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2019-01-25

【海外ボクシング】ウィークエンド・プレビュー 井上岳志が世界初挑戦 押しの一手にすべてを賭けろ

写真上=ヒューストンで強打の王者ムンギアに立ち向かう井上岳志
(写真◎Jun Sugawara)

1月26日/ヒューストン(アメリカ・テキサス州)

★WBO世界スーパーウェルター級タイトルマッチ12回戦
ハイメ・ムンギア(メキシコ)対井上岳志(ワールドスポーツ)
※DAZNで午前9時よりライブ配信

ムンギア:22歳/31戦31勝(26KO)
井上:29歳/14戦13勝(7KO)1分

 井上にとってまたとないビッグチャンスである。日本、東洋太平洋、WBOアジアパシフィックとタイトルを奪い、さらにIBF2位決定戦にも勝って、世界のトップを争う機会を待機していた。そして、WBOチャンピオンからオファーが届いた。まさに腕を撫して臨む戦いだ。

若き無敗の王者ムンギア
(写真◎Getty Images)

 ただし、相手は強い。ムンギアは同胞サウル・アルバレスの背中を激しく追撃する若きスター候補だ。さらに今、ノリノリである。連勝を重ねながらも、つい1年前までは無名の存在だった。ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)から挑戦者にと指名がかかったが、キャリア不足を理由にネバダ州コミッションは出場を認めなかった。その直後、WBOチャンピオン、サダム・アリ(アメリカ)への挑戦が実現し、見事にTKO勝ちしてみせた。その後の4ヵ月の間に2度の防衛を果たし、井上戦が3度目の防衛戦になる。183cmの長身からまさしく風神の連打速攻で、対戦相手を切り崩していく。コンビネーションは多彩だし、もちろん一発パンチもある。動きもいい。

 井上としては肉弾戦に活路を見いだしたい。方法はどんなものだっていいから、とにかく距離を潰す。体ごとぶつかるように接近戦を戦えば、ムンギアのスタミナを削り取れるかもしれない。不利の予想は仕方ないし、勝てる展開も限られるが、押しの一手に信じて戦えば、勝機を掻き出す可能性はある。何よりも、ムンギアには勢いがあっても、試されていないところもいっぱいあるのだ。

★WBA世界フェザー級タイトルマッチ12回戦
ヘスス・ロハス(プエルトリコ)対チャン・シュ(中国)

ロハス:32歳/30戦26勝(19KO)2敗2分
シュ:24歳/17戦15勝(2KO)2敗

仕切りなおして初防衛戦に臨むロハス(右)
(写真◎Getty Images)

 次第に選手層を拡大しつつある中国勢から、シュが世界王座を目指す。身長175cmの長身ながら、ひ弱さはないのだが、戦績が示すとおり、これといった決め手は持っていない。体を大きくスイングしながら前進し、振り回す左フックもやや精度に欠けている。

 ロハスは絶対的なチャンピオンではない。長い間、世界上位にランクされながら、待たされ続けたのも、戦力的な「?」があったからか。2017年、クラウディオ・マレロ(ドミニカ共和国)との暫定王座決定戦で、左フックを決めて痛快なKO勝ち。ただ、正規王者に昇格しての初防衛戦では、精力的なジョセフ・ディアス(アメリカ)に判定負け。ディアスがウェイトオーバーで戦前に挑戦資格を失っており、ベルトはなんとか手元に残った。ブロッキングで上体を固めて接近戦に持ち込むと、重い左右をまとめ打ちする。ときおりショートでグサリと突き刺す右を織り交ぜてもくる。けれど、ひとつひとつの攻防はやや力技に過ぎる。

 シュがアウトボクシングでしのげれば、勝負はもつれるかもしれないが、順当に考えれば、ロハスのKO防衛が濃厚か。

◆メリアン、4戦目で北米王座獲得なるか

 ゴールデンボーイ・プロモーションズが提供するこのイベントには、前座にも魅力的なホ
ープがたくさん出場する。

アルゼンチンの元トップアマ、メリアン(右)がアメリカ初登場
(写真◎Getty Images)

