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2019-03-29

【ボクシング】中村祐斗&菅原秀馬。 4月、地元・鈴鹿のダブルメインに登場するふたりの決意。

 例年4月に三重で行われているプロボクシングの興行『REAL FIGHT』が、今年は14日(日)に三重県津市の「メッセウィング・みえ」で挙行される。鈴鹿市の市野ボクシングジムが開催する5回目の自主興行。3年続けてメインを務めるのはジムの看板選手で22歳の日本スーパーフライ級12位、中村祐斗(9勝7KO5敗)。同じ22歳の近藤冬真(蟹江/7勝1KO4敗)を迎える一戦は、日本ユース王座の初防衛戦でもある。セミには同門で23歳のサウスポー菅原秀馬(6勝4KO1敗)が、29歳の元東洋太平洋スーパーバンタム級王者、ロリ・ガスカ(フィリピン/24勝8KO8敗1分)に挑む“冒険マッチ”が組まれた。「僕からしたらダブルメイン。ふたりで勝って、ジムを活気づけたいし、三重を盛り上げたい」(中村)、「先に自分が勝って、ずっと切磋琢磨してきたユウトにつなげたい」(菅原)と、三重からさらに上を目指すふたりは、地元での1年に1度の試合に燃えている。

上写真=中村(右)と菅原。彼らの熱い“レース”にも注目だ

敗戦が、自身を見直す転機だった──中村

 2017年にJPBA(日本プロボクシング協会)が新設し、2018年9月からJBC(日本ボクシングコミッション)公認となった日本ユース王座(24歳以下、6回戦<B級>で1勝以上が出場条件)。まだ歴史は浅いが、若手同士の好カードが多数実現するようになり、若いボクサーたちの成長を促す場として定着しつつある。中村にとっても、自身のボクシングを見つめ直すきっかけになった。

 2年前の4月、地元で初メインを務めた6回戦。中村は自慢の強打で相手のアゴを骨折させ、2回終了TKO勝ちを収めた。ところが続く東京・後楽園ホールでの日本ユース初代バンタム級王座決定戦では、2015年の全日本新人王で、長身サウスポーの中川抹茶(角海老宝石)に8回TKO負け。さらに地元で迎えた再起戦では、攻防バランスにすぐれ、当時6連勝中の荒木哲(斉藤)に判定負けと連敗。いずれもジャブを基調としたボクシングの前に力を発揮できなかった。

 特に、次の後楽園ホールで白井・具志堅スポーツジムのホープ大湾硫斗に判定でプロ初黒星をつけ、日本ユース・バンタム級王座を射止める荒木との試合は「何度も見返して、勉強した」と転機になった。岡山県倉敷市の地方ジムを拠点にしながら、三重、そして東京と敵地でしっかり判定勝利をものにする荒木のボクシングに、パワー頼みになっていた自分の姿を突きつけられた。

 この1年、「左の使い方や足の使い方、パンチの強弱を課題」に練習に取り組み、父の和弘トレーナーとベースアップを図ってきた。昨年12月、敵地・大阪で臨んだ日本ユース王座決定戦。2016年の全日本新人王・西軍代表決定戦で際どい判定を落とした因縁の地で競り勝ち、「今までに比べたら冷静に戦えた。悔しい思いをした大阪で判定で勝てたことが、自分の中では大きい」と手応えを得た。

 挑戦者で同じ中部の近藤は後楽園ホールで連敗中だが、中村自身が巧者と認める相手。「パワーだけじゃないところを見せて、チャンスで倒したい」と、テーマにしてきた巧さで近藤を上回り、持ち味のパワーを見せつけることを誓う。

 アンダーカードには、中村のふたりの弟も出場。ともに今年の新人王トーナメントにエントリーし、兄が果たせなかった全日本新人王を目指す。同じリングで、次男で19歳の淳希(アツキ)は前哨戦、三男で18歳の龍明(リュウメイ)は中日本新人王予選の初戦を迎える。

 長男の祐斗が中学3年でグローブを握るまで、ボクシングとはまったく縁がなかったという中村家。今では父がジムのマネージャー兼トレーナーとして息子たちを支え、母もボクシングの動画や最新情報をネットでチェックする。3兄弟もミットを持ち合ったり、アドバイスし合ったりとお互いを高め合う日々。鈴鹿の出身、地元のジムから日本ランカーとなった市野将士会長のもと、家族でチャンピオンの夢を追いかける。

冒険マッチを一気の浮上のきっかけにしたい──菅原

 初の8回戦(フェザー級)で大勝負を迎える菅原。ガスカは、のちの世界王者・小國以載(角海老宝石)と東洋太平洋王座を争い、元世界王者の下田昭文(帝拳)と引き分けるなど、日本でもおなじみの百戦錬磨。昨年、来日して辰吉寿以輝(大阪帝拳)のスパーリングパートナーを務め、これが1年5ヵ月ぶりの復帰戦となるが、年齢的にもまだ若く、力を見込んだ大阪帝拳ジムのサポートを受けたリングとなる。

 経験の差が歴然としていることは否めない。それでも「巧いし、老かいな相手」と認めた上で、市野会長も菅原も「絶対に勝てないとは思わない」と口をそろえる。

「僕にはまだまだ早かったなと言われるのがいちばん嫌。いい勝負で終わらせるつもりもないし、どんな形でもしっかり勝ちたい」

 小学1年から高校3年まで極真空手に打ち込み、全日本大会にも何度も出場した。ボクシングに惹かれたのは、この年代では珍しく『あしたのジョー』がきっかけという。小学生のころ、父の実家にあった漫画を夢中で読み、「リアリティーがあって、カッコいい。燃えましたね」と振り返る。ちなみに好きな登場人物は力石徹。「減量してでもジョーと決着をつける。ストイックなところが好き」という。

 以来、ずっと心に温めてきた思いを実現するのは高校卒業後。就職して、「自分のお金で始められるようになってから」市野ジムの門を叩いた。今も近鉄の車両整備が本業。夜勤もあり、練習がままならないこともあるが、スピードに自信を持つシャープなサウスポーは「いつもと変わらない気持ちで試合に臨み、自分の実力をそのまま出せれば」と、自身の可能性を信じ、大きな勝利をつかみにいく。

 全8試合が行われる『REAL FIGHT VOL.5』は4月14日(日)11時30分に開場。12時に第1試合のゴングが鳴る。

文&写真_船橋真二郎 Text & Photo by Shinjiro Funahashi

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