社会人アメリカンフットボール・Xリーグ第5節屈指の好カード、富士通フロンティアーズ対オービックシーガルズの戦いは、逆転に次ぐ逆転の末、富士通が制した。3点差で決着がついたこの試合。最終盤でベテランRB金雄一(こん・ゆういち)の貴重な働きがあった。
第4クオーター残り2分23秒で、オービックQBスカイラー・ハワードが投げたパスを富士通DB藤田篤がインターセプト。富士通の自陣40ヤードからのオフェンスとなった。
しかし、オービックサイドラインは決して焦っていなかった。得点差は3点、タイムアウトは3回残っていた。オービックには長距離でも安定したFGを蹴ることができるK星野貴俊がいた。
何よりも、富士通の切り札、RBトラショーン・ニクソンがフィールドにいないことが大きかった。試合途中から足を引きずっていたニクソンは、第4クオーター冒頭のプレーで状態が悪化、自らサイドラインに下がっていた。そして、オービックディフェンスは、92キロのパワーバック・高口和起や日本代表経験も持つ神山幸祐のランは完全に止めていた。
富士通サイドとしても、難しい局面だった。QBバードソンのパスは後半上り調子だったとはいえ、失敗すれば時計が止まる上に、ターンオーバーの危険性もあるパスは選択しにくかった。
富士通がフィールドに送り込んだRBは金だった。ファーストダウン、金のランで4ヤードのゲイン。残り2分15秒でオービックは1回目のタイムアウトを使った。セカンドダウン、またも金のラン。OLとブロッカーを増やした右サイドを突いた金は、低い姿勢から体を伸ばして7ヤードをゲインし、ファーストダウンを更新した。
富士通はさらに金のランを続けた。1ヤードと7ヤードのゲイン。オービックはたまらずにタイムアウトを使い切った。このドライブ5回目の金のランは流石に1ヤードのロスとなりフォースダウンはパントとなった。
このドライブで富士通は1分44秒かけて18ヤード進んだ。オービックの全タイムアウトと時間を削ぎ落し敵陣でパントを蹴った。オービックのオフェンスは39秒しか残っていなかった。選択肢の限られたオービックオフェンスは機能せず、最後はスカイラーが富士通OLB趙翔来にサックされて試合は終わった。
オービックが富士通オフェンスを3&アウトで止めていれば、おそらく1分半以上は残っていたのではないか。そうなれば、ある程度はランも使えた。スカイラーは後半2TDラン、李卓らRB陣も走れていた。
金は「あの場面、ファンブルが一番やってはいけないと思いながらも、攻めてファーストダウンを取らなければいけない。そういう意識でやっていました」と話した。
「藤田HCからいつも、『試合は総力戦だ。誰が出ても一本目とおなじ活躍ができるようにしろ』と言われている。きょうは、準備ができて、少しぐらいはそういうプレーができたのかなと思う」と話した。
金は1985年生まれの33歳で、RBユニットでは最年長だ。日本大学時代は俊足のエースRBとして活躍。2007年の甲子園ボウルでは関西学院大学と対戦し、96ヤードのキックオフリターンタッチダウンなど2TDの活躍を見せた。卒業後、「フットボールは学生で終わり」と、いったんは鉄道関係の仕事に就いた。職場は新宿駅だったという。
しかし、Xリーグの試合を見て血が騒ぎ、1年のブランクの後、富士通に入社、数年間はエースRBとして活躍した。金がエースだった時代、富士通は王座まであと一歩届かない苦難が続いた。その後、ジーノ・ゴードンの加入や若手の台頭で出番は減り、過去数年WRとして出場していたこともあった。
この日も最後にロスしたランに納得しておらず「あそこで取り切れなかったのが自分の課題。まだまだ成長するつもりでやる」という。チームメートでは、殊勲のインターセプトのDB藤田篤、樋田祥一やK西村豪哲、対戦相手オービックではQB菅原俊ら、金と学年が同じ選手はまだまだ多い。「あいつらが頑張っているうちは、自分も負けていられない。そう思ってやっています」と語った。
勝負所で価値ある輝きを見せたベテランに、富士通の強さの理由をまた一つ見た。
【写真・文/小座野容斉】
金は今シーズンずーっとよかった。チャンスがあれば出そうといつも思っていた。大事なところでよく頑張ってくれた。
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