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2019-05-17

【海外ボクシング】ウィークエンド・プレビュー 井上尚弥、注目のWBSS準決勝

今週の目玉はこれしかない。デオンテイ・ワイルダーのヘビー級タイトルマッチがあろうと、ビリー・ジョー・サンダースが2階級制覇を狙おうが、井上尚弥(大橋)が興味のすべて。海外の多くのメディアも最大注目するエマヌエル・ロドリゲス相手のWBSS準決勝は、絶対に見逃せない。

写真上=グラスゴーでWBSS準決勝に臨む井上尚弥
BBM

5月18日/SSEハイドロ(イギリス・スコットランド・グラスゴー)

◆モンスター、井上のすごさ全開か

★WBA・IBF・リングマガジン世界バンタム級タイトルマッチ12回戦
WBSSバンタム級準決勝
井上尚弥(大橋)対エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)
※日本時間19日午前4時半からWOWOWで生中継/同日21時からフジテレビ系で録画中継

井上:26歳/17戦17勝(15KO)
ロドリゲス:26歳/19戦19勝(12KO)

 必勝祈願でもなければ、希望的観測でもない。この欄の担当者の予想は井上の圧勝。しかも前半決着濃厚とみている。この若き大ボクサーはナチュラルなパンチングパワーはもちろん、スピード、ステップワークすべてで最高級のクォリティに到達している。しかも、試合が始まれば、集中力を一切きらすことなく、対戦者の戦力を破壊しにいく。この戦いでまた、世界のボクシングファン、関係者はファーイーストからやってきた怪物のものすごさに驚嘆するはずだ。

エマヌエル・ロドリゲス(左)
Getty Images

 もちろん、ロドリゲスも素晴らしい能力の持ち主だ。早くから注目されたハイセンス、アマチュアでの実績、さらに井上の評判を聞きつけて、徹底して研究してくるに違いない。だから、立ち上がりは気をつけたい。最初にリードの差し合い、動きのパターンを読まれたら、かなり攻略しづらくなる。早いリードブローに隠した右カウンターもねらってくるかもしれない。

 とはいえ、井上が大きなミスを冒さない限り、負ける姿が想像できないのだ。

ぶん回し屋バランチクを地元のヒーローはどう料理するのか

★IBF世界スーパーライト級タイトルマッチ12回戦
WBSSスーパーライト級準決勝
イワン・バランチク(ベラルーシ)対ジョシュ・テイラー(イギリス)

バランチク:26歳/19戦19勝12KO)
テイラー:28歳/14戦14勝(12KO)

ジョシュ・テイラー
Getty Images

 こちらの戦いも実に興味深い。ご当地ヒーロー、"ザ・タータン・トルネード"ことテイラーへの期待感はあふれんばかり。その前に立ちはだかるのが、豪腕バランチクときているから、もうたまらない。

イワン・バランチク
Getty Images

 バランチクのボクシングは、こと攻撃だけを切り取れば、そのあだ名のまんま、"ザ・ビースト"だ。長いアマチュア経験があるが、得意はがっつりと飛び込んで振り回すロングフックにスイング。まともにやり合ったら、なんとも危険な相手だ。

 とはいえ、テイラーもサウスポーの好戦派。ここはハイテンポの攻防で対抗したい。コンビネーションを刻んで刻んで、さらに刻み、切れ味鋭い左ストレート、右フックをねじり込む。
 正面切ってのガチンコ勝負に安易に乗らなければ、テイラーの回転力が戦いを支配するとみる。

◆万が一のリザーブも準備

 トーナメント戦は何が起こるか分からない。それでなくともこの4月、それもバンタム級準決勝でWBOチャンピオンのゾラニ・テテ(南アフリカ)が直前に出場キャンセルしたばかり。この前座にも、バンタム級戦のリザーブを前提に元IBF世界スーパーフライ級チャンピオン、ポール・バトラー(イギリス/30歳/28勝14KO2敗)の名前がラインナップされている。

 さらに注目はいずれバンタム級のトップレベルに迫ると評判のリー・マクレガー(イギリス/22歳/5戦5勝5KO)。プロ5戦目で英連邦チャンピオンになった英才だ。この日は15勝15敗と格下のニカラグア人、クリスティアン・ナルバエスとチューンナップの6回戦。6月22日には英連邦タイトルの防衛戦がESPN+で放映されることが決まっている。顔見せでへたは打てない。

