そこが分かれたからだ。
涙の奪冠。椎野トレーナー(右)とコンビを組んで実現した「最終回を取ることができたので、勝つことができた」と、椎野大輝トレーナーと吉田はホッと胸を撫で下ろした。
「まだまだ全然やりたいことができていない」と、これまた師弟は言葉をそろえた。連打の迫力は、前回の王者時代も含めて比べても増しているが、特に右足が残ったままでは、追撃はかなわない。そこができれば、念願のストップ勝ちも実現できるはず。「今日は勝ったことだけ良しとしよう」。そう言ってコンビは笑顔で目を見合わせた。真に強い世界王者になるための課題はたくさんある。それはふたりがいちばんよく知っている。
敗れた奥田は、吉田の前進を止め切ることができなかった。真っ直ぐ下がるだけでなく、左右へのステップも織り交ぜれば、もちろんまた違った展開になったはずだ。
吉田の戦績は17戦15勝2敗。奥田の戦績は12戦7勝(1KO)3敗2分。