アディゼロ サブ2東京マラソンで2時間8分45秒を叩き出した宮脇千博選手(トヨタ自動車)とアディゼロ サブ2を最も多く売る店長、角田みどりさん(ステップスポーツ新宿本店)が、アディダスの最速モデルであるアディゼロ サブ2について語り合った。
――東京マラソンでの自己ベスト更新、おめでとうございます。
宮脇 上の選手たちのタイムがすごかったので自分のタイムがよかったのかどうか、複雑ではあるのですが、目標を大きく上回ったのはよかったと思っています。
――目標は、どのあたりに置いていたのですか。
宮脇 2時間10分を切ること、MGC(※)の切符をとるというのが一番でした。とは言っていたものの、1月にあまり調子がよくなかったので、今回は走れても結果は期待できないんじゃないかというくらいの気持ちでした。結果は、予想外というか、いいほうに転んでくれたなと思います。
※MGC=マラソングランドチャンピオンシップ。東京オリンピックのマラソン代表を選考するレース。優勝すると東京オリンピック代表に内定。さらに2位、3位のうち「MGC派遣設定記録」を突破した最上位者が代表に内定する。出場するために、MGCシリーズの大会で指定の順位とタイムで走れば、MGCへ出場できる。東京マラソンは、1-3位は2時間11分00秒以内。4-6 位で2時間10分00秒以内。
――レース後のエレベーターのなかで監督と一緒になって、靴に助けられたとおっしゃっていました。実際にアディゼロ サブ2はどうでしたか。
宮脇 東京を含めてこれまで4回、マラソンを走っていますが、今までマメに苦しんできました。終わったあとに必ずマメができていたんです。今回は、1つもマメができずに、脚へのダメージも意外に少なかったのです。靴のおかげだと思います。
――最初にサブ2に足を入れたのは、いつでしたか。
宮脇 2月の初旬です。
――3週間しか走っていなかったのですか!
宮脇 練習で履いたのも3回だけです。東京マラソンの前に履いたのはそれだけでした。
――最初にアディゼロ サブ2を手に取ったときの印象を教えてください。
宮脇 アディゼロ サブ2を履けることを去年からすごく楽しみにしていたんです。早く履きたいと思っていました。届いて箱を開けて、手に持つと軽い(27cm片足重量160g)。自分はフラットな靴が好みなので、足を入れた瞬間、これはいいなと思いました。走ってみたら持ったとき以上に軽い。さらに反発が強くて、さらに柔らかい。これはいいなと思いましたね。
――東京マラソンをアディゼロ サブ2で走ろうと、ずいぶん前から考えていたのですか。
宮脇 履いてみて、よほど合わないことがない限りは、履いて走りたいと思っていました。アディダスの担当者にもずっと早くほしい、早く履きたい、なんとかなりませんかと催促していたので、このシューズで走るつもりでいました。
――アディゼロ サブ2を履く前に履いていたのは、アディゼロ タクミですか。
宮脇 自分はアディゼロ タクミではなく、アディゼロ ジャパンでした。
――ジャパンとの違いを教えていただけますか。
宮脇 アディゼロ サブ2は、ジャパンよりフラットで、より軽くて、より反発が強いというイメージですね。
――角田店長はお客さんからこの2つのシューズの違いについて聞かれることが多いのではないですか。
角田 お客さんのなかでは、アディゼロ ジャパンやアディゼロ タクミを履いている人が多いので、サブ2は何がジャパンとは違うのですかとか、アディゼロ タクミのセンとはどう違うのですかと聞かれることはよくあります。
――そういうときにはどういうふうに説明するのでしょうか。
角田 宮脇選手もおっしゃっていたように、サブ2は断然軽いですし、フィット感もいいです。反発力もジャパンやタクミのセンより強くなっています。レース用に使ってくださいという感じで伝えています。
――宮脇選手は、東京マラソンの前に3回しか使わなかったということですが、どういうトレーニングで使ったのでしょうか。
宮脇 東京マラソンを想定した最後の追い込み練習や、仕上げの練習で使いました。靴が消耗した状態でレースに臨みたくなかったので、できるだけ少ない回数で、靴を温存して当日に合わせようと思っていました。ですから、最後の大事な速いペースでの20km走と直前の仕上げで速いペースで走るときに使いました。
――最長で20kmくらいということですね。走り込みではなかった…。
宮脇 走り込みはジャパン ブーストでやっていました。レース前にサブ2は20㎞までしか履いてはいません。
