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2019-06-01

【海外ボクシング】ウィークエンド・プレビュー 3団体ヘビー級王者ジョシュアが待望のアメリカ進出

今週最大のカードはアンソニー・ジョシュア(イギリス)のアメリカ・デビュー。カネロ・アルバレスが2万人以上の観客を集めたMSGにジョシュアは何人集められるのか。

写真上=アンソニー・ジョシュア(左)とアンディ・ルイス

6月1日/マディソンスクエア・ガーデン(アメリカ・ニューヨーク州ニューヨーク)

◆エンターテイメント王国へ、ジョシュアが顔見せ

★WBAスーパー・WBO・IBF世界ヘビー級タイトルマッチ12回戦
アンソニー・ジョシュア(イギリス)対アンディ・ルイス(アメリカ)

ジョシュア:29歳/22戦22勝(21KO)
ルイス:29歳/33戦32勝(21KO)1敗
※DAZNで午前6時30分からストリーミング中継

 ジョシュアはIBFの単一公認チャンピオン時代から通算するとこれが7度目の防衛戦になる。それ以上に重要なのは、この一戦がアメリカ・デビュー戦になること。長大な王朝を作ったウラディミール・クリチコ(ウクライナ)をドラマチックにストップし、ロンドンのサッカーアリーナに9万の大観衆を集めるなど、常に7万人以上ものファンをスタジアムに呼び寄せるイギリスでは傑出した存在感を持つ。それでも真のスーパースターになるためには、まだ数段ほどのステップが残る。その最初の一歩こそがアメリカ進出だというのは、ボブ・アラムを始めとする多くの関係者、ボクシングウォッチャーも言ってきたことだ。

 ただ、殿堂MSGデビューを飾る一戦の相手としてルイスというのはいささか心もとない。当初に予定されていたのは“ビッグベイビー”ジャーレル・ミラー(アメリカ)。そのミラーが薬物違反でカードから締め出されて、あらためて選ばれたのが29歳のメキシコ系アメリカ人だ。

 ルイスもミラー同様、その体はボリュームたっぷり。身長こそ188センチと現代ヘビー級では小柄な部類ながら、体重は115キロ平均。それでいて、なかなか正統派のボクシングを見せる。3年前に敵地ニュージーランドでジョセフ・パーカーと空位のWBO王座を争い、0−2のスコアで惜敗。その後、1年半のブランクを経て活動を再開し、3連勝をマークしている。その3戦の内容はまずまず。ただ、素材の頼もしさに勢いを加え、熟練度もまた一戦ごとに高めているジョシュアにとって、ルイスはそれほど難しい相手とは思えない。

 この先、イギリスの新レジェンドが向かうのは、プロモート的な難関があったとしても、デオンテイ・ワイルダー(アメリア)、タイソン・フューリー(イギリス)との三つ巴頂上戦。その大戦に盤石の基盤を作るための、チューンアップと考えるのが最も近いか。ジョシュアはとにかくかっこよく勝ちたい。

◆カラム・スミスもアメリカ初登場

★WBAスーパー世界スーパーミドル級タイトルマッチ12回戦
カラム・スミス(イギリス)対アッサン・エンダム(フランス)

スミス:29歳/25戦25勝(18KO)
エンダム:35歳/40戦37勝(21KO)3敗

カラム・スミス

 ジョシュアとともにイギリスからやってくるスミスも、このイベントの目玉になる。その名前が熱心なファンの間に、急速に広まっていったのはもう4年前。ロッキー・フィールディング(イギリス)を初回KOで破ったあたりから。その後も急ぐことなく、経験をかき集めて2017−18年シーズンのWBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)には満を持して出場。人気者ジョージ・グローブス(イギリス)との決勝戦で痛烈なKO勝ちで、『真の世界一決定戦』を標榜するトーナメントのスーパーミドル級初代チャンピオンになった。規律正しいボクサーパンチャー型で、191センチの長身から打ち落とすパンチは右にも左にも相当の破壊力を秘める。

