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2018-11-08

RBホワイト馬車馬の走りとQBイカイカの余裕 東京ガス、ディアーズに渾身の初勝利

社会人アメリカンフットボール・Xリーグのワイルドカード(WC)プレーオフ、東京ガスクリエイターズ対LIXILディアーズの一戦は、東京ガスがチーム史上初めて(鹿島時代も含め)ディアーズを破って、ジャパンXボウル(JXB)トーナメント準決勝に進出した。東京ガスは第4クオーター残り25秒で同点に追いつかれたが、延長タイブレーク(TB)で振り切った。

【東京ガス vs LIXIL】馬車馬のごとく走り続けた東京ガスRBホワイト=2018年11月4日 撮影 Yosei Kozano

東京ガス○14<延長TB>7●LIXIL(11月4日、横浜スタジアム)

東京ガスで最も強力なユニットはOLだ。下位「バトル9」では頭一つ抜けたサイズとフィジカルを持つ。過去数年、チームの指揮官が変わっても、チームの基本オフェンスは、強いOLによるゾーンブロックとランだった。

今秋はそこに、RBのアンドレ・ホワイトが加わった。米ブライアント大(NCAAのFCS=Div.1AA)時代はDBだったが、卒業後は欧州のチームを渡り歩き、そこでRBとしてもプレーを重ねた。187センチ100キロとLB並みの体躯で、インサイドを突く力強さとアウトサイドをまくるスピードもある。

【東京ガス vs LIXIL】東京ガスOL平松のブロックを生かして突進するRBホワイト=2018年11月4日 撮影 Yosei Kozano

下位チームとの対戦では温存されたためスタッツはそれほどでもないが、オール三菱ライオンズ戦23回129ヤード、明治安田パイレーツ戦17回174ヤードと、重要な試合では必ず結果を残してきた。この試合では、ホワイトがまさにワークホースとして、徹底的に起用された。

東京ガスは、ファーストドライブは13プレー30ヤード。2度目のオフェンスシリーズは11プレーで53ヤード。反則による罰退や、ファンブルロスト、フィールドゴール(FG)失敗などで、得点には結びつかなかったが、第1クオーターのタイムオブポゼッションは12分中、11分4秒に達した。

それでもLIXILはパンター兼任のK青木大介が絶妙なパントを決め、ディフェンスも勝負所でホワイトを止めて、得点を防いだ。

【東京ガス vs LIXIL】東京ガスLBイートン、池田のプレッシャーを受けるLIXILのQB加藤=2018年11月4日 撮影 Yosei Kozano

LIXILは、オフェンスが苦戦した。前回の対戦では61ヤードに封じられたランが、それ以上に出なかった。白神有貴も走れなかったが、他のRBでは歯が立たなかった。後半開始からルーキーQB馬島臨太郎を投入したが、馬島のオプションも、ほとんど決まらず。2シリーズで、QBを加藤翔平に戻した。その加藤も、東京ガスディフェンスのブリッツに苦しみ、なかなかボールを進められなかった。チャンスらしいチャンスはほとんどなく、第4クオーターの43ヤードFGは失敗した。

第4クオーター半ばまで0-0と、現在のXリーグではまれに見るロースコアの展開となったが、東京ガスはまだ余裕があった。QBイカイカ・ウーズィーを、ショットガン隊形ではなくCのすぐ後ろに位置するセットバックでプレーさせていた。本来はGの渡邉将人をTEやFBとし、イカイカはセットバックからのドローで、ホワイトにボールを渡し続けた。

【東京ガス vs LIXIL】東京ガスのオフェンスはショットガンではなくセットバックを多用した=2018年11月4日 撮影 Yosei Kozano

東京ガスの徳島秀一オフェンスコーディネーターは「いろいろ用意してきたけれども、(雨という)天候もあったので、ランで行こうと方針転換をした」という。前半を終えて、OLが勝てるという手ごたえがあったので「ゴリゴリのヘビーフォーメーションからヘビーなランをやっていったほうがいいということになった」という。

ホワイトに徹底的にボールを集める東京ガスに対して、LIXILのディフェンス陣は、セカンダリーの執拗なタックルで対抗した。第4クオーター中盤まで、ホワイトはラン30回で132ヤード、パスキャッチでも3回23ヤードを進まれたが、20ヤードを超すロングゲインは一度も許していなかった。

しかし、第4Q9分、東京ガスはそれまで執拗にインサイドを突いてきたホワイトが左のアウトサイドを突く。左タックルの外に渡辺、その外にTE鈴木翔太を3ポイントでセットさせて、完全にオーバーパワーしていた。DBが本職のホワイトのスピードにLIXILディフェンスは付いていけなかった。32ヤードのタッチダウン(TD)ラン。堤防が決壊するように、ついにビッグプレーが決まった。

【東京ガス vs LIXIL】第4クオーター9分、東京ガスRBホワイトが32ヤードを走って先制TD=2018年11月4日 撮影 Yosei Kozano

直後のLIXILオフェンス、QB加藤のパスを東京ガスDB富田秀勝がインターセプト。残り1分39秒、決着は付いたかに思えた。しかし、LIXILは残されたタイムアウトをすべて使って、東京ガスのオフェンスを3回2ヤードに食い止めると残り1分8秒から最後の反撃に出た。