――実際にアディゼロ サブ2で42kmは、レースで初めてだったわけですね。そのときの印象をお聞かせください。
宮脇 正直、東京マラソンではスタートしてあれ? これは走りにくいぞと(笑)、ちょっと思っていて…。それは、靴が悪いというのではなくて、自分の体調がよくなかったんです。今日は調子がよくないぞと思っていました。ところが20㎞くらいで、すっと体が軽くなって、足の接地感が変わったんです。そのときにこの靴、めちゃくちゃいいと思ったんです。レース中にサブ2の履きこなし方というわけではないのですが、この靴の生かし方がわかったんです。
――そこを詳しく聞きたいのですが、何が違ったのですか。
宮脇 最初は集団のペースが速かったこともあって、スピードに対応するためにぐいぐい蹴ってしまっていました。20㎞くらいでペースが落ち着いたこともあって、足を置いていくというか、足をトントントンと置くだけのイメージに変えました。変えたというか、ペース的に変わったときに、このシューズのよさがわかったというか、蹴らないほうが進むんじゃないかなと思いました。
――蹴らなくてもペースを維持できるという感じですか。
宮脇 そう、むしろ蹴らないほうが進むというイメージですね。
――置くだけで反発をもらえるという感じですか。
宮脇 そうです。足を置くだけで反発が生まれるようなイメージです。蹴ろうとしたほうが、沈み込みが大きい分、進みにくい。ほんとうにそうなのかわからないのですが、そんな感じには思いました。
――そういう感覚を今までのシューズで得られたことは…。
宮脇 ないですね。
――接地の場所が変わるとかということでもなく…。
宮脇 自分はもともと踵から接地するタイプなので、足の裏全体を地面につけて、最後に蹴るというより離しているというイメージで走ります。その走り方が特別変わったというわけではありません。でも、蹴るというより、足を置くという意識のほうが、この靴には合っていると感じました。
――20㎞からはあまり自分の力を使わずに行けたという感じですか。
宮脇 そうですね。マラソンを走るとこれまでは足の裏がジンジンしてきたのですが、そういうこともなく走れました。20km以降は、集中したモードに入ったということもあるのですが、いい意味でサブ2のことや自分の周りのことがすっと消えたというか、意識をしないで走れたのです。そこからは、自分がサブ2を履いていることも考えていませんでした。レースを走り終えて、サブ2のおかげでダメージが少ないんだと思ったのです。走っている最中、20km以降は靴のことは考えていませんでした。
――レースを走り終えた直後に靴に助けられましたと言っていましたね。
宮脇 2分くらい助けられたと言いました。
――やはりそんな感覚でしたか。
宮脇 この練習をこれくらいの感覚で走れればこれくらいのタイムがでるというイメージがあります。事前の練習の状況から考えると、本当に2分くらい速いのではないかなと思います。マラソンではコースだったり、気象条件だったり、いろいろな要素があります。条件がどれだけよくても、マメがつぶれたり、脚が痛くなったりしたら、余力が残っていたとしても失速はしてしまいます。東京マラソンではそういう心配が全くなかったですし、そういうことを全く感じませんでした。条件が違うので比較するものがないのですが、今回は、サブ2でマイナス2分という感じはしています。2時間8分台のタイムは靴に助けられたというか、靴の力がうまく働いた結果だと思います。
――角田さん、買われたお客さんからのフィードバックはありますか。
角田 レースで走られた方からのフィードバックはまだありませんが、AR(アディダスランナーズ)で走られた方からは、軽くていいとか、反発をもらえるというような話を聞きます。3月16日に発売されたばかりなので、マラソンを走った感想は聞けていません(注:対談は3月21日に行われた)。
――板橋シティマラソン(3月18日開催)では、アディゼロ サブ2を履いているランナーを何人か見かけました。
角田 お客様からも見たという話は聞きました。板橋シティマラソンは、発売された直後だったので、ぶっつけ本番で履かれた方が多かったのではないでしょうか。購入されたお客様には、レースで履いたら感想を教えてくださいねと言っているので、これからコメントをいただけると思います。
――シューズの履き分けについてですが、距離走はアディゼロ ジャパンで行っているのですね。
