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2019-03-22

【海外ボクシング】ウィークエンド・プレビュー ウェルター級最前線に割り込むのはピーターソンかリピネッツか

絶対的な好カードとなると心細い今週末。それでもじっと見渡せば、シブいマッチメイクや明日のスターたちの大事なテストマッチもあちらこちらに。今週も世界のボクシングは元気である。

写真上=生き残りをかけて戦うピーターソン(左)とリピネッツ(右)。中央は元ヘビー級王者レノックス・ルイス
Getty Images

3月24日/MGMナショナルハーバー(アメリカ・メリーランド州オクソンヒル)

★ウェルター級12回戦
レイモント・ピーターソン(アメリカ)対セルゲイ・リピネッツ(ロシア)
※FOXスポーツ1で全米中継

ピーターソン:35歳/40戦35勝(17KO)4敗1分
リピネッツ:29歳/15戦14勝(10KO)1敗

レイモント・ピーターソン
Getty Images

セルゲイ・リピネッツ
Getty Images

 確実なテクニックと粘り強さ、あるいは勇敢なファイトスタイルで層の厚いウェルター級戦線に食い下がっているピーターソンも、いよいよ今回がラストチャンスになるかもしれない。対戦するのは格闘技上がりのタフガイ、リピネッツ。マイキー・ガルシア(アメリカ)に敗れ、IBFのスーパーライト級タイトルを失ってウェルター級に転じてから2戦目になる。まだまだ荒削りで、それが今後の成長力をなお予感させる存在だ。エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)の猛攻の前に棄権を余儀なくされてから14ヵ月。そんなピーターソンのテクニックにさび付きがなければ十分に伍して戦えるはずだが……。

◆ピーターソン弟も重大なテスト

レイモント(右)の弟ピーターソン(左)も出場
Getty Images

 レイモントの弟、アンソニー・ピーターソン(アメリカ/33歳/37勝24KO1敗1NC)はスーパーライト級10回戦で、元IBF世界スーパーフェザー級チャンピオンのアルヘニス・メンデス(ドミニカ共和国/32歳/32戦25勝12KO5敗1分1NC)と対戦する。兄ほどの技の冴えはない分、攻撃的なピーターソンだが、ケガが多く、なかなか試合が組めない。メンデスもひところの勢いはないが、カリブの選手らしい柔軟性を持つ。レイモントとアンソニー、幼いころ両親に捨てられ、ホームレス生活からボクシングに出会って這い上がった兄弟のキャリアは、この夜の結果次第で幕引きになる可能性もある。

 4回戦にはスーパーウェルター級のスーパールーキー、ロレンソ・シンプソン(アメリカ/19歳/2戦2勝2KO)も出場する。

3月23日/コッパー・ボックス・アリーナ(イギリス・ロンドン・ハックニーウィック)
イギリス軽量級期待のエドワーズが初防衛戦

★WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦
チャーリー・エドワーズ(イギリス)対アンヘル・モレノ(スペイン)
※現地ではDAZNでライブストリーミング配信

エドワーズ:26歳/15戦14勝5KO1敗
モレノ:35歳/23戦19勝6KO2敗2分

チャーリー・エドワーズ
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 マッチルームのプロモーター、エディ・ハーンはよほどこのエドワーズを売り出したいのだろう。プロ9戦目で初の世界挑戦を組み、ジョンリール・カシメロ(フィリピン)に惨敗しながら、2年後の2018年12月に再びチャンスを与えた。そして日本からタイトルを持ち去ったクリストファー・ロサレス(ニカラグア)を破り、念願のタイトルを手にした。スピードに乗ったテンポのいい攻撃が持ち味ながら、まだまだ力強さに欠ける。王者になってわずか3ヵ月の初防衛戦と忙しいスケジュールだが、今は一戦一戦が今後のキャリアの血となり肉となる。このところ9連勝ながら、これといった選手との対戦がないモレノを楽々と完封したいところだ。

