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2019-02-02

ノール、マデン、シューラ  スーパーボウル巡る3名将の火花散る闘い

「アメリカズ ゲーム」という番組がある。各シーズンごとのスーパーボウル王者をテーマにしてNFLが公式に制作、日本でも、GAORAがNFLの放送をしていたころ、日本語字幕版をよく放送していた。

 番組中で、この時期になると思い出すエピソードがある。1974年シーズン、第9回スーパーボウルを勝ったピッツバーグ・スティーラーズの「アメリカズ ゲーム IX」のなかで紹介されるものだ。
 1974年シーズンのプレーオフはAFCのディビジョナルプレーオフ初戦で、スーパーボウル2連覇のマイアミ・ドルフィンズ(11勝3敗)と、ドルフィンズを上回る公式戦12勝2敗のオークランド・レイダースが対戦した。全米のメディアは、「スーパーボウル8.5」と表現して、当時実力最強と目された両チームの対決を盛り上げた。

 試合は、残り1分でレイダースが劇的なタッチダウンパス「シー・オブ・ハンズ」を決めて、逆転勝ちする。ドルフィンズはスーパーボウル3連覇の野望をここで断たれたのだった。

 レイダースの若き指揮官ジョン・マデンは、感動的な勝利の後で感極まったのだろう。「NFLのベストの2チームが戦った」とコメントする。それに激しく反発したのが、もう一方のディビジョナルプレーオフに出場したスティーラーズのヘッドコーチ(HC)チャック・ノールだった。

この年のスティーラーズは、QBテリー・ブラッドショーのパスが安定せず、ある記事では「プレーオフに進出した中で唯一QB不在のチーム」とまで書かれていた。当然スーパーボウルどころか、プレーオフも勝ち抜けないと見られていたという。

名RBのOJシンプソンを擁するバッファロー・ビルズを破った1戦、ロッカールームでノールは前日の試合後のマデンのコメントに触れ、静かに怒りを込めて言ったという。

「NFLでベストのチームはまだ試合をしていない。スーパーボウルは2週間後だ」。

DTミーン・ジョー・グリーンや、RBフランコ・ハリスを始めとする選手の心に火をつけたこの一言で、スティーラーズはAFC決勝でレイダースを撃破。スーパーボウルでも、ハリスの活躍で、ミネソタ・バイキングスを破って念願のスーパーボウル王者となる。

スティーラーズを率いてスーパーボウルに4回勝った名将チャック・ノール /Getty Images

ノールは第3回スーパーボウルでは、ボルティモア・コルツのディフェンスコーディネーター(DC)として戦い、対戦相手ニューヨーク・ジェッツのQBジョー・ネイマス「ギャランティー発言」の前に敗れる。その時のコルツのHCがドン・シューラだった。
 シューラはマイアミへ、ノールはピッツバーグへ行き、シューラが72年からスーパーボウル2連覇、しかも72年は無敗のパーフェクトシーズンまで達成する。その後を受けた、弟子のノールの栄冠だった。

QBアール・モラル、ボブ・グリーシーと話し合う、ドルフィンズの名将ドン・シューラ /Getty Images

ノールのスティーラーズは第9回、第10回とスーパーボウルを連覇。そして76年シーズン、3連覇を懸けたAFC決勝で、マデンのレイダースに阻止される。レイダースはそのまま、第11回スーパーボウルを制覇する。マデンの40歳での王座はHCとしては当時史上最年少だった。

当時史上最年少の40歳でスーパーボウル優勝HCとなった名将ジョン・マデン /Getty Images

1970年代は、AFCの黄金時代だった。リードしたのが、3人の名将だった。

1974年のポストシーズン、ノールは43歳、マデンは38歳、シューラは45歳だった。男盛り、働き盛り、コーチ盛りの3人の意地とプライドと能力が激突した戦いだった。

今季のNFLの総決算、第53回スーパーボウルは、日本時間2月4日朝(現地時間キックオフとなる。今年はニューイングランド・ペイトリオッツ(AFC)、ロサンゼルス・ラムズ(NFC)の対戦となる。

両チームのヘッドコーチ(HC)はペイトリオッツが名将ビル・ベリチックで66歳10カ月、ラムズは気鋭のショーン・マクベイで1月24日に33歳になったばかり。ベリチックが勝てば、1昨年の第51回で自身が記録したスーパーボウル最年長勝利HCの記録を更新する。一方で、マクベイが勝てば、10年前の第43回大会でスティーラーズのマイク・トムリンが作った36歳11カ月の最年少勝利記録の大幅更新となる。

この状況に、軽く苛立ちを覚えている。HCの能力は年齢に左右されるものではない。ベリチックも、マクベイも、スーパーボウルの場にふさわしい優れたコーチなのは言うまでもない。でも、悪い見方をするなら、ベリチックは老人、マクベイは若造だ。彼らに名を成さしめた、本来なら働き盛りの40代、50代のHCは、今季いったい何をしていたのだろうか。

敢えて名前を挙げれば、30代でスーパーボウル2回出場、昨シーズン13勝3敗で、今季もシーズン途中で5連勝しながら、終盤で4敗し失速した46歳のスティーラーズHCマイク・トムリン。
 シアトル・シーホークスDC時代にスーパーボウルを制し、アトランタ・ファルコンズHCとなってからは2年前はスーパーボウル、昨年はディビジョナルまで進みながら今季は7勝9敗、48歳のダン・クイン。

 この両人以外にも、「老人と若造」対決に、奮起してほしいHCはいっぱいいる。

 ラムズとペイトリオッツ以外、30チームの2019年シーズンは、もう始まっている。【小座野容斉】

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