井上尚弥とジャーボンテ・デービス。3年後には、この両者が最高地点の評価を二分しているに違いない。28日、2階級制覇をかけWBA世界ライト級王座決定戦に臨んだデービスは豪快TKOで古豪ガンボアをストップした。
写真上=古強者ガンボアを最終回でストップして2階級制覇に成功したデービス
この勝利で戦績は23戦全勝22KO。この日の試合内容も、すさまじい強打を随所に見せた。
アメリカ・ジョージア州アトランタのステートファーム・アリーナを埋めた1万4129人の観客は、ジャーボンテ・デービス(アメリカ)が強打を打ち込むたびに、『ワーッ』と大きな歓声を上げ続ける。アトランタでの世界戦開催は、地元のヒーロー、世界ヘビー級チャンピオンのイベンダー・ホリフィールドの防衛戦以来21年ぶり。会場には過去のことを半ば忘れている『うぶ』なボクシングファンが多かったとはいえ、その才能のすごさを、だれもが感じ取った。
それでも、この日の出来に対する勝者の自己採点は『C+』。確かに時間はかかったし、38歳の元3階級制覇王者ユリオルキス・ガンボア(キューバ)の粘りに、戸惑うシーンもあった。しかし、タイミングも角度も絶品のパンチには異次元の破壊力が宿って見えた。
2回、サウスポーのデービスは右のダブルジャブで追い、左をヒットしてダウンを奪った。さらに左ブローを中心にガンボアを打ちのめす。この時点で早い結末を予想した向きも多かったはずだ。
しかし、ガンボアも意地を見せた。2004年アテネ五輪の金メダリスト。アメリカに亡命してプロ入りしてからはトランポリンではねるような躍動感たっぷりの動きから、剛腕を振りかざし、たちまちセンセーションを巻き起こした。
この日もややタイミングを遅らせて届く左右の拳、あるいは小刻みなショートの連打でデービスを悩ませる。劣勢がいよいよ明らかになった中盤過ぎからは、左手を伸ばしたままで戦い、相手に間合いを読ませなかったり、あるいはラビットブパンチ(後頭部へのパンチ)やホールド、クリンチから離れ際での攻撃など、反則すれすれの試合運びで、かき回しにかかる。そのためか、やや手数の乏しかったデービスだが、ここぞで仕掛けた豪打で、ガンボアの思惑を吹き飛ばしていった。
8回には右フックで怯んだガンボアを左アッパーで追いつめ、最後は左ショートで2度目のダウンへと追いやった。
38歳になって後がないキューバ人は懸命に立ち上がり、力いっぱい抵抗する。それでもペースは奪い取れなかった。
そして最終12回、デービスは明らかにギアを上げる。左のアッパー、ストレートの連打。6発目のその左が決まって、ガンボアはたまらず崩れ落ちる。レフェリーはそのまま試合終了を宣した。
パワーパンチではね返したとはいえ、ガンボアの経験の前になかなか仕留められなかった。よって、攻撃が単打中心に狭まってしまったのも事実。井上に比べれば、テンポも遅いし、縦横のフットワークもない。中盤以降のスタミナにも不安を残した。さらに前日計量では、1度目で500グラムほどオーバーしてパスするために再計量を要している。IBFのスーパーフェザー級チャンピオン時代に計量失格でタイトルをはく奪された過去もあるだけに、生活面に不安もささやかれる。
そうだとしても、デービスのハードヒット、パンチを打ち込むタイミングの鋭い閃きには、無尽蔵の可能性がある。
「私はまだ25歳。もっと学ぶこともあるし、積み上げなければいけないものもある」
殊勝にそう語ったデービスだが、狙いはライト級の王座統一。早くもワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)との対戦を待望する声も聞こえてくる。楽しみだ。
なお、前座として行われたWBA世界ライトヘビー級タイトルマッチでは、チャンピオンのジャン・パスカル(カナダ)と元2階級制覇王者のチャレンジャー、バドゥ・ジャック(スウェーデン)が激しい打撃戦を展開。4回にダウンを奪ったパスカルが、12回に倒し返されながらも、2−1の判定でからくも逃げ切っている。
文◎宮崎正博 写真◎ゲッティ イメージズ
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