アッサン・エンダム(右)

 そのスミスの相手はなかなかオフィシャルアナウンスされなかったが、ようやく出てきた名前は日本にはなじみのエンダム。村田諒太との苛烈な2連戦は記憶に新しい。村田戦後、イギリスのベテラン、マーティン・マレーを2−0判定で破り、世界戦線に生き残った。ただ、心配なのはスーパーミドル級でのフィット感だ。本来ミドル級のエンダムが1階級上で戦うのは3年ぶり。プロとして参加したリオ五輪では81キロ級で戦ったが、動きの鈍さが目立った。

 シャープなスミスが圧倒し、中盤までにストップするとみるのが順当か。

◆テイラーが女子3人目の4団体統一王座に挑む

★4団体女子世界ライト級王座統一戦10回戦
ケイティ・テイラー(アイルランド)対デルフィン・ベルソーン(ベルギー)

テイラー:32歳/13戦13勝(6KO)
ペルスーン:34歳/44戦43勝(18KO)1敗

ケイティ・テイラー

 アマチュアスターからプロに転じて2年半。テイラーはまたたく間にプロのトップスターに駆け上った。ハイテンポに切り込むスタイルは、プロでも魅力的。純真なアイリッシュ娘の雰囲気は、32歳になった今も失っておらず、そこがまた人気のもとになっている。

 11ヵ月のキャリアで初めて手にしたWBAタイトルを手始めに、すでに3つの世界ベルトを手に入れている。残っているのはペルスーンが持つWBCただひとつ。これに勝てば、ウェルター級のセシリア・ブレーカス(ノルウェー)、ミドル級のクラレッサ・シールズ(アメリカ)に次いで3人目のメジャー4団体統一チャンピオンになる。

 そのペルスーンは2014年に王座獲得後、頻繁にノンタイトル戦をはさみながらここまで9度の防衛。全キャリアを通じてベルギー以外で戦ったのはスイスでの1度きり。ただ、タイトル獲得時には国王に謁見して報告するなど、ベルギーではとびきりのリングヒロイン。むざむざとタイトルを明け渡すわけにはいかないだろう。

 総合力ではテーラーが上回る。圧勝してその声望をさらに高めたいところだ。

◆ヨーロッパの精鋭が続々

 このカードにはヨーロッパの精鋭たちが次々に登場する。ウェルター級のジョシュ・ケリー(イギリス/25歳/9戦9勝6KO)、ライトヘビー級のジョシュア・ブアティ(イギリス/26歳/10戦10勝8KO)、スーパーウェルター級のスレイマンヌ・シッソコ(フランス/27歳/8戦8勝6KO)。いずれも期待の若手だ。

 セネガル生まれのリオ五輪銅メダリスト、シッソコこそやや格落ちの対戦相手になるが、ケリーとブアティはけっこうなテストマッチになる。豊かな運動能力と思い切りのいい攻め口が評判のケリーは、フィラデルフィアの技巧派“ニュー”レイ・ロビンソン(アメリカ/33歳/24勝12KO3敗1分)と。ロビンソンは不敗の強打者エギディウス・カバラウスカス(リトアニア)と引き分けたばかり。ケリーはそんな上り調子の相手をどう打ち破るのだろうか。シッソコ同様、リオ五輪では銅メダリストとなったブアティは、世界挑戦経験もあるマルコ・アントニオ・ペリバン(メキシコ/34歳/25勝16KO4敗1分)。ブアティの切れ味のいいパンチがこのレベルで通用するのかどうか確認したい。

まだまだあるぞ!注目カード

◆PBCのB級スターが集結

 5月に引き続き、アメリカFOXスポーツ1で放映されるカードは、あと一歩でトップに届かない選手たちがメインを固める。Aマイナス、Bプラスの選手たちへ新たなチャンスを与えるためにテレビファイトを組むとは、PBCもなかなか手厚い(試合地はアメリカ・カリフォルニア州サンハシント)。

