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2020-02-01

【海外ボクシング】マイアミのトリプル世界戦。2試合で王者交代。

1月30日(日本時間31日)、アメリカ・フロリダ州マイアミで行われたトリプル世界タイトルマッチ。WBAスーパー・IBF統一世界スーパーバンタム級タイトルマッチでは、WBA1位の指名挑戦者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)がチャンピオンのダニエル・ローマン(アメリカ)を2-1の判定で破り、新たな統一チャンピオンとなった。IBF世界スーパーフェザー級タイトルマッチも王座交代。挑戦者ジョセフ・ディアス(アメリカ)が王者テビン・ファーマー(アメリカ)の5度目の防衛を阻み、3-0の判定で3度目の世界挑戦を実らせた。WBO世界ミドル級タイトルマッチでは、世界2階級制覇者のデメトリアス・アンドレイド(アメリカ)が3位の挑戦者ルーク・キーラー(アイルランド)を9回2分59秒でストップし、3度目の防衛を果たした。

上写真=王者ローマン(左)の鉄壁ガードを破るアフダマリエフの攻撃 Photo_Ed Mulholland/Matchroom Boxing USA

接戦の末、元トップアマが頂点へ

 リオ五輪バンタム級銅メダリストのサウスポー、アフマダリエフがプロ8戦目で世界タイトルに到達した。2016年の五輪出場者の中ではWBOフェザー級王者シャクール・スティーブンソン(アメリカ)、IBFライト級王者テオフィモ・ロペス(アメリカ)に続く世界王座獲得となった。

 トップアマの巧さとともに重厚な攻撃力で評価を上げていたアフマダリエフは、この世界初挑戦も大方の予想は有利。これまで特筆すべき対戦相手はおらず、経験したラウンドは9回が最長でも、やはり立ち上がりから自信に満ちた左フック、右フックを振って出た。ローマンはしっかりブロックし、そのビッグパンチのスキを様々な角度から叩いて、挑戦者を勢いづかせまいと努める。そんな競ったラウンドを、アフマダリエフの見栄えのよさが制していった。3回にチャンピオンが圧し返し、ボディ攻めで波に乗りかけたが、それに耐えたアフマダリエフは5回終了間際、王者をロープに追い、猛烈な連打で優勢を印象づける。WBA5度目、IBF1度目の防衛戦となる統一王者ローマンは10回には右瞼が切れ、悪化する戦況の中でも地道に粘り強く勝利のきっかけを探し続ける。そんなチャンピオンの最終回の反撃をしのぎ切り、アフマダリエフは僅差の判定を勝ち取った。採点はいずれも115対113で、一者はローマン、二者がアフマダリエフを支持した。

新王者は暫定王者・岩佐の標的

一挙にベルトを2本獲得した新王者アフダマリエフ Photo_Ed Mulholland/Matchroom Boxing USA

 歓喜のあまり声を上ずらせながら「スパシーバ(ありがとう)」を繰り返す新チャンピオンは、「人生いろんな困難を乗り越えてきた。関係者、チームのみんなに感謝する」と続けた。戦績は8戦全勝6KO。マネージャーのバディム・コルニロフによれば、IBFから義務づけられたとおり、現在IBF暫定チャンピオンの岩佐亮佑(セレス)との統一戦にむかうという。
「この世界挑戦に集中していたので、すべての話し合いはこれからだが、日本、アメリカ、ウズベキスタンも候補地に入れて、期限内の実現を目指したい」。
 この日、リング間近で観戦した岩佐は、「日本ですでに知られているダニーと戦いたい気持ちはありましたが、ムロジョンも僕は相性が悪くないと思う。彼の今までの圧勝はあまり参考にならないと思っていたけれど、今回の12ラウンドで、いろんなことが見えましたね」と、自信をのぞかせた。

 2018年9月に日本で久保隼(真正)から奪ったWBA王座、昨年4月にTJ・ドヘニー(アイルランド)から奪ったIBFのベルトを失ったローマンは、31戦27勝(10KO)3敗1分。新チャンピオンのコールに感涙を流した対戦者を拍手で称え、「自分が勝ったと思ったけれど、彼は強い相手だった。私は勝利には少し足りなかったということ。この一戦が、私をより強くしてくれるはず」と語った。

