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2020-02-20

【ボクシング】“ミライ☆モンスター”松本圭佑がプロ入り発表

祖父・弘、父・好二、そして圭佑──。三代にわたるプロボクサーの誕生だ! U-15時代から“スーパーキッズ”として大活躍してきた松本圭佑(20歳)が20日、大橋ジムからプロデビューすることが発表された。

上写真=甘いマスクの裏には、芯の強さがある

 祖父・弘さんは東日本ウェルター級新人王。父・好二トレーナーは、日本&東洋太平洋フェザー級チャンピオン。近年では親子二代ボクサーは国内外でも多数出現し活躍しているが、三代にわたってというのはめずらしい。

「赤ちゃんのときから知っているので、この日が来るのを楽しみにしていました。感慨深いですね」。大橋秀行会長が、目を細めてしみじみと語る。

 われわれボクシング記者にとっても、「あの子がこんなに立派に……」という思いは強い。いつの間にか背丈も抜かれ、あっという間に175cmに。線の細さが目立ったのもいまや昔。野木丈司氏の階段トレーニングには高校(みなと総合)1年から参加し、ずっと続けている。同氏のフィジカルトレーニングも始めており、「体つきがだいぶ変わった」(圭佑)と言うとおり、上半身も下半身もがっしりとなった。

「ヘラクレスオオカブトで誘ったけどダメだった」と、爆笑エピソードを披露する大橋会長(右)。「ボクシングを始めたのは会長のせい(笑)」と、父でトレーナーの好二さん(左)

「小さいころは泣き虫で、なにをやっても続かない子だった」というのは父・好二さん。幼稚園児からジムに連れてきたが、「あのころは頑なに『ボクシングはやらない』って言ってた。やるならヘラクレスオオカブトを買ってあげるって言ってもダメだった(笑)」(大橋会長)。

 それが変化したのは小学3年のとき。「運動会で悔しい思いをして、夏休みだけジムに通おうと思ったんです」。興行があれば、大橋会長が連れていき、見たものをジムで実践してみる。「そうやっているうちにおもしろくなって、実戦にも出るようになって──」、U-15全国大会で5連覇(すべて最優秀選手賞を獲得)。一躍、“スーパーキッズ”と騒がれて、フジテレビ系『ミライ☆モンスター』でも追いかけられる存在となった。

 高校時代は、2年時に2016年全国選抜大会ライトフライ級で優勝を果たしたが、インターハイでは1年時(ライトフライ級)に中垣龍汰朗(日章学園)、2年(フライ級)、3年(バンタム級)時には堤駿斗(習志野、現・東洋大学)に敗れ、いずれも準優勝。堤とは、東京農業大学に進学してからもライバル関係が続き、その牙城は崩せなかったものの、「(堤は)ちょっとした技術が上手く、これからも参考にしたい。彼の活躍を期待しています」と、東京五輪出場、金メダルを狙う堤にエールを贈った。

 圭佑自身も東京オリンピック出場を期していたが、昨年9月の全日本選手権関東ブロック予選で敗退。「どうしようか迷っているときに、井上尚弥さんに『(プロで)やるなら早いほうがいいよ』と言われて、その後のドネア戦を見たのが決定打でした」と、年内に大学を中退し、プロ入りを決断したのだという。

父の名前の刺繍入り。会見には、父がかつて着ていたスーツで臨んだ。サイズもピッタリ!

 高校時代から身長がぐんぐんと伸び、対して本人の強いこだわりもあって、適正階級で戦えていなかったことも影響していたはずだ。が、敗北という苦い想いを何度も味わいながら、それでも前向きな発言を繰り返していたことが印象に残る。

「八重樫(東)さんが這い上がる姿を間近で見てきているので、僕はこんなところで挫けてはいられません」。笑顔で語ってくれたのが忘れられない。

「泣き言、不満、人の悪口とか、一切聞いたことがない。負けた次の日も練習する。精神面の強さはこの年代ではずば抜けている」と大橋会長。「小学生のころから会長に、そういう(プラス思考になれる)本を借りて読んでいたので。人に対する感謝とか」と圭佑。だから、「大学のみんなにも感謝しているので、結果で恩返しをしたい」のだという。

「僕は邪魔をしないようにしたい」と心配性の父も、肚をくくる覚悟だ

 父・好二さんがトレーナーを務めるのはこれまでどおり。「心配性で、“子どもを崖から落とせない”タイプなので、“落とせる”真吾さんにいろいろとアドバイスを受けたい」と、父は尚弥、拓真を強靭に育てた真吾さんを引き合いに出す。
 しかし、「偉大な先輩方の背中を追って、世界チャンピオンを目指して頑張ります」と宣言する息子は、立派な大人の男に成長していると感じる。「僕を指導することに力を入れ過ぎて、他の担当の選手のことが疎かになるのが心配。でも、たとえば僕が他のジムからデビューすることになったら、きっと、もっと気になってトレーナー業が疎かになるはず。だからこのジムで、というのも理由のひとつです」。心配性の父を、逆に息子が心配するほどたくましく成長している。きっと大丈夫だ。

 かつてのライバルで、農大では苦楽を共にした中垣龍汰朗は、昨日、会見を行い、プロでも同じジムで一緒に汗水を流すことになった。
「龍汰朗は『2年以内に世界チャンピオンになりたい』って言ってたそうですが、僕は龍汰朗ほどアマチュアで実績もないし、尚弥さんみたいに強い相手とやらせてくださいとかも言えない。会長が組んでくださった試合を一戦一戦集中してやって、周りのみなさんに認めてもらえたら……。でも、将来は尚弥さんのようにラスベガスで試合をしたり、東京ドームで試合できるような人気のあるチャンピオンになりたい」

早くからキッズ育成に力を注いできた大橋会長。その芽が次々に開花していき、さらに新たな種が各世代に蒔かれている

 アマチュア戦績95戦80勝(30RSC)15敗。打たせず打つ、スタイリッシュな右ボクサー。だが、洗練されたボクシングもさることながら、大橋ジムの歴史をじっと観察してきたのがなによりの財産だ。酸いも甘いも肌で感じ取り、その上での、満を持しての新たな出発。芯は想像以上に太い。

 3月11日に、中垣とともにB級(6回戦)プロテストを受験。同じく5月28日(金)、東京・後楽園ホールでのデビュー戦を予定している。

文&写真_本間 暁

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