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2021-10-14

【ボクシング】渡辺雄二の衝撃戴冠から今日で30年。甥の高山涼深は今月30日、真価を証明する一戦へ

伯父・渡辺雄二さんの30年前のプログラムを手ににっこりの高山(写真/船橋真二郎)

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手練れの王者に6戦全KO勝ちの新進気鋭の挑戦者が挑む――。今からちょうど30年前の1991年10月14日、超満員の観衆を東京・後楽園ホールに集め、注目の日本ジュニアライト級タイトルマッチが行われた(現・スーパーフェザー級)。剛腕をうならせ、2回に一気に3度のダウンを奪ってKO勝ち。WBA7位にもランクされ、世界挑戦の機会をうかがっていた赤城武幸(新日本木村)を下し、スターダムにのし上がったのは弱冠21歳の渡辺雄二(斉田)。それから時を経た今月30日、渡辺雄二の甥で日本スーパーフライ級10位の高山涼深(たかやま・すずみ、24歳=ワタナベ)が後楽園ホールのリングに上がる。伯父の足跡をたどるようにデビューから無傷の4連続KO勝ち。来年のタイトル挑戦を見据え、試金石となる一戦に臨む。

文/船橋真二郎

センセーショナルな勝利で下馬評を覆す

30年前の10月14日、実力者の赤城を2回KOで下し、渡辺雄二が日本王者に(写真/BBM)
30年前の10月14日、実力者の赤城を2回KOで下し、渡辺雄二が日本王者に(写真/BBM)

 詰めかけた観衆は、当時の発表で3200人。規制が厳しくなり、現在ではありえない数の人、人、人で、文字どおり、立錐の余地もないほど埋め尽くされた。

 赤城はプロ15戦(14勝8KO1敗)ながら、宮崎・日章学園高から日大にかけて、110戦98勝60KO・RSC12敗のアマチュア戦歴があり、全日本選手権3連覇、国際経験も豊富で、当時のプロ転向組としてはずば抜けた実績を誇ったスキルフルなチャンピオン。渡辺もまた静岡・沼津学園高(現・飛龍高)時代にインターハイ準優勝、国体優勝、2年のときに全日本選手権に出場するなど、アマチュアキャリアがベースにあったが、粗削りでイキのいいパンチャー。技巧が若き原石を手玉に取るのか。強打が熟練の技を粉砕するのか。好対照な新旧の激突が話題を呼んだ。

 圧力をかけ、一発を狙う渡辺をジャブとフットワークで巧みに赤城がかわす。息づまる3分間を経て、展開が動いた。口火を切ったのは赤城だった。左ボディブローからの右ストレートで渡辺を大きくのけぞらせる。挑戦者をコーナーに追いやり、さらに後続打を浴びせようとした刹那だった。思いきりのいい渡辺の左フックが炸裂。両ヒザを折り、赤城がキャンバスに這う。この一撃で勝負は決した。ダメージを引きずる王者を追い回し、左フックで立て続けにダウンを追加。挑戦はまだ早い、と言われた渡辺がセンセーショナルな勝利で下馬評をひっくり返した。

 色白の端正なマスクも相まって人気を集めた渡辺はその後、10連続KO勝ちの勢いに乗って世界に挑むが、長身痩躯の技巧の王者ヘナロ・エルナンデス(アメリカ)の前に6回TKO負けで完敗。1階級下のフェザー級で東洋太平洋王者となり、再び臨んだ世界挑戦も3階級制覇王者ウィルフレド・バスケス(プエルトリコ)の強打にアゴを折られ、5回KO負けで跳ね返された。ライト級で2階級目の東洋太平洋王座を奪取するなど、それ以降も“3度目”を目指して戦い続けたが、果たせないまま。2000年10月に3回KO負けを喫し、30歳でリングを去った。

「高山家のヒーロー」に心揺さぶられて

2019年10月、神戸で日本ユース王座を奪取した高山を渡辺雄二さんが祝福(写真/船橋真二郎)
2019年10月、神戸で日本ユース王座を奪取した高山を渡辺雄二さんが祝福(写真/船橋真二郎)

「僕はまだ生まれてないときですね」

 赤城対渡辺の当時のプログラムを見せると高山はつぶやき、「やっぱり、イケメンですね」と微笑んだ。高山自身も今時のイケメン。色白でどこか似た雰囲気もある。父親が渡辺さんの弟で、幼いころに何度か会場で試合を見たことがあると後になって聞かされたが、記憶にはない。それでも自宅には伯父さんの現役当時の写真や記事が掲載された雑誌や書籍があり、渡辺雄二は「高山家のヒーロー」だった。

 1996年10月生まれ、間もなく25歳になる高山が古巣の斉田ジムでトレーナーをしていた伯父さんのもとを訪ねるのは中学2年、2010年10月4日のことだった。男ばかり4人兄弟で、次男ひとりだけがサッカーを辞め、ボクサーへの第一歩を踏み出した記念すべき日は、はっきり覚えている。小学生のころ、YouTubeのなかで「相手をぶっ倒す」姿を見て、心を揺さぶられて以来、ずっと憧れていたのだという。

 本格的にキャリアをスタートするのは駿台学園高から。入学前からワタナベジムに入門し、高校時代は部活とジムの両方で鍛えられた。法政大でキャリアを続け、タイトル獲得歴こそないものの、アマ通算51戦35勝(10KO・RSC)16敗の経験を積んで2019年2月、3回KO勝ちでプロデビューした。

目標は伯父を超えること

 高山が5戦目で迎えるのは日本、東洋太平洋ともにバンタム級9位の千葉開(横浜光=28歳)。ランクこそ下位ながら、デビュー時から評判が高く、今年5月に中嶋一輝(大橋)と空位の東洋太平洋王座を争い、判定で敗れて以来の再起戦となる。これまでで一番の実績がある“格上”で、1階級上の選手だが、「やるしかない」と迷いはなかったという。

7月21日、高山は1年9ヵ月ぶりとなる試合で初回KO勝ち(写真/BBM)
7月21日、高山は1年9ヵ月ぶりとなる試合で初回KO勝ち(写真/BBM)

 1ラウンドに3度倒し、鮮やかにフィニッシュした7月の試合が1年9ヵ月ぶりのリングだった。この間に3度、コロナ禍で決まっては流れを繰り返し、つらい思いをしてきた。「ここを勝ったら、一気に来年、(タイトルに)近づける」とモチベーションは高い。

 高校入学直後にサウスポーにスタンスを修正され、スタイルもずっと洗練されているところは異なるが、伯父さんと同じように相手をぶっ倒すことには強いこだわりがある。次も「倒して勝つしかない」と言い切った。

 実は渡辺さんが元世界ランカーで日本タイトル挑戦経験もあった植田龍太郎(ライオンズ)を4ラウンドでぶっ倒し、7戦目のチャンスにつなげたのも5戦目だった。デビュー当初から目標は「伯父を超えること」と言い続けてきたホープはまた一歩、渡辺雄二に近づくのか。真価を証明する戦いに臨む。

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