宮脇 基本的にはほぼすべてのトレーニングをアディゼロ ジャパンで行っています。スピード練習以外はジャパン ブーストです。ジャパン ブースト以上の厚いソールの靴は基本的には履きません。合宿中のアップ練習や午前中に40㎞走をやった日の午後は足がジンジンしているので、そういうときはアディゼロ ボストン ブーストやエス ノバ グライドを履くことはあります。基本的にはアディゼロ ジャパンの使用頻度が一番高くて、スピード練習はアディゼロ タクミを履くのですが、基本的にはジャパンです。距離走もジョグもアディゼロ ジャパンです。ペース走もキロ3分10秒から3分15くらいまでのトレーニングはジャパンで走ります。
――アディゼロ ジャパンが好きだからですか。
宮脇 ジャパン ブーストが好きですね。アディダスさんに3~4年前からサポートをしていただいています。最初に、ブーストが入ったアディゼロ ジャパンが発売されたときに履いて、めちゃくちゃよかったんです。その靴が履きたくて、すべての靴をアディダスに変えました。そこからはアディゼロ ジャパンは自分にとって絶対にはずせないシューズになっています。
――「これが履きたいからアディダスに変えたい」と。
宮脇 そうです。ジャパン ブーストを履きたくてサポートをお願いしました。ジャパン ブーストがなかったらアディダスを履いていないかもしれません(笑)。
――最初のジャパン ブーストの印象はどのようなものでしたか。
宮脇 ジャパンというより、ブーストのソールの印象がめちゃめちゃよくて、柔らかいのに反発が強い。柔らかい靴は普通、横ブレがある。でもジャパンは柔らかいのに横ブレがない。それがすごくいいと思いました。自分のような踵接地では、踵の高さがある靴は、ギュッとつぶれるだけつぶれて、横にぶれるということがある。でもジャパン ブーストは、踵でガンと入ってもすっとうまく力を逃がしてくれるので、それがめちゃめちゃ気持ちいいんです。
――それまで履いていたシューズとは違ったのですね。
宮脇 違いましたね。高校からずっと別のメーカーのシューズを履いていたので、その感覚に衝撃を受けました。
――ジャパン ブーストを気に入っていたのに、アディゼロ サブ2はそれを超える期待があったということですね。
宮脇 サブ2は見た感じがフラットで、反発が強いということは聞いていました。東京マラソンでサブ2を履きこなすために、エアロバウンスPRを去年の秋からずっと履いて、サブ2用に脚づくりをしていました。
――エアロバウンスで脚づくりとはどういうことですか。
宮脇 エアロバウンスはジャパン ブーストに比べるとソールが硬くてフラットで、普通に走るとベタベタとなってとあまり進まないんです(笑)。ブーストと比べると反発しないので、トレーニングシューズとしてはいいんです。フラットなので履きやすい。エアロバウンスPRでジョグしたり、集団走をしたり、脚づくりをしました。それくらいサブ2を履きたかった(笑)。
――アディゼロ サブ2は、本当に待ち焦がれていたシューズなのですね。イメージしていたものと実物との違いはありましたか。
宮脇 アディゼロ サブ2は、もっとソールが硬いと思っていました。薄い靴で脚づくりをしていたのですが、思ったより柔らかかったです。また、もっと癖がある靴なのかなと思っていました。他のメーカーの靴では、練習をしないと履けないということを聞いていたので、サブ2も同じように癖が強いのではないかと思っていました。ところがまったく癖がない、履きやすいです。
――足入れした感覚はどうでしたか。
宮脇 サポートももちろんしっかりしていますが、フィット感がすごくいいのと、通気性がめちゃくちゃいいなと思いました。僕は、ジャパン ブーストでもムレるので、ムレが一切ないのはいいですね。表面に補強材がないじゃないですか。だから、アッパーは柔らかいだけなのかなと思ったら、結構、がっちりサポートされている。足の踵の部分が低いので、履いたときに踵が抜けそうで怖いなと思ったのですが、周りがぐっと固めているので、踵のサポートもぜんぜん問題がない。一番いいと思ったのは通気性です。
――走りながらのムレは気になりますか。
宮脇 自分は手汗と足汗をめっちゃかくんですよ(笑)。緊張すると汗をかくので、スタート前は足の裏に汗をかいている。今までのシューズでは走りだしはちょっと気持ち悪いくらいなのですが、サブ2では気になりませんでした。
――マメができる原因かもしれませんね。
宮脇 そうだと思います。サブ2は通気性がいいから、東京マラソンではマメができなかったのかもしれません。