◆前座にもホープが続々登場

ジョシュア・ブアティ
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 この日の前座には2つのイギリス・チャンピオンシップ・ファイトが行われる。しかも登場するのはいずれもリオ五輪代表からプロ入りしたホープだ。空位のライトヘビー級王座決定戦にはジョシュア・ブアティ(26歳/9戦9勝7KO)がリアム・コンロイ(26歳/16勝8KO3敗1分)と対戦。切れ味抜群のパンチで3連続初回KO勝ちのブアティが早々に決着をつけるか。

ローレンス・オコリー

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 前戦でナショナル王者となったローレンス・オコリー(26歳/11戦11勝8KO)は、英連邦王者ウェディ・カマチョ(33歳/21勝12KO7敗)と双方のタイトルを賭けて対決。196cmの長身から打ち込む左右ストレートが魅力的なオコリーだが、あまりにお行儀がいい攻防が危なっかしく見えたりもする。もう一段階スケールアップするために、攻防の厚みを加えてほしいところだ。

ジェイソン・クィグリー(左)
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 8回戦には以前、村田諒太(帝拳)の対戦者候補として名前が挙がったジェイソン・クィグリー(アイルランド/27歳/15戦15勝11KO)がマティアス・エクルンド(フィンランド/34歳/10勝4KO1敗2分)と対戦する。ずっとアメリカのリングで活動してきたクィグリーは、今回がプロでは初のヨーロッパ登場。世界選手権2位、ヨーロッパ選手権優勝とアマチュアで大きな実績を残している。ここは格の違いを見せつけたい。

まだまだあるぞ!注目カード
マグダレノ、プーレフ、ダダシェフ……

◆ハーンのライバル、ウォーレンも負けじと有望株をずらり

 エディ・ハーンのイギリスでのライバル・プロモーター、フランク・ウォーレンも負けてはいない。エドワーズの世界戦と同じ23日に、同国レスターで手駒をずらりとそろえたカードを組み、ESPN+でライブストリーミング配信する。

サム・ボーエン(右)
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ネイサン・ゴーマン
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 こちらはサム・ボーエン(26歳/14戦14勝10KO)が出場するイギリス・スーパーフェザー級タイトルマッチ、イギリス・ヘビー級のトップにしがみつくネイサン・ゴーマン(22歳/15戦15勝11KO)、かつてのトップアマチュア、サム・マクスウエル(30歳/10戦10勝8KO)というラインナップ。国際的にはまだまだながら、活きのいい若手たちだ。

トミー・フューリー
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 さらにその前には、この後、大きく成長する可能性のあるスーパーウェルター級のCJ・チャレンジャー(24歳/9戦9勝2KO)、2016年の世界ユース選手権優勝のライトヘビー級ウィリー・ハッチンソン(20歳/6戦6勝4KO)、タイソン・フューリーの弟トミー・フューリー(19歳/1戦1勝)と、有望株を次々に投入している。

 それにしても、これだけの素材が引きも切らずに登場するイギリスの活況はただごとではない。

◆マグダレノが再起、プーレフはアメリカ初登場

ジェシー・マグダレノ
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 元WBO世界スーパーバンタム級チャンピオンのジェシー・マグダレノ(アメリカ/27歳/26戦25勝18KO1敗)が、11ヵ月ぶりにリングに戻ってくる。23日、アメリカ・カリフォルニア州のコスタメサでやはり元世界王者のリコ・ラモス(アメリカ/31歳/30勝14KO5敗)と10回戦を行う。

 ノニト・ドネア(フィリピン)に土をつけ、一気にスターダムに駆け上がるかに見えたマグダレノだが、負傷によるブランクで出鼻をくじかれ、さらに伏兵アイザック・ドグボエ(ガーナ)の強打に沈んだ。今回の相手、ラモスは8年前に下田昭文(帝拳)をKOしてWBA世界スーパーバンタム級タイトルを手にしながら、ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)に歯が立たず、王座転落。その後は長いスランプにあえいだが、ここにきて6連勝と波に乗っている。とはいえ、マグダレノとしてはしっかり倒しきりたい相手ではある。