 まずはWBO北米スーパーバンタム級王座決定戦に出場するアルベルト・メリアン(アルゼンチン/29歳)はアメリカ・デビューとなるこの試合がプロ4戦目(3戦全勝2KO)。五輪に2度出場するなどアルゼンチンを代表するアマチュアスターは、プロでは早業でトップを目指す。力感はさしてないが、プレッシャーをかけながらの駆け引きはやはり上手だ、対戦相手のエドガー・オルテガ(メキシコ/10勝5KO1敗2分)はこれが2度目の10回戦だけに、圧倒して勝ちたいところ。

デビュー以来11連続KOのオルティス
(写真◎Getty Images)

 次世代を代表する選手になるとも目されるスーパーライト級のバージル・オルティス(アメリカ/20歳/11戦全勝11KO)はキャリアを積み上げる戦い。ヘスス・バルデス・バラヤン(メキシコ/26歳/23勝14KO4敗1分)は中堅以上の相手にはしっかり負けているだけに、豪快なKO勝利を期待したい。

リンコン(左)は5連続KO中
(写真◎Getty Images)

 このほかではスーパーウェルター級6回戦に出場する身長188cmのサウスポー、アレックス・リンコン(アメリカ/23歳/5戦5勝5KO)のハードパンチが楽しみ。

1月26日/ブルックリン(アメリカ・ニューヨーク州)
復活サーマンの強打、久々の炸裂か

★WBAスーパー世界ウェルター級タイトルマッチ12回戦
キース・サーマン(アメリカ)対ホセシト・ロペス(アメリカ)

サーマン:30歳/29戦28勝(22KO)1無効試合
ロペス:34歳/44戦36勝(19KO)7敗1無効試合

2年ぶりにリングに帰ってくるサーマン
(写真◎Getty Images)

 マニー・パッキャオ(フィリピン)の完全復活でさらに厚みが加わったウェルター級に、またもや待望の男が帰ってくる。抜群の切れ味と、試合によってさまざまな手法を使い分ける叡智を併せ持つサーマンだ。肩の故障でブランクを作っていて、これがおよそ2年ぶりの実戦になる。ライバルのショーン・ポーター、ダニー・ガルシア(ともにアメリカ)を破って、フロイド・メイウェザーを除くなら、パッキャオとの頂上対決に一番近い男だけに、その戦いは注目である。

強豪との対戦も多いロペス
(写真◎Getty Images)

 対するロペスはやや力では劣るとは言え、前戦で不敗のミゲール・クルス(アメリカ)を一方的に破っている。サーマンにとっては肩慣らしの戦いながら、4年もの間、遠ざかっているKO勝ちを見てみたい。

 この戦いはアメリカのFOXで放映される。

◆モンゴルの新英雄伝、その序章が開かれる

★フェザー級12回戦
タグ・ニャンバヤル(モンゴル)対クラウディオ・マレロ(ドミニカ共和国)

ニャンバヤル:26歳/10戦10勝(9KO)
マレロ:29歳/25戦23勝(17KO)2敗

注目のニャンバヤルがテストマッチに臨む
(写真◎Getty Images)

 日本未公認のIBO世界王座決定戦である。そんな肩書きより、今、日本のファンにもっとも見てもらいたいのがニャンバヤルなのだ。容貌はとても大人しいのだが、戦いは烈しさいっぱい。獣のように対戦者を追い回し、喉元をかっ斬るような左フックに、青竜刀のような豪快なライトをぶち込んでくる。

 17歳で出場したアマチュアの世界選手権で銀メダル。20歳で迎えたロンドン五輪でもやはり銀メダル。ともにフライ級だった。2014年のアジア大会を最後にアマチュアを卒業し、アメリカでプロに転向。じっくりと経験、体作りに時間を費やしたため、プロ経験はわずか10戦ながら、その内容はなかなかに濃い。日本のリングにも登場したジョン・ジェミノ(フィリピン)を最終回でストップ。やはりフィリピンの不敗の新鋭アルモニート・デラ・トーレからダウンを奪って判定勝ち。そして元WBAとWBCの暫定チャンピオン、オスカル・エスカンドン(コロンビア)を5度も倒してKO。いずれも見事な勝ちっぷりだった。

元WBA暫定王者のマレロ
(写真◎Getty Images)

 マレロは楽な対戦者ではない。素早いし、パンチも切れる。ニャンバヤルの圧力が的外れになると、アウトボックスされかねない。だが、モンゴル人の圧倒的な破壊力にどうしても期待を寄せてしまうのだ。

