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2021-11-21

もう一度考えよう!女性アスリートの健康管理 「女性アスリートダイアリー」を活用したコンディショニング

女性アスリートならではの身体の特徴を知ることがパフォーマンスアップや目標達成につながる(画像はイメージ)

大修館書店から発売中の「女性アスリートダイアリー2022」。女性アスリートが、日々健康にスポーツをするためのコンディショニングに最適な手帳だ。
この手帳を編集した、女性スポーツ研究センター特任教授、シニアマネジャーの桜間裕子氏に女性アスリートのコンディショニングのポイント、手帳の活用方法を伺ったインタビューの再録を掲載する。
(記事はソフトボール・マガジン2021年3月号に掲載)



女性アスリートのための手帳



 順天堂大学にある「女性スポーツ研究センター」では、女性アスリートのコンディショニング、女性の健康・体力づくり、女性のリーダーシップやスポーツ参加促進などの研究が行われている。また、日本で初めて「女性アスリート外来」(順天堂大学医学部附属順天堂医院・浦安病院)も開設にも協働し、さまざまな方面から女性アスリートへの支援を行っている。

 その女性スポーツ研究センターが2012年から発行してきた「女性アスリートダイアリー」が、2021年に大修館書店より出版された。これまでは希望者のみに配布されていたが、書籍として発売されたことでより多くの人が手に取りやすくなった。その名の通り女性アスリートに適した内容となっており、月、週ごとの目標設定と振り返りができる「カレンダーページ」、毎日の身体の状態を記録する「コンディショニングページ」、そして女性の身体やコンディショニングの知識を学べる「女性アスリートのための基礎知識」が一冊にまとまっている。創刊から編集に携わってきたのが、同センターシニアマネジャーの桜間裕子氏だ。

「これまでプロの選手から中高生、指導者まで、さまざまな方に使っていただいてきました。選手と指導者の交換日誌のように活用している方もいますし、男性指導者から『毎年、基礎知識を読むのを楽しみにしています』という感想をいただいたこともあります。教員や指導者を目指している学生への教育ツールとして使っているところもあるそうです。『基礎知識』ページは、医学や栄養学の専門家の方々が監修しており、その年々の最新の研究結果が反映されています」

 自分の身体の変化に気付くだけではなく、なぜ変化が起きたのか、変化が起きたことによってどのような影響があるのかといったことを学ぶこともできるのだ。より詳しく「女性アスリートダイアリー」の内容を紹介する前に、なぜ女性アスリートが自身のコンディショニングを重視する必要があるかを考えていきたい。


栄養不足がもたらす障害



 図のFAT(Female Athlete Triad)とは、「過度のトレーニングや不適正な食事制限により生じる、女性アスリートの選手生命に大きな影響を及ぼす三つの兆候」について示している。食物などから摂取するエネルギーは、運動するときのパワーになるだけではなく、内臓を動かしたり、体温を維持したり、また成長期ならば骨や筋肉の成長などにも利用される。ハードで長時間の練習などにより消費エネルギーが多くなったり、体重制限のために食事量を減らしたりすることでエネルギー不足に陥いると、生命維持を優先するために、脳の視床下部から月経を止める命令が出され、「視床下部性無月経」になってしまう(無月経…月経が3カ月以上こない状態

 女性ホルモン(エストロゲン)は、カルシウムを骨に吸収させて骨量を維持する機能を持っているが、そのため、図が示すように、無月経が骨粗しょう症の発症につながってしまう。また、エネルギー不足自体も、骨粗しょう症の原因になる。骨粗しょう症は疲労骨折を引き起こし、選手生活を脅かすことになるのだ。

 桜間氏は、原因がエネルギー不足と気付かずに、何度も骨折を繰りかえしてきた選手もいると話す。

「研究の協力者となってくれた選手の中には、20歳くらいで5回以上の疲労骨折歴がある方もいました。これまでは、整形外科にかかっても、骨折の要因として無月経やエネルギー不足があることにはなかなか思い至らない状況でした。なので、病院に行っても『安静にして』と言われるだけで、しばらくは練習量を落とし、少し良くなったら練習を再開して、また骨折をして……ということになってしまったのです」

 また、長期的な影響もある。骨量(骨密度)は20歳ごろをピークとして減少していく。つまり、10代のころにどれだけ骨量を増加させられるかでピークの高さは変わることになり、それが60代、70代、80代になったころの骨折しやすさにもかかわることになる。

