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2019-04-22

【海外ボクシング】ガルシアが再起/フィゲロア弟が暫定王者/カシメロが3階級制覇

元世界2階級制覇者で現在WBCウェルター級1位のダニー・ガルシア(アメリカ)が20日(日本時間21日)、アメリカ・カリフォルニア州カーソンのディグニティヘルス・スポーツパークで、WBC同級12位のエイドリアン・グラナドス(メキシコ)と12回戦を行い、7回1分33秒KO勝ちを収めた。アンダーカードではWBAスーパーバンタム級暫定王座決定戦が行われ、WBA2位のブランドン・フィゲロア(アメリカ)が同5位のヨンフレス・パレホ(ベネズエラ)を8回終了KOで下し、新チャンピオンになった。さらに、全13試合が行われた今興行のトリは、WBOバンタム級暫定王座決定戦。夜11時近く、テレビクルーも撤収し、霧がたちこめる屋外会場のリングで、元世界2階級制覇者ジョン・リール・カシメロ(フィリピン)がWBO1位のリカルド・エスピノサ(メキシコ)を最終12回44秒KOに仕留めた(※カリフォルニア州ルールで、レフェリーストップ、棄権ともにKOと記録される。)。

上写真=ガルシア(右)は、KO負けを喫したことのないグラナドスをきっちりと仕留めた

ガルシアはふたたびトップ戦線へ

 現パウンドフォーパウンド最強のひとりWBO世界ウェルター級王者テレンス・クロフォード(アメリカ)が、アメリカ東海岸ニューヨークの殿堂マジソンスクエア・ガーデンで元WBA・IBFスーパーライト級王者アミール・カーン(イギリス)を圧倒したその日、西海岸ではガルシアが、同級トップ戦線に健在をアピールした。

 昨年9月にショーン・ポーター(アメリカ)とのWBC王座決定戦で競り負けて以来の再起戦。その相手に選ばれたグラナドスは、ガルシアと同じくスーパーライト級から上げてきた中堅選手で、世界4階級制覇者エイドリアン・ブローナー(アメリカ)をはじめポーターや元五輪金フェリックス・ディアス(ドミニカ共和国)ら錚々たる面々を手こずらせ、敗れはしたが一度もKO負けがないタフガイとして知られている。

 しかしそんな勇敢なファイターが相手だからこそ、ガルシアの巧さ、攻防の正確さがなおさら際立った。初回のジャブの交換から実力の違いを見せ、前に出てくるグラナドスの出端、打ち終わりを、得意の左フック、多彩なコンビネーションで見事に叩いていく。2回、グラナドスの左アッパーに左フックを合わせてノックダウン。さらに右フックで2度目のダウンを奪い、5回には相打ちのタイミングで右ショートを打ち込み、3度目のダウン。それでもグラナドスの心は折れなかったが、被弾し続ける様子を見て、レフェリーはストップのタイミングを探していた。7回、ガルシアが右フックを機にグラナドスをロープに詰めてラッシュしたところで、レフェリーが試合終了を宣言した。

「今日はどうしてもKO勝ちしてアピールする必要があったんだ。今日のように私が110%を注いだら、誰も私にはかなわない」、グラナドスに初KOを味わわせ、満足げなガルシアは、これで37戦35勝(21KO)2敗。この勝利で空位のWBCシルバータイトルを獲得した。敗れたグラナドスは30戦20勝(14KO)7敗2分1無効試合。

 無敗のままスーパーライト級、ウェルター級の世界2階級制覇を果たしたものの、近年は現WBAスーパー王者キース・サーマン(アメリカ)、ポーターらとの接戦を落としてきたガルシアは、彼らとの「再戦」を望んでいる。タレント揃いのウェルター級戦線は、ビッグビジネスの宝庫だ。トップランク傘下のクロフォードとはプロモート上の壁があっても、サーマン、ポーター、IBF同級王者エロール・スペンス(アメリカ)、そして現WBA正規王者の“生ける伝説”マニー・パッキャオ(フィリピン)らはすべて、同じPBC(プレミアムボクシングチャンピオンズ)傘下にいる。現にパッキャオの次期対戦者候補でもあるガルシアは、「今日の私のパフォーマンスが、マニー・パッキャオをおじけづかせていないことを祈るよ」と、誘いの“ジャブ”。もちろん、望むビッグファイトは、今日のように面白いほどパンチが当たるなんてことはないと、承知しているはずだ。