ウーゴ・センテノ

 メイン級はミドル級10回戦でジャモール・チャーロ(アメリカ)に痛烈KO負けのウーゴ・センテノ(アメリカ/28歳/27勝14KO2敗1NC)対世界戦2連敗のウィリー・モンロー・ジュニア(アメリカ/32歳/23勝6KO3敗)。かつてはスーパースター候補だったが、長期スランプから抜け出せないデボン・アレキサンダー(アメリカ/32歳/27勝14KO5敗1分)はやはり壁に突き当たって久しいイワン・レドカッキ(ウクライナ/33歳/22勝17KO4敗1分1NC)と対する。また、WBO世界バンタム級王座マーロン・タパレス(フィリピン/27歳/32勝15KO2敗)も出場する。

ジャック・テポラ(右)

 注目はフェザー級のサウスポー、ジャック・テポラ(フィリピン/24歳/22戦22勝17KO)。一時、キャリアが停滞してしまったが、約10か月ぶりの実戦でアメリカでの初陣に臨む。持ち前の爆発力が本領発揮なら、アメリカでも人気を勝ち得るに違いない。

◆中国重量級の新星メンがマカオ登場

 中国には重量級にもなかなかの人材がいるのだが、そのなかでも注目度が高いのがライトヘビー級のメン・ファンロン(31歳/14戦14勝9KO)だ。サウスポーの技巧派で、パンチも切れる。昨年秋には世界挑戦の経験もあるフランク・ブリオーニ(イギリス)を中国に呼び寄せ、5回TKO勝ちを飾った。

 そのメンが1日、マカオのウィン・パレス・コタイで12回戦に出場する。対戦するのは不敗のドイツ人アダム・ダイネス(28歳/17勝8KO1分)。このあたりに快勝できるようなら、2年ぶりのアメリカ進出、あるいはマカオに難敵を呼んでの興行も可能になってくる。

◆イギリスの第3勢力MTKも着々と下地作り

 イギリスのプロモーションチームの中で、エディ・ハーンのマッチルーム、フランク・ウォーレンのクィンズベリーに続き、存在感を増してきているのがMTKグローバルだ。1日、イギリス・ウェールズのカーディフのカードもESPN+で全米に中継される。

ジェイ・ハリス

 メインでは手ごまの軽量級ホープ、ジェイ・ハリス(イギリス/28歳/15戦15勝8KO)がEBUヨーロッパ・フライ級チャンピオンシップをかけて、アンヘル・モレノ(スペイン/35歳/19勝6KO3敗2分)と対戦する。モレノは3月、WBCチャンピオンのチャーリー・エドワーズ(イギリス)にダウンを奪われた末に完封負けしており、ハリスはもっといい勝ち方をしてアピールしたいところ。

 同じリングではWBOヨーロッパのライト級タイトルマッチも組まれているが、注目したいのはカザフスタンのウェルター級、ザナコシュ・ツラロフ(28歳/22戦22勝15KO)、ライト級のサウスポー、スルタン・ザウルベク(23歳/6戦6勝4KO)か。1年半ぶりの試合になるツラロフ、切れ味のいい左が光るザウルベクは7月6日、カザフスタン・アスタナで開催されるMTKグロバールのカードにも出場することになっている。今回はまずは景気づけの試合にもなる。

 なお、カザフのカードのメインはWBC世界バンタム級チャンピオン、ノルダン・ウバーリ(フランス)の防衛戦。前座には前述の両者に加え、アメリカをベースにトレーニングしているクルーザー級アリ・バロエフ(キルギスタン)、不敗のライト級ビクトル・コトチゴフ(カザフスタン)、ロシアを皮切りにガーナ、ドバイ、タイと転戦してきたアビカイル・シェガリエフ(カザフスタン)と中央アジアのプロスペクトがこぞって登場することになっている。

文◉宮崎正博
photos / Getty Images

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