「ある団体で骨量の話をしたとき、19歳の現役選手が悲しい顔をして私のもとへやって来て『私は体重階級制の競技をやっていて、ちゃんと食事を取らずに15歳のときに無月経になってしまったんですが、私の骨はもうダメですか?』と聞いてきたことがありました。食事内容を見直したり、ジュースじゃなくて牛乳を飲んだり、今からでもできることはあるよとアドバイスしましたが、彼女以外にも『中学生のころに知っていれば……』と言う選手は多くいます」

 当然10代の栄養状態は身長の伸びにもかかわる。一時のエネルギー不足が、競技者人生、競技を終えた後の人生にも影響を及ぼすことになるのだ。

 では、FATに陥らないためにはどうすればいいのだろうか。まずは、女性スポーツ研究センターが作成した「FATスクリーニングシート」で、自身の状態をチェックしてみること。このFATスクリーニングシートは女性アスリートダイアリーからもダウンロードページにアクセスできる。

「アメリカスポーツ医学会(ASCM)がFATのスクリーニングを行う際に推奨している質問に、日本の文化や生活習慣に合わせた質問を加えました。FATかどうかの判断は医師がするものですが、まずは『自分はFATかもしれない』と疑ったり、自ら気付いたりすることが大切です」


*「FATスクリーニングシート」は女性スポーツ研究センターHP内でダウンロード可能
https://www.juntendo.ac.jp/athletes/research-products/conditioning/fatscreening/download.html


競技者がなりやすい貧血

 もう一つ、気を付けたいのが貧血だ。貧血は「エネルギー不足のサイン」とも言われ、貧血になる人はFATにもなりやすい。

 乳酸がたまることで筋肉の血管内の赤血球が壊れやすくなるため、アスリートは男性でも貧血になる選手が多い。さらに女性の場合、月経による出血があることに加え、ヘモグロビンの量が14歳ごろをピークに減少していくことや(男性は思春期以降増加)、体内の鉄を再利用するのに必要なハプトクロビンが男性よりも少なく、鉄不足になるとなかなか回復されにくいという傾向があるため、より一層貧血には気をつけなければならない。

 貧血の症状としては、疲れやすい、息切れやめまいがするといったもののほか、持久力や動体視力の低下、判断力や集中力の低下、やる気の低下などが挙げられる。ソフトボールであれば、例えばサインの読み間違いといった単純なミスが続く場合には、貧血を疑ってみていいだろう。

「貧血かどうかの判断には血液検査が必要になります。そこで注意したいのは、フェリチンの量を検査するということ。鉄をお金に例えてみると、ヘモグロビンは財布、フェリチンは銀行口座の役割だと言えます。財布にお金がなくなったら銀行口座から引き出してくるように、血中の赤血球内のヘモグロビンが減ると肝臓に蓄えられているフェリチンから鉄が供給され、そのためヘモグロビン濃度は一定に保たれているのです。つまり、ヘモグロビンの数値に問題はない状態でも、供給源であるフェリチンが枯渇している可能性があるということです。ですから、貧血が疑われる場合は、ヘモグロビンだけでなく、フェリチン値を検査することをおすすめします」

 鉄の摂り過ぎは内臓の機能障害を引き起こす恐れがあるため、鉄分サプリメントの摂り過ぎや安易な鉄剤注射は危険視されている。貧血治療は医師の指導のもとに行い、予防においても食事から鉄を摂るように心掛けたい。


除脂肪体重での体調管理

 こうした女性アスリートが陥りやすい障害を防ぐためには、やはり十分なエネルギー摂取が必要となる。しかし、体重制限のある階級制競技や審美系競技をやっているわけではなくても、「太りたくない」「今の体重をキープしたい」と思っている選手も多いはずだ。

 そんな選手たちに向けて、女性スポーツ研究センターが女性アスリートダイアリーを通して伝えたいことが、LBM(Lean Body Mass:除脂肪体重)によるコンディショニング管理の推奨だ。LBMとは、体重から脂肪の重さを除いた、筋肉、骨、内臓、血液等の総重量のことを言う。

「これまで大半の選手は、体重や体脂肪率でコンディショニング管理をしてきたと思います。そして、身長の伸びが止まっている場合にはベストの体重をキープすることが目標となり、体重や体脂肪率が増えたら『減らさなければならない』と考えていたでしょう。でも、減らすことはストレスであり、ネガティブな気持ちにもなりがちです。そこで、『LBMを増やす』というように意識を変えてほしいのです。筋肉を大きく、または質を良くしたり、骨を強くするというように、増やすことに意識を置くと、前向きでポジティブな気持ちでコンディショニングに臨めます」

