社会人アメリカンフットボール「Xリーグ」は10月6日から早くもリーグ戦終盤の第5節に突入する。ここまで4試合で、富士通フロンティアーズ、パナソニックインパルスが4戦全勝、ノジマ相模原ライズ、IBMビッグブルー、オービックシーガルズが3勝1敗と、強豪チームが順当に勝ち星を積み上げる中、1勝3敗と苦境に陥っているのが、LIXILディアーズだ。
ディアーズは前節、近年のライバル、ビッグブルーに10-34で完敗した。鹿島時代から続いていた秋季リーグ戦(セカンドステージを含まず)での連勝が12で止まったゲーム。攻守に大事なところでミスが出た。
象徴的だったのが第2クオーターのドライブ。QB加藤翔平からWR宮本康弘に、オンタイミングでスラントのパスが決まったかに見えたが、宮本が落球した。IBMのディフェンスが前がかりだったため、ディフェンスの裏を突いており、捕球していればロングゲインになったところだった。加藤はサードダウンで浅い外のパスを、WR前田直輝に投げたが若干ターンボールになった。前田がジャグルして後ろに反らしたボールをビッグブルーDB小阪田裕介がインターセプト。自陣18ヤードだった。
このチャンスボールをゴール前まで進めたビッグブルーは、オフェンスにDLチャールズ・トゥアウとジェームズ・ブルックスを送り込み、195センチ123キロのブルックスがエンドゾーンに突進。ディアーズディフェンスはなすすべなくタッチダウン(TD)を奪われた。この攻守が、試合の流れを決定的にしたと言ってよい。
QB加藤(30歳)とWR宮本(29歳)、前田(33歳)、永川勝也(31歳)のパスユニットは、2015年の世界選手権日本代表のメンバーだ。この代表では、当時ディアーズのオフェンスコーディネーターだった、富永一・現ヘッドコーチ(HC)が、そのままオフェンスコーディネーターを務めた。日本代表のパッシングユニットがそのままディアーズのそれだった。
加藤は、ケビン・クラフト(IBM)、コービー・キャメロン(元富士通)ら米国人QB全盛のXリーグの中で、数少ない、互角の投げ合いができる「和製ガンマン」として名を馳せてきた。加藤のクイックリリースのパスに、呼吸を合わせて対応してきたのが前田、宮本、永川らのレシーバー陣だった。
この試合直前のフィールド練習で、筆者は、ディアーズのパスユニットに違和感を感じていた。加藤が、レシーバーが捕球できるように間をおいてソフトタッチで投げていた。それでもレシーバーたちは落球していた。
これまで見た加藤の試合前練習で、最も記憶に残っているのは、15年世界選手権の決勝戦、対米国戦の前に、レシーバー陣に決めていたパスだった。3歩ステップバックから矢のようなパスをレシーバーが手を目いっぱい伸ばしたところにコントロールして投げ込んでいた。とにかく練習から攻めていた。
今は、できることを試合前に確認しているだけのように見えた。
NFLを見てもわかるようにQBとして30歳はまだまだ成長できる。加藤に限界が来ているとは思えない。ただ3人のレシーバーユニットは、負傷などもあって衰えは否めない。2年目の田邊翔一が気を吐いているが、石毛聡士、杉田有毅、西川大地の働きは、十分とは言えない。
レシーバー陣だけの問題ではない。QB加藤のパスが精度を欠いているのはディフェンスの強いプレッシャーにさらされているからだ。原因の一つはランプレーが出ないことディアーズのランはここまで4試合で273ヤード。エース白神有貴が孤軍奮闘しているが、特にインサイドのランが出ない。
鹿島時代からインサイドゾーンのランプレーは、ディアーズの十八番だった。2013年のセカンドステージ、11月のパナソニック戦で、最大20点差を逆転し、47-45で勝利した試合は、今でも記憶に残るが、インパルスの強力ディフェンスからラン40回で219ヤードを奪ったのが勝因の一つだった。当時のC笠井公平、左右のG荒井航平と倉持和博の「130キロトリオ」は、そのままXリーグを代表するインサイド。後半になるとブロックがボディーブローのように効いて、ディフェンスの足が止まり、真ん中のランが止まらなくなる。それがディアーズオフェンスだった。
今、倉持は引退、笠井が31歳、荒井は29歳になった。特に188センチ、140キロで前回の日本代表で不動のCだった荒井が、この数年負傷で満足なプレーができておらず、今季も出場がない。
190センチの巨漢・山田広大が懸命に穴を埋めているが、強力Gだった山形明広が昨季限りで引退、さらにTの副将・中村洸介の負傷も響いている。IBM戦は、前のチームで一時TEに転向していた市川千裕と、ルーキーの大黒駿、江守孝行が先発した。3人は決して能力は低くないが、サイズが小さい。インサイドのランブロックだけでなくだけでなく、パスプロテクションも含め、OLの弱体化は深刻だ。
第5節のエレコム神戸ファイニーズ戦(10月8日、万博記念競技場)。ファイニーズのエースQBコーディー・ソコルは、米ルイジアナ工科大で元富士通キャメロンの後輩にあたり、2014年にはパス3436ヤード、30TDを記録した本格派パサーだ。X初年度の今季も、前節でオービックに完封されたとはいえ、パス1189ヤード、11TDという成績を残している。ファイニーズは過去3年続けて完勝しているとは言え、今のディアーズにとっては非常に厳しい対戦相手だ。挑戦者として、集中力を切らさず全力で戦うしかすべはないように思える。
企業チームからクラブチームへ。4年前にディアーズは大転換を経験した。その後、IBMやノジマ相模原戦での劇的な逆転勝利を重ね、2016年の春には富士通とオービックを連続で撃破するなど、米国人選手がいない中で、勇名を轟かせてきた。
この試合に敗れると、今季のJXBトーナメント出場にも黄信号が灯る。それは、来季からスタートする事実上の新トップリーグ「X1スーパー」から漏れることも意味する。これまで幾多の試練を克服してきたディアーズの最大の危機なのかもしれない。
◇ ◇
ディアーズがビッグブルーとの対戦で敗れた後、富士通スタジアム川崎の報道控室に向かう通路で、LDC(LIXILディアーズチアリーダー)がゲーム後のミーティングをしていた。何人かはボロボロと悔し涙を流していた。
Xリーグは、大人のフットボール。「涙は悔しさの表れ」などと美化する気はない。チアリーダーと選手では立場も違う。ただ、好敵手だったビッグブルーに惨敗して、泣くほどの悔しさ惨めさをかみしめた選手がどれだけいたのだろうか。
これからの残り試合にディアーズの明日がかかっている。【写真・文:小座野容斉】
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