◆コーナキ、ラッセル兄弟ほかが出場

 ブルックリンのPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオン)の興行はいつもそうだが、前座から若手の有望株が次々にリングに登る。

ヘビー級ランキング上位に進出してきたコーナキ

(写真◎Getty Images)

 ヘビー級10回戦では、ニューヨーク育ちのポーランド人アダム・コーナキ(29歳/18戦18勝14KO)が大事なテストマッチを行う。2017年に自らの故郷からやってきたタフガイ、アルトゥール・スピルカをTKO。昨年には元IBFチャンピオンの強打者チャールズ・マーティン(アメリカ)を激戦の末に下した。そして今度の相手はベテラン技巧派ジェラルド・ワシントン(アメリカ/36歳/19勝12KO2敗1分)。やや太めながら、パワフルなコーナキが、ワシントンを押し切れるか。

世界王者ゲリー・ラッセル(左)の弟アントアン
(写真◎Getty Images)

こちらもゲリー・ラッセルの弟アントニオ
(写真◎Getty Images)

ヘビー級王者デオンテイ・ワイルダーの弟マーセロス
(写真◎Getty Images)

五輪を蹴ってプロ入りした元全米ゴールデングローブ王者コルバート
(写真◎Getty Images)

 WBC世界フェザー級チャンピオン、ゲリー・ラッセル・ジュニア(アメリカ)の弟ふたりも登場する。リオ五輪代表だったスーパーライト級、ゲリー・アントアン・ラッセル(22歳/7戦7勝7KO)、バンタム級のアントニオ・ラッセル(25歳/12戦12勝10KO)。ともにきっちりと倒しきりたい対戦者が用意された。サウスポーのアメリカ・トップアマトリオ、コールデール・ブッカー(ミドル級/27歳/13戦13勝7KO)、クリス・コルバート(スーパーフェザー級/22歳/9戦9勝3KO)、タイレク・アービー(ウェルター級/25歳/5戦5勝2KO)。デオンテイ・ワイルダーの弟で身長191cmのクルーザー級、マーセロス・ワイルダー(29歳/3戦3勝2KO)も出場する予定だ。

まだまだあるぞ!注目カード
アルゼンチン、ドイツ、カナダの話題

◆ベルムデス妹も世界タイトル防衛戦

 女子世界王座4階級制覇のダニエラ・ロミーナ・ベルムデス(アルゼンチン)の妹でIBF女子世界ライトフライ級チャンピオンのエベリン・ナサレナ・ベルムデス(22歳/11戦11勝2KO)が金曜日に自国のサンタフェ県プハトで初防衛戦に臨む。25歳の挑戦者ルイサナ・ボリバル(ベネズエラ)は10勝5敗1分と平凡な戦績ながらここ7戦は6勝5KO1引き分けと好調。油断はできない。
 ちなみにベルムデスのもうひとりの女兄弟ロクサナ・アエレンも現役のボクサー。なんとも勇ましい女系一族である。

◆復調のフェイゲンブッツがマイナー王座戦

復調してきた元世界王者フェイゲンブッツ
(写真◎Getty Images)

 元WBA世界スーパーミドル級チャンピオンヴィンセント・フェイゲンブッツ(ドイツ/23歳/29勝26KO2敗)が土曜日にドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州カールスルーエでGBU世界スーパーミドル級王座決定戦に臨む。対戦者はベテランのプシェミスワフ・オパラッハ(ポーランド/32歳/27勝22KO2敗)。

 ドイツの誇る若きスラッガーとして売り出したフェイゲンブッツも、ジョヴァンニ・デ・カロイ
ス(イタリア)との激闘の挙げ句、TKO負けしてから3年。8連勝7KOと復調してきているが、強打と裏返しの粗さはいまだ拭いきれない。6年間無敗のオパラッハだが、メジャーファイトから遠ざかったまま。フェイゲンブッツとしては派手に倒して勢いをつけたい。

 GBUはドイツに本部を置くマイナー団体。小ぶりな興行の多い最近のこの国は、重宝して冠に使用している。この日もフェイゲンブッツの戦いを含む3つのカードがGBUの世界タイトル戦。このうち、女子ライトフライ級戦に出場するサラ・ボーマン(28歳/9戦9勝7KO)はドイツを代表する女子アマチュアだった。彼女とサラ・ジャー(モロッコ/34歳/15勝2KO2敗1分)との試合には、これまた古株の女子マイナー団体WIBFのタイトルもかけられている。