 女性アスリートダイアリーにはLBMの算出方法のほか、自分の競技に適した体格の指標である「LBM/H」、身長とLBMのバランスを示す「LBMI(Lean Body Mass Index:筋肉指数)」の算出方法も記載されている。西別府病院スポーツ医学センターのセンター長である松田貴雄氏が開発した、LBMIが適切に増加しているかをチェックできる『スラリちゃん、伸びマッスル表』の使い方も紹介されており、読むだけでLBMによるコンディショニング方法を理解できる。

「バレーボール女子日本代表では、5年前ほどから『伸びマッスル表』を使ってコンディション管理をしています。トレーナーの方にお話を伺ったところ、『体重を減らせ』といった言葉は使わず、『トレーニングは十分なのにLBMが増えていないから、食べる量を増やそう』というように指導しているそうです。また、LBMが増加したことで、スパイクの強度が増した、重いボールが打ち込めるようになったというだけでなく、スタミナにも変化が見られたようです。バレーボールの世界大会は、予選リーグを勝ち抜いた後に決勝トーナメントを戦わなければならず、勝ち進むには持久力が不可欠ですが、連戦の中でもここぞというときに踏ん張れる力が付いてきているとおっしゃっていました」



▲『女性アスリートダイアリー2022』スケジュールページ


▲『女性アスリートダイアリー2022』コンディショニングページ


変化に気付ける知識を学ぶ

 管理というと、制限があったり苦しいものというマイナスなイメージがつきまとうが、そうではなく、前向きな気持ちで自身の身体や競技に向き合えるように後押しするのが、女性アスリートダイアリーだ。

「目標設定は大事ですが、中高生などはとりあえずやってみて、それができたら次をやってみるというように、積み上げ式で目標を決めてしまい、のちのち『本当にこれが自分のやりたいことだっただろうか』と悩むことが少なくないと思います。そうではなく、トップアスリートがやっているように、大きな目標から逆算して、月や日ごとの小さな目標を決めていく。『カレンダーページ』はそうした逆算の目標設定が分かりやすくできるように作られています。

『コンディショニングページ』は、1日ごとに練習スケジュール、睡眠時間、脈拍、体温、体重やLBM、月経、排便、練習強度や疲労度、食事内容といった細かな項目を記入するようになっています。これを縦軸(1日ごとの状態)、横軸(日ごとの変化)で見比べることで、自分のコンディショニングの変化が分かります。

『基礎知識』は先ほども述べたように、専門家監修で最新の研究結果が反映されています。また、QRコードを掲載し、より詳しい情報にアクセスできるようにもなっています」

 誌面の内容だけではない。手書き式の手帳であることもこだわりの一つだ。

「実は、構想時点からアプリとして開発するという話はあったんです。でも、選手たちからは『書きたい』という声が多かった。それに手帳だからこそ、スランプになったときに『あのときはどうだったのだろう』と見返したり、違う年で比較したりすることもできる。年ごとに手帳が増えていくことで、視覚的にも自分の積み重ねてきたものを感じることができると思います」

 日本の女性スポーツ研究はまだ始まったばかりだが、それでも大きく前進しているという。桜間氏はさらに多くの選手たちが心身とも健康にスポーツに向き合える環境が広がっていくことを願っている。

「女性アスリートダイアリーを継続的に使用してくれている選手たちは、自分の身体のどこが、どうして変わったのかをちゃんと答えることができます。そうしたことを、ぜひ中高生の部活動でも取り組んでもらいたいです。自分自身が変化に気付かなければ身体は変わっていきませんから。『基礎知識』のページは大切なことして載せていないので、暗記するくらい読んで、使い込んで、自身の競技に役立てていただきたいです」

 さまざまな面から女性アスリートを支えてくれるこの手帳を、選手のみならず、指導者や保護者もぜひ手に取ってみてほしい。


 
『女性アスリートダイアリー2022』
発行:大修館書店
発売日:2021年10月26日
ページ数:96ページ
対応月:2022年1月~2023年3月
判型:A5判
ISBNコード:9784469269239
価格:880円(税込)

大修館書店「女性アスリートダイアリー2022」特設サイト

女性スポーツ研究センターホームページ


11月24日(水)発売のソフトボール・マガジン1月号では読者プレゼントとして5名の方に「女性アスリートダイアリー2022」をプレゼントします!

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