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2019-12-29

井岡一翔、リーチ差12センチに挑む。トリプル世界戦の予備検診

大晦日にWBO世界スーパーフライ級王座の初防衛戦に挑む井岡一翔のリーチは挑戦者ジェイビエール・シントロンより12センチも劣っているのが分かった。井岡は「それも想定していたこと」と強気に語る。

上写真=円熟の技巧の持ち主、井岡(左)は五輪連続出場のエリート挑戦者を攻略できるか

エリート相手に4階級制覇王者の実力が試される

 井岡一翔(Reason大貴)の167センチに対し、ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)は179センチ。身長でも5センチ以上の差があった。実力が伯仲していれば、リーチの差は試合展開を大きく左右する。単に数字だけを見てとれば、井岡は戦いやすい距離を作るために、よりビージーに、ときには大胆に戦わなければならない。しかし、井岡は冷静な表情を崩さなかった。

「背の高い相手とスパーリングもやってきたし、対策もちゃんと立ててあります」

 4階級制覇、世界戦18度目の“年輪”がそう言わせる。井岡はあらゆるタイプの対戦者との戦いを重ねてきた。さらに最近は試合前にアメリカ・ラスベガスで長期キャンプを張り、いまやアメリカでも引っ張りだこの名匠イスマエル・サラス・トレーナーのガイダンスのもとに徹底して鍛え上げられている。強さの真実に一歩、また一歩と近づいているという実感が、この30歳にはある。

 24歳の挑戦者ジェイビエール・シントロンはプエルトリコではとっておきのホープである。わずか17歳でロンドン五輪に出場し、4年後のリオ五輪で連続出場を果たした。世界最大手のプロモーション、トップランクが勢い込んでプロ契約を結んだのもうなずける俊才だ。しかも、サウスポー。利き腕をもっとも遠くに構えるため、相手側は打てるパンチが限られる。「サウスポーに苦手意識はない」という井岡だが、若い才能と、さらにリーチと身長のハンディを乗り越えなければならない。

 条件的には決してやさしくない戦いは、同時に井岡が望む『世界を股にかけての戦うトップスター』への可能性を占うことにもつながる。今年、世界中のボクシングで最後に行われる世界タイトルマッチは、まさしく注目の戦いだ。

田中恒成も穏やかに自信を漂わせる

5年ぶりの東京のリングで、田中は全国にアピールしたい

 3度目の防衛戦となるWBO世界フライ級チャンピオンの田中恒成(畑中)も大事な一戦だ。プロになって4戦目に初のタイトル(東洋太平洋ミニマム級)を奪取した原隆二(大橋)戦以来5年ぶりの東京登場となる。

 ここ1年ばかり、快勝続きでも内容的にはもうひとつ。すでに3階級制覇を成し遂げている世界チャンピオンには失礼ながら、この24歳には、まだまだ大きく成長する余地が見えるだけに、ここで一気にギアをトップに上げたい。まして、近将来的に目指すスーパーフライ級の世界王者が、同じリングで戦うのだ。いよいよ勇ましくアピールしてほしい。

 26歳の挑戦者ウラン・トロハツ(中国)は、ここまで13勝(6KO)3敗1分と戦績はパッとしないが、ここ最近は11連勝と好調。さらにキューバ人のペドロ・ディアスをトレーナーに迎えて英才教育を受けている。思わぬ難敵になるかもしれない。田中にも油断など一切ないはずだ。

闘うシングルマザー、吉田(左)が距離の差を切り裂けるかどうかがポイントになる。

 同じリングで行われるWBO女子世界スーパーフライ級タイトルマッチは、初防衛戦に臨むチャンピオン、吉田実代(EBISU K's BOX)が力を試される戦いになる。21歳と吉田より10歳も若い挑戦者シー・リーピン(中国)は身長は約169センチもある。吉田より5センチも高いのだ。しっかりとプレスをかけ、プロキャリアの浅いシーの戦力を削っていけるかどうか。すべてはそこにかかっている。

健診結果と両選手コメント

井岡一翔VSジェイビエール・シントロン

WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ

チャンピオン
井岡一翔(Reason大貴)
30歳/26戦24勝(14KO)2敗

身長    164.2cm
頸周    35.5cm
胸囲    91.0cm
リーチ   167.0cm
ナックル  左24.8㎝ 右24.4㎝
視力    左1.5 右1.5
血圧    134/81mm/Hg
脈拍    72/min
体温    36.6℃

挑戦者1位
ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)
24歳/12戦11勝(5KO)1無効試合

身長    169.7cm
頸周    36.0cm
胸囲    90.0cm
リーチ   179.0cm
ナックル  左25.5㎝ 右25.4㎝
視力    左0.8 右0.6
血圧    123/77mm/Hg
脈拍    67/min
体温    36.6℃

コメント
井岡一翔「準備はしっかりとしてきたから、数字を聞いていまさら考えることはありません。(リーチを克服する)対策も作戦もできています。一戦一戦、スーパーフライ級にフィットしてきたという感覚もあります」
ジェイビエール・シントロン「試合には数字は関係ない。リーチでまさっているからと言って、特に有利になるとは思っていない。ウェイトもリミットまであと少しで問題はない」

田中恒成VSウラン・トロハツ

WBO世界フライ級タイトルマッチ

チャンピオン
田中恒成(畑中)
24歳/14戦14勝(8KO)

身長    164.2cm
頸周    36.0cm
胸囲    85.0cm
リーチ   164.0cm
ナックル  左25.0cm 右25.0㎝
視力    左1.0 右1.0
血圧    124/81mm/Hg
脈拍    48/min
体温    36.2℃

挑戦者10位
ウラン・トロハツ(中国)
26歳/17戦13勝(6KO)3敗1分

身長    163.4cm
頸周    36.0cm
胸囲    86.5cm
リーチ   164.0cm
ナックル  左26.5㎝ 右26.0㎝
視力    左1.5 右1.5
血圧    114/69mm/Hg
脈拍    47/min
体温    36.4℃

田中恒成「コンデションはすごくいいです。(トロハツに)とくに気になることはありません。試合の状況に応じて戦い、必ずKOします」
ウラン・トロハツ「準備はできている。チャンピオンは強いが、KOで勝ちたい」

吉田実代VSシー・リーピン

WBO女子世界スーパーフライ級タイトルマッチ

チャンピオン
吉田実代(EBISU K's BOX)
31歳/14戦13勝1敗

身長    161.0cm
頸周    33.2cm
リーチ   161.0cm
ナックル  左25.0㎝ 右25.0㎝
視力    左1.5 右1.5
血圧    116/73mm/Hg
脈拍    59/min
体温    36.3℃

挑戦者
シー・リーピン(中国)
21歳/7戦5勝(2KO)2敗

身長    168.7cm
頸周    32.0cm
リーチ   167.5cm
ナックル  左25.5㎝ 右24.5㎝
視力    左0.8 右0.7
血圧    119/87mm/Hg
脈拍    60/min
体温    36.2℃

吉田実代「相手の身長は気にしていません。引き出しをたくさん使って、チャンスにはガツンと行きたいですね。チャンピオンになって自信が芽生えてきました。チャンピオンのまま新年を迎えたい」
シー・リーピン「(試合に)期待している。(吉田と)同じような体格の選手相手に練習してきた。経験は少ないが、世界のチャンスを逃す気はない。チャンピオンの印象? いいお母さんですね」

文◎宮崎正博 写真◎本間暁

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