クブラト・プーレフ(右)
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 ボブ・アラムがESPNに提供するこのカードでは、ヘビー級の大ベテラン、クブラト・プーレフ(ブルガリア/37歳/26勝13KO1敗)がアメリカ初登場する。ジャーレル・ミラーに初黒星を喫したボグダン・ディヌ(ルーマニア/32歳/18勝14KO1敗)との10回戦。プーレフは同じく長い間、アマチュアのトップとして戦った弟のターベル・プーレフ(ブルガリア/36歳/12戦12勝11KO)を伴っての登場だ。

 アラム率いるトップランクは分厚い選手層を誇るが、アンソニー・ジョシュアはマッチルーム、デオンテイ・ワイルダーはPBCと、ヘビー級だけは出遅れていた。だが、ワイルダーとドラマチックに引き分けたタイソン・フューリーと契約し、一気に巻き返しにかかっている。プーレフは自軍の二番手、三番手として大事な戦力になる。

マキシム・ダダシェフ
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 もうひとつ、スーパーライト級10回戦では、不敗のホープ、マキシム・ダダシェフ(ロシア/28歳/12戦12勝10KO)が、原田門戸という名で日本で戦っていたリッキー・シスムンド(フィリピン/32歳/35勝17KO12敗3分)と対戦。ダダシェフは高い技量とハードヒットを併せ持つが、柔軟性がもうひとつ。タフなシスムンドを簡単にコントロールできるようなら、もうひとつ上にステップアップしてもいいのだろう。

◆ダスマリナスのパワーは本物か

マイケル・ダスマリナス(右)
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 23日、フィリピンのパサイシティでは、マニー・パッキャオがトップに立つMPプロモーションとシンガポール、マレーシアでムーブメントを作ろうとしているリングスターマネージメント、多くのタレントを抱えるフィリピンのジム・クロード・マナンギルが共催するイベントが行われる。

 注目はフィリピン人同士によるメインイベントに出場するマイケル・ダスマリナス(26歳/28勝19KO2敗1分)。はっきり言って、とても粗い選手だが、一発強打の魅力はたっぷり。昨春、シンガポールでカリム・ゲルフィ(フランス)を一撃で沈めたインパクトはかなりのものだった。その後、不敗のガーナ人マーニョ・プランジェと引き分けと不安定だが、今度の一戦はどうか。相手のケニー・デメシーリョ(26歳/14勝8KO4敗2分)は戦績は平凡だし、1年ぶりの試合になるが、ここ8戦のうち6試合は何らかのタイトルマッチというタフなキャリアの持ち主。ダスマリナスにとっては試練の戦いだ。

◆ロシアのきら星

 堅実なマーケットとなりつつあるロシアのプロボクシングに、またひとり注目してほしい選手が現れた。

 23日、エカテリンブルクのカード、売りものはマイナー団体ながらIBOの世界タイトルがかかったスーパーフェザー級12回戦、シャフカゾン・ラヒモフ(タジキスタン/24歳/13戦13勝10KO)対ロフィア・マエヌ(南アフリカ/27歳/18勝12KO7敗2分)、クルーザー級で注目の豪腕アレクセイ・エゴロフ(ロシア/27歳/7戦7勝6KO)対技巧派サウスポー、トーマス・ウーストハウゼン(南アフリカス/30歳/28勝16KO2敗2分)である。

 ウズベキスタン生まれ、ロシア国籍のスーパーバンタム級マハームド・シェホフ(26歳/3戦3勝2KO)も注目だ。プロ転向3戦目で世界ランクにも入ったこともあるカルルイス・ディアス(コロンビア)をわずか2回でTKOに打ち取った。俊敏なサウスポーで右に左、あるいは前後と切れ味よく動き、シャープな左ストレート、右フックと繰り出す。案外早くトップに躍り出てきそうな人材だ。

文◎宮崎正博

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