――アウトソールがジャパン ブーストとタイプが異なります。
宮脇 見ただけでは滑りそうじゃないですか(笑)。滑りそうだから、これは雨が降ったら使えないかなと思ったんですよ。でも、サブ2のソールは全然滑らないし、グリップする。ジャパン ブーストに比べたらグリップもいい。また、硬い素材で路面をひっかくタイプのアウトソールは、濡れた路面などでは案外、滑るんです。なので、そういうのと比べても、このアウトソールはいいですね。
ソールで好きなのは、踵部と前足部の間が離れていない構造です。自分の走り方は踵から入って足の裏全体で進むので、アウトソールが全部つながっていたほうが気持ちいい。足の裏の感じも、サブ2のほうがいいのです。
――セパレートソールの場合は、継ぎ目のようなものを感じるということですか。
宮脇 セパレートソールの場合は曲げたときに、曲がる場所が限定されてしまうことが多い。サブ2はどこでも曲がるので、踵から接地をしていくと、きれいにスッと前に進んでいきます。カクンッと落ちる感覚がありません。
――トラックは走りましたか。
宮脇 自分はトラックは硬い靴が好きなので、トラックではもう少し硬いシューズのほうがいいですね。練習であれば、サブ2はめちゃめちゃ走りやすいです。
――それは、シューズの何が関係しているのでしょうか。
宮脇 ソールの硬さです。トラックのタータンは柔らかいので、柔らかい路面に柔らかいシューズでは、反発が弱いのです。柔らかい路面ならもう少し硬いソールの靴でいいと思います。
――トラックを走るお客さんには、角田店長はどのようなアドバイスをされますか。
角田 宮脇選手がおっしゃったように、トラックでは硬いシューズを好まれる方が多いですね。アスファルトと比べると反発ももらいたい。タータンはクッションもあり、走る距離も短いので、そういう方にはタクミシリーズをおすすめしています。特に、スパイクを履く筋力がない中高の女子選手は、3000mでもスパイクを履くよりは、タクミのセンを履いたほうが最後まで脚が残って記録が出るということがあります。男子選手はスパイクを履きたがる子もいるのですが、まだ、体の線が細い中学生の男子選手は、スパイクを履いて負けてしまうよりは、タクミのセンがいいと紹介したりします。
――最近、スパイクを履かずにトラックレースに出る人が多いですね。
宮脇 自分もスパイクは履かないです。ここ3~4年は履いていません。日本選手権のようなラスト勝負のレースでは、スパイクが必要だと思います。しかし、記録会では、ラストに脚を残すというかペースを遅くしてラストに合わせるよりは、速いスピードを維持して最後まで走るという意識が大事です。そうなるとスパイクのピンがないほうが脚へのダメージも少ないので、トータル的にタイムは伸びます。
スパイクで脚を残せるのがベストですが、そうするにはスパイクで練習を積んで、スパイクに耐えられる脚をつくらなければいけません。すると、練習での故障のリスクが高くなります。トラックレースをメインで試合を組み立てているのであれば、それもいいと思います。でも、自分はマラソンやロードをメインでやっています。スパイクで故障のリスクを負うよりは、トラックレースは普段からレーシングシューズで走ったほうが、それ自体がロードレースにつながります。スパイクは、今のレースの組み立てからは、必要性は感じていません。
――角田店長はトラックレースでスパイクを履かない傾向を感じますか。
角田 当店にくる学生は、どちらかというと10,000mよりは、3,000mや800mとか、短距離に取り組んでいる選手なので、スパイク需要は依然として高いです。しかし、一般ランナーがトラックレースを走る場合は、レーシングシューズを履くことが多いですね。一般ランナーは普段、トラックで練習をすることができませんし、長距離を走っている学生も、普段、学校でスパイクを履かないことも多いようです。スパイクを買いに来たけれど、アディゼロ タクミ センを購入してもらうこともあります。宮脇選手たちがトラックで走っている写真を見せて、このような選手でもスパイクを履いていないというのが説得力になります。
――シューズの履き分けは、競技力を上げていくためにとても重要ですね。
宮脇 重要だと思います。靴で競技力が変わると自分は思っています。陸上競技の場合、身につける道具は靴以外はほとんどありません。靴は唯一の道具なので、本当に大きいと思います。
――そういう感覚になったのは、いつからですか。
