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2020-06-10

アメリカで3ヵ月ぶりにボクシングが本格復活

コロナウィルスの世界的流行により活動が制限されてから3ヵ月。アメリカにプロボクシングが戻ってきた。6月9日(日本時間10日)、ネバダ州ラスベガスのMGMグランド・カンファレンスセンターでトップランク社による無観客試合が挙行され、メインイベントのノンタイトル10回戦でWBO世界フェザー級チャンピオンのシャクール・スティーブンソン(アメリカ)がフェリックス・カラバリョ(プエルトリコ)を6回1分31秒TKOで下した。また試合はESPNにより全米に中継された。

上写真=強制休養明け初戦にTKO勝ちし、喜ぶスティーブンソン

待望の試合で、スティーブンソンが痛烈TKO勝ち

 世界を襲ったコロナウィルス禍により、スポーツ大国アメリカからも各種競技イベントが消えたこの3ヵ月。野球やバスケットボールの名勝負の再放送で枠を埋めてきたスポーツチャンネルESPNが、無観客でスタートした韓国のプロ野球に飛びつく。それくらい、アメリカはライブスポーツに飢えていた。

 メジャースポーツの休眠が続くなか、5月上旬にUFCが無観客興行を打ち、ボクシングは6月6日、カンザス州で行われた複合格闘技イベントで再開。ボクシング単体では、今回ラスベガスで開催されたトップランク興行が第一弾となる。ESPNが全5試合を放送した。

 そのメインを張ったスティーブンソンは、コロナ禍のあおりをまともに受けたひとりだ。リオ五輪バンタム級銀メダリストから昨年10月にプロの世界王座に到達した後、3月14日に予定していたタイトル初防衛戦が急きょ、興行ごとキャンセル。注目を集める今回のボクシング解禁初興行で、スーパーフェザー級への転級を見越したテストマッチを行うことになった。

「相手はまったく知らない選手。1ラウンドだけ映像を見たけど、僕のレベルにはない。でも8ヵ月ぶりの実戦だし最初の2ラウンドは様子を見るよ」と試合前にコメントしていたスティーブンソンだが、実際の“偵察”はすぐに終了。サウスポースタンスから右で探りを入れながら、開始からほどなく右ボディブローでダウンを奪うと、2回からは一方的に攻め上げた。カラバリョは4回に少しばかりの反撃を試みた後は、防御一辺倒。6回、スティーブンソンはそのガードをコンビネーションでこじ開け、左アッパーを腹にめり込ませる。フロアにひざまずいたプエルトリカンの戦意喪失は明らかで、レフェリーは試合終了を宣言した。

「自分のスキルを見せることができてうれしい」と笑顔を見せたスティーブンソンは、計画されていたIBFフェザー級王者ジョシュ・ウォーリントン(イギリス)との統一戦か、すぐに王座を返上してスーパーフェザー級に転向するか、動向が注目される。

スティーブンソンはうまくボディを攻め、最後は豪快に沈めた

五輪連覇のラミレスは、あっという間にストップ勝ち

ライバルのラミレスは54秒で勝利

 今回の興行は、将来のスーパースター候補スティーブンソンの因縁の相手、ロベイシー・ラミレス(キューバ)との初“競演”も話題だった。ラミレスは五輪2連覇。ロンドン五輪でフライ級を制し、リオ五輪でスティーブンソンの金メダルの夢を阻んだサウスポーだ。昨夏のプロデビュー戦でダウンを喫しまさかの判定負け。それから連続KO勝ちで巻き返し、今回はイウリ・アンデュハール(ドミニカ共和国)を開始54秒のうちに左フックで2度倒し、フィニッシュした。

「この機会に感謝している。シャクールはいま世界王者だ。それは私が将来的に挑みたいもの。そのために勝ち続けて自分の価値を証明しなければならない」というラミレスは現在、日本でもおなじみのキューバの名匠イスマエル・サラスに師事。「彼は私のボクシングの幅を広げてくれる。私を世界王座に導いてくれる人だ」と深い信頼をうかがわせた。

 幅広いスポーツファンが熱視線を送ったであろうこの日のテレビファイトには、ふたりのヘビー級ホープも登場している。

 リオ五輪のイタリア代表で現在ラスベガスをベースにしているギド・ビアネッロは、中堅のドン・ヘインズワース(アメリカ)をジャブでコントロール。198センチの長身から打ち下ろす右で初回2分15秒、KOに仕留め、戦績を7戦全KO勝ちに伸ばした。

 また、20歳の若きビッグホープ、ジャレッド・アンダーソン(アメリカ)はジョニー・ラングストン(アメリカ)をダイナミックかつ正確なコンビネーションで攻め立て、3回1分55秒で降参させた。全米アマチュア王者から昨年10月にデビューし、これで4戦全KO勝ちとした。

豪快なパンチで迫る、期待のヘビー級アンダーソン

女子のスター候補メイヤーは抗体検査で失格

 ひとつ残念だったのはセミファイナルに出場予定だったNABF北米女子スーパーフェザー級チャンピオンのミケーラ・メイヤー(アメリカ)がコロナウィルス検査で陽性となり、出場不可となったことだ。リオ五輪ライト級銅メダリストのメイヤーは、現地入り前のテストでは陰性だったが、ラスベガスに入ってから受けた検査で抗体保有者であることが確認された。ネバダ州コミッションのガイドラインにより、再検査は受けられなかったという。

「今回のファイトウィークは何から何まで普通とは違った」とスティーブンソンが言うとおり、この無観客興行は、衛生的な試合環境を確保するために厳格な実施要項に沿って進められた。セコンド、オフィシャルを含め、場内に入る人数を最小限にとどめ、興行に関わるすべての選手関係者のコロナウィルス検査を主催者の負担で行う。検査をクリアした人々は、主催側が用意するホテルの部屋、食堂、練習場で過ごさなかければならなかった。

 その主催者トップランクは2日後に次の興行を準備しており、週2、3度の頻度で興行を予定している。段階を踏み、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)とテオフィモ・ロペス(アメリカ)の世界ライト級統一戦、井上尚弥(大橋)とジョンリール・カシメロ(フィリピン)の世界バンタム級統一戦といった、ビッグイベントの実現を目指す。

 ワクチン、特効薬が開発されるまで、目に見えないウィルスの脅威と戦いながら、いかにスポーツイベントを正常に近づけていくか。ボクシング界の挑戦は、試行錯誤する他業界にも貴重な手がかりとなることだろう。

文◎宮田有理子 写真◎Mikey Williams/ Top Rank

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