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2019-06-28

【海外ボクシング】ウィークエンド・プレビュー ミドル級戦線の大型惑星2王者が防衛戦

カネロ(サウル・アルバレス)とGGG(ゲンナディ・ゴロフキン)のラバーマッチ、あるいは村田諒太(帝拳)の世界王座奪回の戦いと、何かと話題の多いミドル級。このクラスにはほかにもたくさんのタレントがいる。たとえば、WBOチャンピオン、デメトリアス・アンドレイド(アメリカ)は、高度な技巧を操るサウスポー。WBC暫定チャンピオンのジャモール・チャーロ(アメリカ)は豪打が自慢。今週はそのアンドレイドとチャーロが防衛戦を行う。

写真上=デメトリアス・アンドレイド
写真/Getty Images

6月29日/ダンキンドーナツ・センター(アメリカ・ロードアイランド州プロビデンス)

◆地元で難敵を迎え打つアンドレイド

★WBO世界ミドル級タイトルマッチ12回戦
デメトリアス・アンドレイド(アメリカ)対マチェイ・スレッキ(ポーランド)

アンドレイド:31歳/27戦27勝(17KO)
スレッキ:30歳/29戦28勝(11KO)1敗
※6月30日、DAZNでストリーミング中継

 アンドレイドにとっては故郷で初めて戦う世界タイトルマッチになる。大西洋のど真ん中、カーポベルデ生まれの父を持ち、プロビデンスで生まれ育った。6歳から地元のジムに通い始めた。パンチを出すときに『ブー・ブー』と声を出すのがクセで、現在までそれがニックネームになっている。才能はすくすくと育ち、アマチュアの世界選手権で優勝、五輪ベスト8の成績を残してタウンヒーローに。そして、満を持してプロに転向した。

 プロ入り後、一度はWBO世界スーパーウェルター級王座に就いたものの、プロモーションとの契約のもつれでひどい試合枯れに悩まされた時期もある。その間もずっと応援してくれたのが、地元のファンだった。昨年、車で1時間のボストンでの戦いで2度目の世界王座を手にしたときには、プロビデンスから大挙して応援団が駆けつけた。

マチェイ・スレッキ(右)
写真/Getty Images

 ただし、そんな主役が迎える挑戦者はかなりの難敵だ。スレッキは185センチのひょろりとした長身から奇抜なタイミングでパンチを打ち込んでくる。唯一の黒星はダニエル・ジェイコブス(アメリカ)に喫したものだが、最終回にダウンを奪われるまで勝負は僅差のままもつれた。キャリア前半は倒せなかったが、2014年からいきなり7連続KOと倒すコツもつかんだようだ。

 技術面の精度はアンドレイドが上。順当ならベーシックな展開作りから着実にポイントを稼いでいくはず。ただ、4度もダウンを奪いながらストップできなかったタイトルを獲得した戦い。初防衛戦も最終回でやっとストップと勝ち味が遅いのが気になる。カネロやゴロフキンに興味を持たせたいなら、果敢に攻め切るところもアピールしたい。

◆カリブの苦労人が再び世界挑戦へ

★WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ12回戦
カリド・ヤファイ(イギリス)対ノルベルト・ヒメネス(ドミニカ共和国)

ヤファイ:30歳/25戦25勝(15KO)
ヒメネス:28歳/41戦29勝(16KO)8敗4分

カリド・ヤファイ
写真/Getty Images

 エディ・ハーンが軽量級の軸にと期待するヤファイが4度目の防衛戦を迎える。安定感はあるのだが、スケール感はいまひとつ物足らない。ここ1年、試合から遠ざかっているヒメネスにしっかりと勝って、ビッグマッチにも名乗りを上げたいところだろう。

 ヒメネスは2014年に来日し、当時のWBAチャンピオン、河野公平(ワタナベ)に挑み、引き分けた実績がある。さらにプロ転向から4連敗しながら、そこから這い上がり、ここ8年も負けていない。

 そんなヒメネスはドミニカ共和国に多いラフなボクサーファイター。きちんと管理できるようなら、ヤファイの評価はもっと上がるのだが。

◆再びの世界獲りへ、パーカーが本格スタート

ジョセフ・パーカー(右)
写真/Getty Images

 ハーン率いるマッチルーム・ボクシングと3試合の契約を結んだ元WBO世界ヘビー級チャンピオン、ジョセフ・パーカー(ニュージーランド/27歳/25勝19KO2敗)が10回戦に登場する。39歳のベテラン、アレックス・リーパイ(オーストラリア/32勝26KO7敗4分)との顔合わせだ。

 不敗のまま世界王座にたどり着いたときには、抜群のスピード感と、破壊力満点のライトハンドが光ったもの。ところが、頂上の立つ厳しさに押し戻されたのか、それとも現代ヘビー級では大柄とは言えない193センチの体がハンディになったか、その後は伸び悩んだ。

