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2021-09-03

ストレス環境下における子どもの心のサポート・3「大人のストレスマネジメント」

写真/BBM

新型コロナウイルスの子どもへの感染が広がってきている。部活動やクラブチームの活動が制限されたり、大会が中止になる、または大会に参加できなくなるということも今後増えてくるだろう。先の見えない状況は誰もがストレスを感じるもの。特に小中学生は感情をコントロールしたり、自分の気持ちを伝えることがまだ難しい年齢。そうしたジュニア世代を教える指導者は、どのようなことに気をつけたらいいのだろうか。
災害支援に携わる臨床心理士であり、日本ストレスマネジメント学会の常任理事も務める、桜美林大学リベラルアーツ学群准教授の池田美樹氏に、緊急時や非常時における子ども心のサポートについてお話をうかがった。全3回でお届けする。
※本稿は「ソフトボール・マガジン2020年11月号」掲載記事の再録です。


チームが対処できる範囲を明確に示す

 子どもの心のサポートのためには、指導者もまた、自身のストレスケアに気を配ることが大切だ。自粛期間中には、保護者からの個別の要望に苦慮する指導者の声も聞かれた。

「指導者はすべてのことに対応しなければならないわけではありません。ご家庭によって環境や考え方も異なるでしょうから、すべての責任を取ろうとするのは現実的ではないですし、実際にすべての責任が指導者にあるわけではありません。ですから、『こうした感染症予防の取り組みを行います』とチームの方針を発信し、それ以上のことは対応できないということを明確に示したほうがいいと思います。
 そのうえで、『事情があって参加しづらいということがあれば、できる範囲で対応するのでご相談ください』とお知らせするべきです。お互いにコミュニケートしながら、歩み寄れる範囲を決めることが大切です。

 そのチーム方針ですが、例えば日本ソフトボール協会やスポーツ庁など基準とするガイドラインをしっかりと定めて明示するといいでしょう。そうすれば『私たちができる感染予対策の方針』を示しやすいですし、保護者からの理解も得られやすいです。また、子どもにとっても、『このチームはこういう方針なのだ』と分かっていたほうが、できないことに対して気持ちの折り合いがつけやすいものです」

 さまざまな情報が飛び交っている現状だからこそ、その取り扱いには気を付けたい。たくさんの情報や最新の情報を収集することが正しい予防策につながるとは限らず、むしろそれが混乱や不安感を生む原因となることもある。
 池田氏は官公庁など、公的な機関による情報、あるいは出典が明示されている情報に絞るべきとの見解を示す。

「ニュースやSNSなどのメディアに流れる情報は発信する側の主張や意見が入るものであり、根拠が不確かだったり、不安をあおったりするようなものもあるということは、指導者も念頭に置いておく必要があります。特に一般の父兄が指導に参加していると、個人的に見聞きしたことを何気なく話してしまい、子どもたちを動揺させてしまうことがあるかもしれません。

 チームから提供する情報は、例えば、厚生労働省、文部科学省、スポーツ庁、各競技団体といった公的機関から発信されているものに限るという取り決めをしておくといいでしょう。お住まいの都道府県や市町村のホームぺージにも、選定された信頼性の高い情報が掲載されています。
 また、新型コロナウイルスについては、時間の経過とともに新しいことが分かり、予防策も変わっていくものですが、並行して公的機関のガイドラインも更新されていきます。チームの方針もそれに沿って変えていくということを、あらかじめ周知しておくことも必要です」


保護者も含めた積極的なコミュニケーション

 確かな情報を基にチームの方針を定め、チームの対応可能な範囲を明確にすることで、保護者との間でのトラブルを防ぐことができる。ただ、それは保護者からの意見をシャットダウンするということではない。
 どのチームも、保護者からの理解やサポートがあることで運営がなされているもの。そうしたチームにかかわるすべての人で情報を共有することこそが、現在のような困難な事態に立ち向かう原動力となる。

「小・中学生チームはお手伝いで参加してくれる保護者の方が少なくないと思いますが、一緒にチームを引っ張っていくうえでは、理解をしてもらうこと、協力してもらうことが大事です。
 チームに入団しようと考えている保護者や選手に対して、普段から『このチームは〇〇を目的として設立されました。チームの目標達成のためには△△のプロセスが大切だと考えていて、××の活動をしています』といった活動理念や方針を説明されていると思います。それと同じように、感染予防についても『こうした状況の中でも、子どもたちに安心して安全に、できる限りの活動をしてもらいたいので、こうした方針を取ります』と説明し、目標を共有することはとても大事です。理念が分かると、保護者も義務感ではなく、『じゃあ今は頑張ろう』と協力する気持ちが生まれてくるものです。

 先ほども述べたように、指導者がすべての責任を負う必要はありません。一人で抱え込むと、考えなくていいことまで考えてしまうものです。チームにかかわるすべての人で、『今こういうことが気になるよね』『こういったことが大変だよね』『今日はここが良かったよね』といった話し合いを行い、コミュニケーションを取っていくことが、ストレスをため込まないチームの雰囲気をつくっていくものだと思います」

 新型コロナウイルス予防には換気が重要だが、チーム内の“風通しの良さ”も大切。チームの理念と方針を共有し、子どもたちも自分のことをためらいなく言い合える環境を構築することは、「ウィズコロナ時代」においてより一層重視されていくだろう。

(文責=ソフトボール・マガジン編集部)


*さらに詳しく子どもへの心のサポートを知るために
以下に紹介するウェブページでは心のサポートに役立つ情報がまとめられています。

日本ストレスマネジメント学会
「【特設ページ】新型コロナウイルスに負けるな! みんなでストレスマネジメント」
https://plaza.umin.ac.jp/jssm-since2002/covid-19/

セーブ・ザ・チルドレン
「【情報まとめ】新型コロナウイルス感染症対策下における子どもの安心・安全を高めるために」
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=3192



<池田美樹(いけだ・みき)氏 プロフィール>
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院人間科学研究科修了後、東京都公立小・中学校スクールカウンセラー、武蔵野赤十字病院精神科 臨床心理係長などを務める。2015年に早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。16年より桜美林大学リベラルアーツ学群専任講師、19年より准教授。日本公認心理師協会災害支援委員委員長・日本臨床心理士会災害支援プロジェクトチーム副代表。
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