ファーマーも陥落。ディアスが“三度目の正直”

序盤、終盤を制したディアス(左)が、曲者ファーマーを攻略 Photo_Ed Mulholland/Matchroom Boxing USA

 IBF世界スーパーフェザー級タイトルマッチでは、ロンドン五輪バンタム級アメリカ代表のディアスが、“三度目の正直”で悲願のプロ世界王座にたどりついた。2018年にフェザー級で2度チャンスがあったが、WBC王者ゲリー・ラッセル・ジュニア(アメリカ)のスピードと技巧に及ばず、ヘスス・ロハス(ベネズエラ)のWBA王座に挑戦した時は、計量で失格(試合は判定勝ち)。そのあと階級を上げ、WBAゴールド王座を経て、今回、満を持しての世界挑戦だった。IBF王者ファーマーもディアスも本来はディフェンシブなサウスポー。ことにファーマーは危険回避の名手だ。が、ソーシャルメディア上で舌戦を繰り広げ、計量後のフェイス・トゥー・フェイスでも口づけせんばかりの至近距離で罵り合った二人は、リング中央でせめぎ合った。2回にバッティングで左瞼が大きく切れたディアスは、視界難に見舞われる中で攻め手を増やし、ポイントをかき集める。中盤はファーマーが得意のボディワークで被弾を避け、死角からのアッパーで盛り返した。が、終盤はディアスが細かい手数で接近戦を制し、116対112、115対113、115対113の3-0の判定を勝ち取った。

 ゴールデンボーイプロモーションが手塩にかけ世界王座に導いたディアスは、32戦31勝(15KO)1敗。敗れたファーマーは、37戦30勝(6KO)5敗1分1無効試合。2017年末の尾川堅一(帝拳)とのIBF王座決定戦が無効試合となった後、翌年に同王座を獲得して4度防衛に成功していた。

アンドレイドは感情むき出しが裏目に

対抗王者へのライバル心を揶揄されたアンドレイド(右)は、感情をボクシングに出し過ぎた Photo_Melina Pizano/Matchroom Boxing USA

 今回の興行主マッチルームが仕掛けるYouTuber対決第二弾、ジェイク・ポール(アメリカ)がアリ・イーソン・ギブ(イギリス)を2分18秒で3度倒して幕となったスペシャル・アトラクションを経て、3大世界戦のトリとして行われた、WBO世界ミドル級タイトルマッチ。
 世界2階級制覇アンドレイドが、開始一発目の左をキーラーの顔面に命中させてダウンを奪った時は、決着はまもなく来るものと思われた。しかし、今日の技巧派サウスポーは甚だ感情的で攻めが粗く、無名相手の試合を長引かせることに。

 圧倒的な力量差があるキーラーを、ムキになってひねりつぶそうとした理由はある。サウル・アルバレス(メキシコ)、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、ジャーメル・チャーロ(アメリカ)らミドル級のライバルたちを名指ししてビッグマッチを待ち続けるアンドレイドのことを、世界レベルの経験が皆無の挑戦者キーラーが、「妄想している」と言い放ったから、王者のプライドに火が付くわけだ。

 開始早々にダウンを奪ったあともラフに出て、レフェリーに注意を受けても収まらない。しかもチャレンジャーは豪語しただけあってタフだった。2回にチャンピオンの左3連打でロープ際に吹っ飛んでも、立ち上がって続行。アンドレイドの粗く単調な攻めに立ち向かった。試合が終盤に入り、いよいよ決着を急ぐ王者は、9回、キーラーをロープにつめて左右フックを叩きつけ、追い続け、やっとレフェリーストップを呼び込んだ。
 WBO3度目の防衛に成功したものの、ビッグマッチからはより遠ざかってしまったであろうアンドレイドは29戦29勝(18KO)。WBOヨーロッパタイトルを持ち、引き分けを挟んで7連勝中だったキーラーは21戦17勝(5KO)3敗1分。

取材・文_宮田有理子
Text by Yuriko Miyata

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