 アンソニー・ジョシュア(イギリス)との統一戦は、美点をすべてかき消されたまま判定負け。ディリアン・ホワイト(イギリス)ともダウン応酬の打撃戦を演じながらも届かず連敗。まだ若いとはいえ、2度の大きなチャンスを逸しているだけに、ここは復活の足取りを速めたい。ややピークを過ぎた感もあるリーパイはぜひとも豪快になぎ倒しておきたいところ。

6月29日/NRGアリーナ(アメリカ・テキサス州ヒューストン)

ジャモール・チャーロ(左)
写真/Getty Images

◆人気リアリティ番組の王者に、チャーロが猛打をさく裂させるか

★WBC世界ミドル級暫定タイトルマッチ12回戦
ジャモール・チャーロ(アメリカ)対ブランドン・アダムス(アメリカ)

チャーロ:29歳/28戦28勝(21KO)
アダムス:29歳/23戦21勝(13KO)2敗
※Showtimeで全米中継

 暫定つきの世界チャンピオンのまま1年以上がたつチャーロだが、まさか現状維持で満足しているわけではなかろう。だが、今度の挑戦者も話題の主ではあっても、最上級とは言えない。まずはしっかり勝って、天を行く怪物ボクサーとの対戦を実現したいところだ。

 アダムスを話題の挑戦者と呼ぶのは、中堅クラスにすぎなかったこの男が上位に進出してきたのには、テレビの人気リアリティ番組で優勝したという背景があるからだ。ウィリー・モンロー(アメリカ)に完敗、ジョン・トンプソン(アメリカ)にはTKOで屈し、2015年以降は引退状態だった。ところが、チャンスがないボクサーたちがトーナメントで争う『コンテンダー』に2018年に登場し、一気に信頼を奪い取った。初戦でアマ世界選手権王者イフゲン・ヒトロフ(ウクライナ)に快勝。決勝でも伝説の男の2世ボクサー、シェーン・モズリー・ジュニア(アメリカ)にほぼフルマーク勝ちした。ただ、それでもチャーロとの距離は遠い。

 双子の弟ジャーメルと同じく、攻防は大ざっぱに見えるチャーロだが、決めるところはちゃんと決めてくる。すべて計算しての試合作りなのか。しかも、この兄貴のパンチングパワーはけた外れときている。予想を立てるならチャーロの豪快KO勝ちという線が濃厚か。

◆ルビンの剛拳が火を噴く

エリクソン・ルビン
写真/Getty Images

 レオン・ローソン3世(アメリカ/19歳/10戦10勝4KO=スーパーウェルター級)、オマール・フアレス(アメリカ/20歳/3戦3勝1KO=ウェルター級)といったアマチュア出身の精鋭、さらにはセカンドチャンスをうかがうエデュアルド・ラミレス(メキシコ/26歳/22勝9KO1敗3分=フェザー級)、ミゲール・フローレス(メキシコ/26歳/23勝11KO2敗)と、PBCのカードは盛りだくさんだ。だが、最も注目すべきはエリクソン・ルビン(アメリカ/23歳/20勝15KO1敗)だろう。

 ハイチ人の両親のもとに生まれ、アマチュア時代、キューバ・ナショナルチームの元ヘッドコーチ、ペドロ・ロゲに「40年間、ボクシングを見てきた中で最高の素質」と絶賛された。シャープな攻防感覚に、抜群の切れを持つパンチでランクを上げる。だが、2017年、初の世界挑戦ではジャーメル・チャーロ(アメリカ)にオープニングラウンドで戦慄的なKO負けを喫した。あれから2年、ルビンはしっかりと復調している。2月にはベテラン技巧派、イシュ・スミス(アメリカ)を棄権に追い込んだ。

 今回の相手、ザカリア・アトゥ(フランス/37歳/29勝7KO6敗2分)はここ5年間負けなしの元ヨーロッパ・チャンピオン。ルビンは世界再挑戦に向けて、痛快に倒したいところだ。

6月28日/ペチャンガ・リゾート&カジノ(アメリカ・カリフォルニア州テメクラ)

リチャード・カミー
写真/Getty Images

◆古豪のタフガイをカミーはさばききれるか

★IBF世界ライト級タイトルマッチ12回戦
リチャード・カミー(ガーナ)対レイムンド・ベルトラン(メキシコ)

カミー:32歳/30戦28勝(25KO)2敗
ベルトラン:38歳/46戦36勝(22KO)8敗1分1NC
※ESPNで全米中継

 ともにキャリアは平たんなものではなかった。カミーは世界初挑戦、カムバック戦と1-2のスピリットデシジョンを2戦連続で落としながら、今年2月、イサ・チャニエフ(ロシア)を2回までに3度倒して念願の世界王座を手に入れた。

 ベルトランは自分の責任もあったが、2度のチャンスを逸し、36歳でWBOタイトルをやっと獲得。だが、こちらは初防衛戦であっさり陥落。岡田博喜(角海老宝石)との激闘を9回KOで制して、世界戦のラインに何とか舞い戻った。