 もうひとり、スーパーミドル級のザック・パーカー(イギリス/24歳/17戦17勝11KO)。前戦でダリル・ウィリアムス(イギリス)との不敗対決に競り勝った。その将来性を確認しておきたい。

5月18日/バークレイズセンター(アメリカ・ニューヨーク州ブルックリン)

★WBC世界ヘビー級タイトルマッチ12回戦
デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)VSドミニク・ブリージール(アメリカ)

ワイルダー:33歳/41戦40勝(39KO)1分
ブリージール:33歳/21戦20勝(18KO)1敗

デオンテイ・ワイルダー
Getty Images

 このふたり、境遇は似ている。さまざまな事情からハイティーンあるいは20代と、ボクシングを始めたのはかなり遅い。それ以前は他の花形スポーツで大成を目指していた点も同じ。アマチュアで未成熟のままオリンピックに出場したところまで同じときている。違うとすれば、その五輪で技術的には酷評されながらも銅メダルに到達したワイルダーに対し、ブリージールは初戦で敗退したことか。

 ワイルダーはプロでも大事に育てられ、今やスーパースター級の一角を占める。細身ながら、201センチの長身からビュンビュンとぶっ飛ばすパンチの鋭いこと。前戦でタイソン・フューリー(イギリス)から壮絶なダウンを奪いながら、驚異的な粘りにあってプロキャリアで初めて勝利を逸した。年内にもアンソニー・ジョシュア(イギリス)戦が実現かと囁かれている今、ぶっちぎりのパワーを見せつけたい。

ドミニク・ブリージール
Getty Images

 やはり身長201センチのブリージールは典型的なパワーパンチャー。大学フットボールの有望株だったが、ヒザを痛めて競技から離脱。スーパーヘビー級五輪金メダル・プロジェクトに拾われて、初めてグローブを握った。そんな背景もあってとにかく辛抱強い。巨体を利して前に出て、強打を狙っていく。世界初挑戦ではジョシュアに歯が立たず、TKO負けとなるも、キックボクシング出身のイズアグベ・ウゴノー(ポーランド)とはダウンの応酬の厳しい打撃戦の末、殴り倒した。その後もエリック・モリナ(アメリカ)、カルロス・ネグロン(プエルトリコ)と中堅をストップして2度目の世界挑戦にこぎ着けた。

 俊敏さではワイルダーが大きく上回る。ジャブからワンツーを軸に突き放し、展開を見きわめた上でワイルドな左フック、右ストレートが決められれば、豪快なKOシーンが十分に期待できる。

◆年に1度のラッセル登場。今度も圧勝か

★WBC世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
ゲリー・ラッセル・ジュニア(アメリカ)対キコ・マルチネス(スペイン)

ラッセル:30歳/30戦29勝(17KO)1敗
マルチネス:33歳/49戦39勝(28KO)8敗2分

ゲイリー・ラッセルJr
Getty Images

 2015年以降、年に1度ずつ。それも春から初夏にかけてのこの季節にしか戦わないラッセルだが、ハイレベルなサウスポーである事実に違いない。この一戦も自在に戦って圧勝するはずだ。

 何よりも挑戦者とはちょっと格が違う。マルチネスはかつて長谷川穂積をTKOした強打者ながら、洗練という言葉とはほど遠い。カール・フランプトンやスコット・クィッグ(いずれもイギリス)、レオ・サンタクルス(メキシコ)らにはしっかりと打ち取られている。

 ラッセル楽勝とみるのが当然だろう。ただ、このチャンピオン、年に1度だけの防衛戦というのは果たして許されるのだろうか。拳に不安を抱えているとはいえ、もっと戦わなければ、いつかは忘れられてしまう。

◆ボクシングパパの夢を叶えろ

ファン・エラルデス
Getty Images

 前座のスーパーライト級10回戦には、不敗のファン・エラルデス(アメリカ/28歳/16戦16勝10KO)が元IBF世界スーパーフェザー級チャンピオン、アルヘニス・メンデス(ドミニカ共和国/32歳/25勝12KO5敗2分1NC)と対する。

 エラルデスの父親は熱烈なボクシングファンで、そのためにカリフォルニアからラスベガスに移住。その息子も8歳からボクシングジムに通うことになる。2009年にプロ入りするが、なかなか試合に恵まれず、それまでの恩讐を断ってメイウェザージムに入門。そして腕を上げた。星を重ねてビッグマッチの前座への登用となる。手堅いメンデスに打ち勝てば、上位への道も開ける。