【東京ガス vs LIXIL】第4クオーター10分、東京ガスDB富田がLIXILのQB加藤のパスをインターセプト=2018年11月4日 撮影 Yosei Kozano

この試合で、東京ガスが唯一浮き足立った場面だ。東京ガスディフェンス陣は、7点リードで、上位チームの2ミニッツオフェンスを相手にした経験など皆無だったからだ。2度のパスインターフェアを取られて、LIXILにゴール前まで進まれると、残り25秒で加藤からWR宮本康弘へのTDパスを許し、同点とされた。

勝利を目前にして気が焦り、同点にされ、延長TBとなった。本来なら百戦錬磨のLIXILが優位のはずだった。しかし、東京ガスにはまだ余裕があった。QBイカイカにまだ十分な余力と、この日のために準備しながら使わなかったオフェンスのプレーが残されていたからだ。

延長TB、1回表。東京ガスはイカイカがカレッジ時代から慣れているショットガンに戻した。ホワイトのダイブと見せて外を突くオプションのランでファーストダウンを奪った。その後サードダウン15ヤードでは、QBキープと見せかけて16ヤードのパスを決めてゴール前まで攻め込んだ。そしてゴール前2ヤードからWR荻原汰二郎に浮かせたパスを投げ込んだ。萩原はスライディングしながらキャッチ。あっさりTDをうばった。

1回裏。LIXILのフォースダウン1ヤード。LIXIL加藤はフラットゾーンに走ったベテランTE長谷川賢吾にパスを投げた。しかし、タイミングが合っていなかった。ボールはフィールドに落ち、試合は終わった。

 帰途スタジアムの出口で、RBホワイトと出くわし、少し話をした。ラン38回176ヤード、パスレシーブ3回23ヤード、キックオフリターン2回41ヤードと、計43回ボールを持って240ヤードをゲインしたホワイトだが、足を引きずるとか、どこかを痛めたような激闘の痕跡はみじんも感じさせなかった。米国人フットボーラーの強さを今更ながら痛感させられた。

【写真・文:小座野容斉】

【東京ガス vs LIXIL】東京ガスQBイカイカがドローでRBホワイトにハンドオフ=2018年11月4日 撮影 Yosei Kozano

◇東京ガス・板井征人ヘッドコーチの一問一答

・今の感想は

ここで勝つことが、今季の目標だった。(勝利という)結果が出るとは思っていなかった。そういう意味では皆よく頑張ってくれた。

・イカイカをショットガンではなくセットバックで使っていた

イカイカは基本はパサー。ハワイ大学ということで、ショットガンというイメージがあるが。高校の時はいろいろなことをやっていたはず。セットバックからもプレーアクションパスをちゃんと投げることができる。イカイカ自身も、ショットガンでなければ駄目だということはまったくない。RBの力を生かしたり、イカイカのプレーアクションパスを生かすには、セットバックもいいのではないかということ。

・徳島オフェンスコーディネーターに聞いたが、イカイカは意外と走るのが好きではないそうだが

ただ、今のXリーグでは事例的には、パスだけで投げ切って勝ったというQBはほとんどいない。そこはイカイカもわかっている。最後の(延長TBの)場面では、ちゃんと走ってファーストダウンも取った。まだ若いけれど、日本のフットボールに慣れてきて、だんだんに向上してきている。

・板井さんがHCになって2年目。きっちり結果を出したが

日本人選手の底上げが、まだそれほどできていない。そこをこれから強化していかないと。いまは、まだ「はりぼて」というか、結果だけ出てしまって。中身は整っていない。日本一を本当に目指せるようなチームになっていない。そういう部分をもっと強化しなければ。

・第2節の対戦では、LIXILのパス攻撃にディフェンスが苦しめられて、前半で大きく失点したが、今日はきっちり抑えた。

守り方自体が、今回は違う。チームとしては、LIXILとは2回やることになるから。守り方も攻め方も2回やるつもりで用意していた。そういうことは皆で言っていた。個人の力量が上がって、今回の結果になったかと言えば、疑問なところがある。

・OLの働きは

OLは、ユニットとしては、チームの中で一番努力している。コンスタントに良く練習するし、風呂も一緒に入りに行くとか(笑)仲が良い。コミュニケーションもよくとれている。一番頑張っていると思う。

・来季、トップリーグの「X1スーパー」でプレーすることが決まった。それを踏まえて、次戦のパナソニック戦に向けては

来季の課題と一緒で、フィジカルの差が如実に表れる試合になるのではないか。今まではフィジカルトレーニングが足りていなかったので、もうすでに今季から始めてはいるが、サイズアップ、脂肪を落として、筋力をアップする。それをフットボールのプレーにつなげないと、富士通とかパナソニック相手には勝負にならない。その課題をもっと頑張っていきたい。

・東京ガスを率いて、このチームはここまでやれる、こういうチームに成れるというのがあると思うが、現時点ではどれくらいの達成度合いか

まだ始まったばかりで、今日はたまたま結果が出たが、まだやりたいことの2割くらいしかできていない。プレーだけではなく、地域貢献とか、フットボールの普及とかも含めて、トータルでもっと頑張っていけたらと考えている。

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