 ベルトランはとにかくタフで粘っこい。一撃のパンチには破壊力もある。一方のカミーは切れ味勝負。メキシカンの強襲をしのげれば、カミーの技術が生きてくる。

◆村田のパートナーが新星と対決

パトリック・デイ
写真/Getty Images

カルロス・アダメス
写真/Getty Images

 前座には期待のカードが多い。まず注目はスーパーウェルター級の10回戦。NABF、NABOとふたつの北米タイトルがかかる。チャンピオンとして登場するのは、村田のスパーリングパートナーとしてなじみのパトリック・デイ(アメリカ/26歳/17勝6KO2敗1分)だ。戦績が示すとおり、決してパンチャーではないが、シャープな身のこなし、手際のいいテクニックはなかなかのもの。ただ、この日迎えるのは、スター候補の一角、カルロス・アダメス(ドミニカ共和国/25歳/17戦17勝14KO)。激しく迫り、たたきつけてくる拳は左右ともに強力だ。デイとしてはスピードでかく乱したいところだが、アダメスのパワーをシャットアウトするのは簡単な作業ではない。

ジュニア・ファ
写真/Getty Images

 ヘビー級のジュニア・ファ(ニュージーランド/29歳/17戦17勝10KO)がアメリカ4度目の登場。ここまでの3勝のうち2戦は初回KO勝ち。196センチ、115キロの体も立派。ただ、攻防にもうひとつ歯切れの良さが見られない。経験を積むことで、スケールアップしていきたい。相手のドミニク・グウィン(アメリカ/44歳/37勝26KO12敗1分)は元ホープだが、ここ10戦は4勝6敗。ファは無難に突破しなければならない。

 アメリカのリングの厳しさは、しくじったら、大きな回り道を覚悟しなければいけないこと。ライト級のサウル・ロドリゲス(アメリカ/26歳/23勝17KO1分)もそうだ。4年前、ラスベガスのリングで元気のいいイバン・ナヘラ(アメリカ)を左フック一発でKOして脚光を浴びた。だが、その後は故障もあってとびとびの試合が続いている。そして今もテストを強いられる。メキシコのパンチャー、ミゲル・アンヘル・ゴンサレス(24歳/24勝21KO4敗)との10回戦。信頼を完全に取り戻すためには、何でもないように勝たないと意味はない。

まだまだあるぞ!
注目カード

藤原芽子
写真/ボクシング・マガジン

◆藤原芽子が初の世界挑戦

 東洋太平洋女子フェザー級チャンピオンの藤原芽子(真正/38歳/8勝3KO2敗2分)が29日、韓国・仁川で初の世界タイトルに臨む。挑むタイトルはWBA世界スーパーフェザー級王座、チャンピオンは崔賢美(チェ・ヒョンミ=韓国/28歳/16勝4KO1分)だ。

 3人の子供を持つシングルマザー、藤原は果敢なファイトが売り物。やや守りに難があるとされ、それが大きな不安にもなる。さらに崔は難敵である。もとは脱北者で、記録の上ではデビュー戦で世界王座を獲得(WBAフェザー級)。ここまで1試合を除いて、すべて世界戦として戦っている。試合間隔こそ空いているが、韓国随一の人気と実力を誇る女子ボクサーだ。藤原としてはどこまでも先手を取って攻めまくるしか、勝利の算段は見えてこない。

◆アメリカ帰りのスカルディーニャが無傷の連勝を伸ばすか

 エディ・ハーンがイタリアで展開するDAZNのファイトがイタリアのミラノで開催される(日本でのストリーミング中継は29日午前2時30分から)。

ダニエル・スカルディーニャ(右)
写真/Getty Images

 この日の目玉はスーパーミドル級のダニエル・スカルディーニャ(イタリア/27歳/16戦16勝14KO)。IBFインターナショナルタイトルをかけてアレッサンドロ・ゴディ(イタリア/31歳/35勝17KO4敗1分)と10回戦を行う。

 スカルディーニャはアメリカ・フロリダ州マイアミをトレーニングの拠点にしてプロに転向。ドミニカ共和国を中心に、パワフルなパンチでKOを重ねてきた。これといったテストマッチの経験がないのが難だが、キャリア豊富なゴディとどう戦うか。

 同じカードには伝統あるEBUヨーロッパのライト級タイトルマッチのほか、ウクライナ生まれ、国籍ルーマニア、そしてベースはイタリアというウェルター級、マクシム・プロバン(26歳/16勝14KO1分)も登場する。プログラムにはさらに、昨年、井上尚弥(大橋)に初回KO負けしてWBA世界バンタム級王座から陥落したジェイミー・マクドネル(イギリス/33歳/29勝13KO3敗1分1NC)の13ヵ月ぶりのカムバック戦もフューチャーされている。

文◎宮崎正博

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