 もうひとつの10回戦はヘビー級。注目はロバート・アルフォンソ(キューバ/32歳/18戦18勝8KO)。アマチュア王国、キューバのナショナル選手権4連覇という傑物だ。右ストレート、左フックといずれも鋭いが、ヘビー級らしい豪快さはいまひとつ。そのせいか、のんびりとしたキャリアを通してきた。相手のイアゴ・キレジ(ジョージア/33歳/26勝18KO4敗)はクルーザー級ではなかなか筋の通った技巧を見せたが、ヘビー級に上げてからは振るわない。ここ3戦はいずれもKO負けだ。アルフォンソは決定力があるところを見せたい。

 ラッセル・ジュニアのふたりの弟も8回戦を戦う。強打が光るバンタム級のゲリー・アントニオ(26歳/13戦13勝11KO)、さらにリオ五輪代表のゲリー・アントワンヌ(22歳/8戦8勝8KO)。ともにキャリア作りの戦いになる。ちなみにラッセル一家、男兄弟の名前はすべてゲリー。ミドルネームがつかないと区別ができない。

5月18日/レイメックス・スタジアム(イギリス・スティーブニッジ)

◆サンダースの2階級制覇はカタい?

★WBO世界スーパーミドル級王座決定戦12回戦
ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)対シェファト・イスフィ(ドイツ)
※BTスポルト、アメリカにはESPN+でストリーミング配信

サンダース:29歳/27戦27勝(13KO)
イスフィィ:29歳/32戦27勝(20KO)3敗2分

ビリー・ジョー・サンダース
Getty Images

 お騒がせのサンダースの登場だ。薬物違反やセクハラ疑惑で、アメリカのマサチューセッツ州コミッションからライセンス発行を拒否され、3度守ったWBOのミドル級王座をあきらめた。すると再起戦はなんとクルーザー級で出場する。

 この男、なんともとらえどころがない。とはいえ、ボクシングは堅調そのもの。長いジャブで試合を組み立てて、強打のデビッド・レミュー(カナダ)をものの見事に完封してみせた。決め手がないのは難だが、この一戦で技術面での評価はぐんと上がったもの。

 セルビア生まれのイスフィはサンダースに比べると、ずっと地味な存在に甘んじてきた。このところ10連勝と波に乗るが、実績を評価できる試合と言ったら、ペルーの世界ランカー、ダビド・セガーラを初回KOで破った星くらい。

 もしやの一発がなかったら、サンダースが初めて戦うスーパーミドルの世界戦を勝ち抜くのはそう難しい作業とは思えない。

◆注目のジョイスは巨人ユスティノフと対戦

ジョー・ジョイス
Getty Images

 リオ五輪スーパーヘビー級銀メダリストからプロに転向したジョー・ジョイス(イギリス/33歳/8戦8勝8KO)は、42歳の大ベテラン、アレクサンデル・ユスティノフ(ロシア/34勝25KO3敗)と10回戦。

 イギリスでは期待度が高いジョイスだが、2月のバーメイン・スティバーン(カナダ)戦では試合が長引くと、どんどん単調になっていく欠点も露呈した。連敗中のユスティノフは身長202センチ。自身も198センチと高さのあるジョイスだが、さらに大きい。ここはちゃんと成長した姿を見せなければならない。

 ジョイスは7月13日、ロンドンのO2アリーナでチームの仲間でもあるスーパーホープ、ダニエル・デュボア(イギリス)との対戦も噂されたが、デュボアの相手は若いがんばり屋ネイサン・ゴーマン(イギリス)になっている。年齢的にも早い勝負を仕掛けたいジョイスは、今度も好ファイトが使命となっている。

ライアン・ガーナー(左)
Getty Images

 それにしてもスコットランドでWBSSのビッグマッチがあるというのに、こちらも豪華な前座の大盤ぶるまい。主催するウィンズベリー・プロモーションの通例から見ると、全部が消化するとは限らないが、組み合わせ表には期待の精鋭たちの名前がずらり。なかでもハービー・ホーン(23歳/5戦5勝2KO=スーパーフライ級)、ライアン・ガーナー(21歳/8戦8勝6KO=スーパーフェザー級)、ウィリー・ハッチンソン(20歳/7戦7勝5KO=ライトヘビー級)は評価が高い。このラインナップにイギリス初上陸のアマチュア・ヨーロッパ・チャンピオン、バラス・バッチュカイー(ハンガリー/31歳/9戦9勝5KO)も加わる。