宮脇 中学のときは靴は何でもいいと思っていました。お金もかけられなかったので、セール品の靴を買っていました。親に初めて固定ピンのスパイクシューズを買ってもらって、めちゃくちゃタイムが伸びたんです。それで、初めて靴が大事だなと気が付きました。中学でも靴へのこだわりは強かったです。
その頃は、メーカーとかモデルとか、どういう構造だとかというよりも、すり減った靴を履くのがいやでした。自分は踵接地なので、どうしても踵が先にすり減って、ソールのラバーが削れて、中のスポンジが見えるのが早いのです。それを履き続けるとすぐケガをする。1足をけちって、故障して3カ月走れなくて棒に振るのはバカらしいじゃないですか。お小遣いを削ってでも、新しい靴を買って履いていました。
――高校のころは、どれくらいの頻度でシューズを履き替えていたのですか。
宮脇 はっきりとは覚えていないのですが、走行距離が今と比べてはるかに少ないので、月に一足というような頻度では替えていなかったのですが、2足を2~3カ月履くとか。1足よりも2足のほうが靴にも優しいので。すり減らなければ半年でも履くのですが、すり減ってきたら早めに替えるほうが、自分としてもいいと思っています。
――角田店長のお店にも、頻繁にシューズを買いに来る高校生もいますか。
角田 意識の高い子は、2~3カ月、あるいは半年に1回、買いにきます。そういう学生のほうが意識が高いので、競技力も高いという傾向があります。逆にあまり靴を意識していない子は、ボロボロのシューズを履いているということもあります。
――宮脇選手は、今はどれくらいの頻度で替えているのですか。
宮脇 今はめちゃくちゃ早いです。2週間もたないです。
――2週間! 走行距離はどれくらいですか。
宮脇 合宿に行ったら1週間に200~250㎞を走ります。僕は基本的にほとんどの練習をジャパン ブーストでやるので、1足の走行距離は400~500㎞くらいですね。もちろん、ほかの靴も履いていますよ。
――400~500㎞で履き心地が変わるのですか。
宮脇 履き心地というよりは、踵の部分のラバーがなくなってしまいます。ブーストが見えてきたら替えています。アッパーはまったく変わっていなくても、一番自分が衝撃を強く当てる場所が踵なので、ここがなくなったら替えています。
――2週間ということは1カ月に2足ですね。
宮脇 踵接地なので、レーシングシューズは試合を1本走ったら踵がすり減り、ラバーがなくなることがあります。調子がいいときにはすり減らないのですが、調子が悪いときほどすり減ります。合宿も、後半疲れてくると1週間くらいで使えなくなるときがあります。合宿でなければ、1カ月くらいは履きます。
――靴には意識をおかないと、競技者として向上しないということでしょうか。
宮脇 メーカーを替える前は、こうしてほしいということがあっても、ずっと履いてきたメーカーだし、提供していただいていたので、提供してもらえる靴なら履こうと、それくらいの意識でした。アディダスは、サポートしてもらえなかったら、自腹で買って履きたいと思っていました。高校生や中学生には、自分の履きたい靴を履いてほしいと思います。お小遣いややりたいことを我慢してでも、履きたい靴を履いたほうが競技力は向上すると思います。
――靴への意識が高くなって、故障しなくなったというようなことはありますか。
宮脇 故障しなくなったというより、故障が多くなってより意識が高くなりました。この4年くらい不調に苦しんでいたのですが、不調のきっかけのケガをしたときにメーカーを替えて、それからは靴だけでなくて、陸上競技に対する意識が変わりました。その1つが、いい靴をいい状態で履きたいということです。今はケガがずいぶん減って継続した練習ができるようになりました。シューズがケガ予防や防止につながっていると思います。だからこそ、早く結果を出して恩返ししたいと思っていました。
――故障の悩みを打ち明ける中学生や高校生も多いのではないですか。
角田 履き分けないで1足の靴で走っている子もいます。靴の機能や違いを知らなくて、パッと見で選んで、アディゼロ タクミ セン1足で何から何までやっているという子もいます。軽いのがいいとか、グリップがついているのが好きという子もいます。そうなると、駅伝に出るようなシューズで、ジョグや距離走からスピード練習まで、すべての練習をすることになります。そのような子にはシューズの機能やタイプの違いを説明をして履き分けるようにアドバイスしています。
――中学生、高校生では、ボロボロの靴で走っている子もいます。