フィゲロア弟は無敗のまま暫定王者に

フィゲロア弟(右)は、今後日本選手との絡みもありそう

 白皙の美男子フィゲロアが開始から前に出た。元WBC世界ライト級王者の実兄オマールとそっくりな好戦スタイルで、左右に構えを変えながらボディブロー、左右アッパーでパレホを下がらせる。パレホの右ストレート、右アッパーに迎え撃たれてもひるまず攻め続けると、8回終了後のインターバル中にパレホ陣営が棄権を申し出た。

 フィゲロアは19戦全勝14KO。パレホは27戦22勝(11KO)4敗1分。

「夢がかなってうれしい。でももちろん僕は、“次”の身。これからの展開が楽しみだ」と22歳の勝者が言うとおり、手にしたWBAタイトルには“暫定”の文字がつく。WBAスーパーバンタム級の“正規”王者ダニエル・ローマン(アメリカ)は、IBF王者TJ・ドヘニー(アイルランド)との統一戦を26日に控えている。その戦いに決着がつき、統一王者が誕生した時点で、WBA王者としては“スーパー”王者に格上げ。フィゲロアが“正規”に昇格、という流れが予想される。ローマン、ドヘニーとも日本で現タイトルを獲得しており、この階級は日本にとって重要なフィールド。WBC暫定王者の亀田和毅(協栄)、前IBF王者で現1位の岩佐亮佑(セレス)をはじめ、WBC2位の和氣慎吾(FLARE山上)、元IBF王者の小國以載(角海老宝石)や東洋太平洋王者でIBF8位の勅使河原弘晶(輪島功一スポーツ)ら、多くの日本人世界ランカーたちがチャンスをうかがっている。フィゲロアも彼らのターゲットの一人。若々しい好戦派に、付け入るスキはまだたくさんありそうだ。

初の米国試合でカシメロ戴冠

3本目のベルトを嬉しそうに抱えるカシメロ

 WBO世界バンタム級王者ゾラニ・テテ(南アフリカ)がWBSSトーナメントに出場中のため、1位エスピノサとの指名試合を行えず、設けられた暫定王座である。10連続KO勝ちの勢いに乗る21歳のエスピノサは、立ち上がりから積極的に出た。歴戦の30歳カシメロは左フック、右のオーバーハンドとアッパーで、打ち終わりをことごとく叩いた。6回終了間際には右フックでダウンも奪ってみせる。が、試合は長引いた。ライトフライ級、フライ級で世界を制したカシメロだが、やはりバンタム級では体格の不利がある。階級の壁、というべきか。どれだけ強振をヒットしてもメキシカンの前進を止められない。それでも、エスピノサがダメージを溜め込んでいたのは間違いなかった。最終回、カシメロのビッグライトが炸裂、すかさず左につなげてエスピノサをノックダウン。試合続行を望んだ相手に左フックを連打して、レフェリーストップを呼び込んだ。11回までの公式採点は、意外にも105-103、104-104、103-105のドロー。実際、勝負がかかった最終ラウンドだった。

 これまでニカラグア、南アフリカ、中国、イギリスほか様々な国で戦い、初めてのアメリカ遠征で世界3階級制覇を果たしたカシメロは、31戦27勝(18KO)4敗。フライ級挑戦時の井岡一翔(Reason大貴)に初黒星を与えた曲者として知られるアムナット・ルエンロエン(タイ)を倒し切るなど攻撃力が魅力だが、体格的にみて、いまの世界バンタム級トップ戦線に食い込むのは簡単ではなさそうだ。エスピノサは26戦23勝(20KO)3敗。

文_宮田有理子 Text by Yuriko Miyata
Photos by Frank Micelotta/FOX (Garcia、Figueroa)、Yuriko Miyata(Casimero)

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