まだまだあるぞ!注目カード

◆バーネットがWBSS準決勝直前に再起7

ライアン・バーネット
Getty Images

 前WBAスーパー世界バンタム級チャンピオンのライアン・バーネット(イギリス/26歳/19勝9KO1敗)が17日、地元イギリス・北アイルランドのベルファストでカムバック戦を行う。この試合からスーパーバンタム級にウェイトを上げ、空位のWBCインターナショナルタイトルをかけてジェイバート・ゴメラ(フィリピン/26歳/14勝7KO5敗)との12回戦になる。

 WBSSのバンタム級トーナメントでは優勝候補の一角を占めながら、ノニト・ドネア(フィリピン)との1回戦で背中を痛めて自ら崩れ落ちる、意外な形で敗退。その姿を見ると、回復までにはかなり時間がかかると思われたが、わずか半年で復帰となった。対戦者のゴメラは2017年に来日して東洋太平洋スーパーバンタム級戦に出場、大竹秀典(金子)のボディ打ちにダウンを奪われて判定負けしている。一撃強打の魅力には乏しいバーネットながら、持ち味の巧妙なペースメイクで切り崩し、ストップに持ち込む公算が高い。

 前座6回戦にはリオ五輪ウェルター級ベスト8のスティーブン・ドネリー(イギリス/30歳/4戦4勝)が出場する。トップアマチュアながらここまでKO勝ちは0。アピールするためにもしっかりと倒したい。

 このイベントはイギリスの新勢力MTKグローバル・グループの主催。動画はESPN+でアメリカにも配信される。

◆フックが4年ぶりにアメリカのリングに登場

マルコ・フック
Getty Images

 元WBO世界クルーザー級チャンピオンで今はヘビー級で戦うマルコ・フック(ドイツ/34歳/41勝28KO5敗1分)が17日、アメリカ・コネチカット州マシャンタケットのフォックスウッズ・リゾートで8回戦に出場する。

 さまざまな格闘技で活躍した後にボクシングに転向、WBO王座を13度も守ったフックだが、4年前のアメリカ・デビュー戦では、当時は無名に近かったクジシュトフ・グロワキ(ポーランド)にKO負け。2017年にはオレクサンダー・ウシク(ウクライナ)にもTKO負けしてしまった。ならばとヘビー級への転向を本格化し、100キロの体を作り上げて、この日のリングを迎える。対戦するニック・ギバス(アメリカ/40歳/14勝9KO10敗3分)は2月にも黒星を喫したばかり。問題なくけりをつけたいところだ。

 この日、アメリカ・イーストコーストの実力派プロモーションが提供する『ブロードウェイ・ボクシング』シリーズのメインは21歳のスーパーライト級、マイクァン・ウィリアムス(アメリカ/14戦14勝7KO)。このほかにも27歳のヘビー級、ジョージ・アリアス(ドミニカ共和国/13戦13勝7KO)、26歳のフェザー級コンテンダー、トカ・カーン・クレイリー(アメリカ/25勝17KO2敗)ほか、有望な若手がずらり。フックが生き残るためには、インパクトのある勝ちっぷりしかない。

 このカードはUFC FIGHT PASSでストリーミング中継される。

◆43歳のナルバエスはいまだバリバリの現役

 井上尚弥の豪打に散ったのは5年前。ゾラニ・テテの強打の前に勝負できずに完敗したのは13ヵ月前。そんな43歳のオマール・ナルバエス(アルゼンチン/48勝25KO3敗2分)はいまだ現役にこだわり続ける。18日、アルゼンチン・ブエノスアイレス県の海浜都市トレス・アロヨスでカルロス・サルディネス(アルゼンチン/26歳/15勝2KO2敗)と対する。サルディニスは元南米チャンピオンだが、ナルバエスとの格の違いは明白だ。あとは40代になってからの1年以上のブランクがどう響くかが問題。

 同じリングにはライト級のグスタボ・レモス(アルゼンチン/23歳/21戦21勝11KO)も出場する。37歳の古豪ペドロ・ベルドュ(ベネズエラ/28勝22KO20敗3分)相手に、地力があるところを証明したい。

文◎宮崎正博

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