宮脇 実業団でもいますよ。靴にこだわりがない人。踵を踏んでつぶしてしまう人もなかにはいます。そういう人はケガが多いですし、競技力が低いと思います。靴は踵が命です。踵がつぶれた靴はサポートがないのと同じです。つまらないことでケガしたらもったいないですし、ケガが一番、パフォーマンスが落ちるし、競技力も上がらない。
――中学生や高校生が読んでいます。アドバイスをいただけますか。
宮脇 ケガをしないことが、一番の競技力向上への近道だと思います。ケガをしない体づくりだったり、ケガをしない脚づくりだったり。そのすべての練習、すべてのトレーニングで着用しているのはシューズです。シューズへのこだわりは重要です。自分の感覚を大切にしつつ、知識のある人の意見も聞いたほうがいいです。自分がいいと思っている靴がタクミセンだとしたら、そのシューズはどういう目的で作られているのか、どういう用途に合うのか、そういう知識がある人がいるところに行って相談するのがいいと思います。中高校生がめちゃくちゃ高い靴を買うのは無理でしょう。自分自身もできませんでした。安い靴でも足に合う靴はあるので、自分がいいと思う靴を履いてほしいですね。新しい靴やカッコいい靴を履くと、それがモチベーションにもなります。
――宮脇選手は、故障しないために心がけていることはあるのですか。
宮脇 基本的にすべての行動、すべての生活が、陸上競技につながっていると意識しています。どんなに気を付けていても、練習中のケガは避けられないことがあります。私生活のなかでのケガはいくらでも予防できます。筋トレも、ストレッチも合う、合わないがあります。自分は筋トレはあまりしないんです。どちらかというとストレッチに近いような筋トレを続けています。腹筋を1000回とか、腕立てを何百回とか、そういう筋トレはやりません。でも、それをやったほうが走れる人もいます。自分に合ったトレーニングをやるのがいいと思います。
――自分に合ったトレーニングを見つけるのが難しいです。
宮脇 僕自身は筋トレ。腹筋を10回やったら、その感覚が気持ち悪くて走れないのです。自分の体と対話したり、自分の体に気を配っていたりすれば、わかるようになっていくと思います。腹筋を100回やれと言われたからやるのではなくて、自分の感覚を大事にしてほしい。やることが陸上のパフォーマンスにどうつながるかということを考えてほしいですね。若いうちは、失敗していいと思うので、いろいろなことをやってみたほうがいいと思います。
――宮脇選手は最初からそういう感覚をもっていたのでしょうか。
宮脇 もっていたのだと思います。痛みにすごく敏感で、少しの違和感や少しの痛みも気になってしまうタイプです。自分の体や体調に気をつけていれば、感覚が強かろうが弱かろうが、違和感には気づくと思います。痛みや違和感があるから練習をしないのではなくて、そういうものがあったら、どういう練習をするか、どれくらいの痛みだったら練習をやるとか、そういうことを考えることが大事だと思います。
――違和感は、ケガにつながるのか、強くなるステップなのかを見極めるのは難しい。
宮脇 それは難しいですね。自分は、違和感や痛みが出ても走るのをやめないので、重症になる前にいろいろなケアをしっかりします。痛みゼロ、違和感ゼロで走っている選手はいないと思います。付き合いながらやっていくのが大事だと思います。
――専門店の店員という立場から強くなりたいという中高生へアドバイスをいただけますか。
角田 『陸上競技マガジン』を読んでいる子は速くなりたいという気持ちが強いと思います。陸上専門誌に書いてあることを読むということもありますが、お店に来ていただければ、陸上競技経験者がアドバイスをさせていただきます。ステップの場合は陸上専門店なので、スタッフも陸上競技出身者しかいません。短距離や長距離のトレーニング方法をお伝えできます。
今の中学生や高校生は、情報収集の手段はたくさんあります。情報収集をしてそれを実行するのが一番大切ですね。失敗したら違う方法を取り入れればいいと思います。ものを通じて、自己ベストが出るようにサポートするのが私たちの仕事です。お客さんから「自己ベストが出ました」と言っていただけることが、私たちはすごくうれしいのです。自己ベスト更新をもっと後押ししたいと思うので、靴やウエア、サプリメントに対してどんどん質問してほしいですね。陸上部の先生には聞けないことも、私たちは教えることができます。