◆東欧のスター候補獲得でカナダは巻き返しを図れるか

 ひところ、カナダのボクシングはとことん熱かった。ルシアン・ビュテ、ジャン・パスカル、デビッド・レミュー、そしてアドニス・スティーブンソンらが台頭し、ケベック・エリアでの試合は常に満員の観客を集めたもの。ところが、最近はビッグマッチといえる試合が急激に減っている。12月の防衛戦でKO負けしたスティーブンソンが頭部外傷の手術を受けた事故も、今後に影響を及ぼすかもしれない。しかし、中小プロモーションは活発だ。東欧系の有力選手を次々にハントして、試合を組んでいる。土曜日、モントリオールで、その名も『アイ・オブ・ザ・タイガー・マネージメント』というプロモーションが提供するカードもそのひとつ。

 目玉はスーパーウェルター級10回戦に出場するサドリディン・アフメドフ(カザフスタン/20歳/6戦6勝6KO)。2016年のユース世界選手権チャンピオンになりながら、アマチュアでの道をさっさと切り上げ、19歳でプロ転向を決意した。この若さでアマでは250戦以上戦い、200勝以上はしているという。左右ともとどその拳には破壊力を秘める。ややボクシングは大味だが、郷里の偉大な先輩、ゲンナディ・ゴロフキンと比肩する素質の持ち主という声も出てきている。22歳のメキシカンアブラハム・フアレスとの対戦は手短に仕留めたい。

 ヘビー級のアルスランベク・マフムドフ(ロシア/29歳/5戦5勝5KO)もアメリカの中堅
ジェイソン・バーグマンと6回戦を行う。こちらは197cmの巨体から打ち下ろすオーバーハンドライトが最大の武器。セミプロリーグWSBで13勝3敗とアマチュア実績も十分。ただ、その戦い方はいかにも荒い。今のヘビー級は197cmといえども大巨人とは言えない。上位に進出するためには、もっと細部を作り込まないといけないのかも。

 この日のメインイベントはカナダ人同士によるIBFインターナショナルおよび同北米のスーパーライト級タイトルマッチ。この試合ではマチュー・ジェルマン(29歳/16戦16勝8KO)に注目したい。2年前にホープ、イブ・ユリッセ(カナダ)に土をつけたスティーブ・クラゲット(29歳/27勝17KO5敗1分)と対する。

◆ヘブライ・ハンマーは静かに復活

ユダヤ人スタイルの後継者セルディン
(写真◎Getty Images)

 一時、なりをひそめていたスーパーライト級の "ヘブライ・ハンマー" ことクレタス・セルディン(アメリカ/32歳/22勝18KO1敗1無効試合)が、土曜日にコネチカット州アンカスビルでモヒガンサン・カジノのリングに立つ。

 祖父は1950年代にブルックリンで暴れ回った暴走族のボス、父も “アイアンマン” という呼び名で知られたロングアイランドの顔役。そんな一族から生まれたセルディンは高校時代からアメリカンフットボールとともにレスリングと柔術を習った強者。22歳でボクシングを始め、本人曰く、ベニー・レナード(1910年代の伝説的技巧派)の流れを引き継ぐ伝統のユダヤ人スタイルの後継者という。その実、技術のほうはなんとも言えないのだが、力強いファイトスタイルで連勝を重ねていた。

 しかし、2017年に禁止薬物のテストステロンの陽性反応が出て、VADAから1年間、いつでも抜き打ち検査がかかる監視選手となった。そして、HBOでメジャーデビューした直後、カナダのホープ、イブ・ユリッセに3度のダウンを喫して完敗。1年のブランクを置いて、これがカムバック2戦目になる。

 相手のアダム・マテ(ハンガリー)はアメリカでは4戦4敗。セルディンはしっかり倒さなく
てはならない。

 それにしても一時は大試合が頻繁に行われたモヒガンサンだが、このところ中堅試合ばかり。イーストコーストではかつてのメッカ、アトランティックシティも景気は復調気配と言うが、ボクシング興行の規模は昔のようにはいかない。いずれもニューヨークから車で3時間以上かかる中途半端な立地であり、ちょっと置き去りにされている感もある。

文◎宮崎正博

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