私は陸上競技をしていたのですが、靴は青だったらいいなとか(笑)、女の子は、そういうことが多いと思うのです。私自身もこの仕事に就いてこんなにいっぱいシューズがあるんだと驚きました(笑)。スパイクってこれくらいの期間で替えたほうが本当はよかったんだとか、そんなことも知らなかったんです。今、この立場になったので、当時の私に教えられたら、もっとタイムが伸びたかなと(笑)思うのです。学生さんには、いろいろなことにチャレンジすることや、陸上を好きになってほしいです。それを私たちが後押しさせていただきます。
――宮脇選手は高校のときには、ショップに行って相談をしていましたか。
宮脇 自分の高校は田舎だったのでショップの人に相談はできませんでした。都大路(全国高校駅伝)に出場したときに京都のステップに行っていました。広島の都道府県駅伝に行っても、みんなでステップに行ったりしていました。地元にそういうお店がないので、チームのみんなで行くと、ほかのチームの選手もいて、あれは誰だろうなんて言いながら(笑)、ワクワクした思い出があります。
――そう考えると都会の選手たちは恵まれていますよね。
宮脇 恵まれている分、情報量が多くなるので、自分に合うか合わないかという見極めは難しくなります。ショップで言われたから選ぶというだけで選んでいたら、余計にこんがらがる。ただ、情報はたくさんあったほうがいいのです。うまくいかなかったときに、いろいろな情報があれば、次はこうやってみようと引き出しになります。たくさん情報を仕入れるのはいいのですが、どれが自分に合うのか、いろいろな人に相談しながらシューズ選びをすればいいと思います。
――宮脇選手は、サブ2がばっちりあったという感じですね。
宮脇 そうです。この靴がなくなってしまったらどうしようと心配です(笑)。いずれモデルチェンジするじゃないですか。それが合うか合わないかわからない(笑)。これがいいなという靴に出会えたのはよかったのですが、この靴がなくならないようにしてほしいですね。
――今、サブ2にさらに望むことはありますか。
宮脇 色ですかね。黒もカッコいいのですが、もうちょっとカラーバリエーションがあるといいですよね。黒はぱっと見たときに重そうに見えるじゃないですか。それで、白や明るい色のほうが軽そうに見えるという視覚的な効果を考えると、自分はあまり黒は選ばないんです。
――去年、キプサング選手が履いていた青は…。
宮脇 あれはカッコよかったですね。軽そうだなと。色のバリエーションくらいで、本当にサブ2には、注文を付ける場所が見つからないです。
――サイズについてはどう感じていますか。
宮脇 僕はジャパンブーストから0.5cm、落としています。ジャパンブーストは27.5cmを履いていて、サブ2は27.0cmです。最初、27.5cmを提供されたのですが、履いたらサイズが少し大きくて感じられたので、27.0cmを送ってもらいました。横幅がジャパンブーストよりも少しあり、アッパーのメッシュが薄くて柔らかいから、サイズは1サイズ落としてもいいかもしれません。
角田 結構、走り込んでいる方はそうかもしれません。それこそ、足幅も広い方もいるので、そういう方はジャパン ブーストと同じサイズを購入されます。走り込んでいる方は、1サイズ下げようかなという方はいます。
宮脇 ジャパン ブーストは前足部がタイトなので私がサイズを大きくしているということもあります。サブ2は、足に当たる部分がないので、そういう人はサイズを落としていいと思います。初めて履くシューズを購入する場合は、必ず店舗で足を入れたほうがいいですね。
角田 当店なら履いてトレッドミルで走れます。
宮脇 足を入れた感じと走った感じが、意外に違ったり、朝と夕方で全然違ったりということもありますから、走れるのはいいですね。
――宮脇選手はタイトフィットが好きなのですか。
宮脇 ちょっとゆとりを感じるくらいが好きです。サブ2は27.0cmでもまだゆとりがあって、ジャパン ブーストの27.5cmでちょうどいいくらいです。0.5cm落としてきつくて履けないという人がいたら困るので、絶対にそうしたほうがいいとは言えません。自分はサイズを落としたほうがよかったです。ボストン ブーストに比べたらそんなに差はないと思います。
――ありがとうございました。
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2024-03-25
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