上写真=ストップの瞬間、田中は両腕を掲げて喜びを爆発させ、鈴木啓太トレーナーに飛びついた 写真_小河原友信
2019年、日本ボクシング新年最初の興行が12日、東京・後楽園ホールで開催された。この日行われた『第40回チャンピオンカーニバル』開幕戦は、日本ミニマム級タイトルマッチ。王者・小野心(36歳=ワタナベ)に挑んだ1位・田中教仁(33歳=三迫)が、3回に右強打で小野をダウンさせ、8回にふたたび右をぶち込んで、この回22秒、レフェリーストップに持ち込み新チャンピオンとなった。
2011年に当時日本王者だった八重樫東(大橋)に挑戦して判定負け。昨年4月にはOPBF東洋太平洋同級王者・小浦翼(E&Jカシアス)に挑み、5回TKO負け。この間には長い空白があった。2011年11月の試合を最後に、田中はいったんボクシング界から身を退いていたのだった。
しかし、「やり残したこと」への想いを再燃させ、2017年2月に、ジムを移籍してリングに戻ってきたのだ。
右の強打は若いころから折り紙つき。特に2010年にブンブン東栄(一力)との強打者対決を戦慄のKOで制した試合は、いまも強烈なインパクトを残している。
しかし、肝心なところで勝ちきれない。カウンター、強打を狙うあまり、手数が少なく、ポイントを持っていかれるという試合を何度も演じてきた。10月の前戦、福岡・久留米での『チャンピオンカーニバル挑戦者決定戦』でも、榮拓海(折尾)を痛烈に倒しながら、その後、手数を極端に減らし、榮の反撃を受けて、際どい判定を制した。そうして迎えた、三度目のタイトルマッチ──。
右のジャブ、フックで田中の左腕の外側を叩き、その意識を植えつけさせて、インサイドに右ジャブ、左ストレートを滑り込ませるサウスポー小野。しかし、田中はそれらをパーリング、ガード、バックステップで外していった。そして3回、小野の左ロングストレートを外し、そのまま飛び込むようにして右。小野の体は後方にはじけ飛び、キャンバスに尻もちをついてしまった。
一撃のパワー差は明白。相打ちでも打ち勝つ。だが、「試合前の最終盤のスパーリングで、相手に打たせてかわして打つことができるようになった。ゾーンに入った感じ」と田中。小野の右フックをかいくぐって左右のボディフック、左ストレートを外して右クロスとヒット。小野の体から、徐々に力を吸い取っていった。
「今日も調子がよくて、心のバランスがすごくよくて、でも、動きがいいからって調子を上げちゃうと、空回りしたり、行きすぎちゃうことがあるので。全パワーを“集中”に持っていった。そうしたら、細かいフェイント、細かい“よけ”ができて、相手のパンチもギリギリで見えた」(田中)
やはり、手数は決して多くはなかったが、被弾を最小限に食い止めたことが大きかった。接近して、手数を出し、ボディ攻撃を仕掛けてきた小野に対し、タイミングのよい左右ボディをヒットし効かせた。7回には右で効かせた上に、小野のホールディングの減点もあり、強い追い風に完全に乗った。
8回、やはり右で小野のガード間を割り、さらに右。後退する小野に飛びかかるようにして右強打。よろけてニュートラルコーナーに下がった小野に襲いかかると、レフェリーが試合を止めた。
両腕をかかげ、鈴木啓太トレーナーに抱きつき、コーナーポストによじ登って歓喜を全身で表した。
「これは、家族、ジムの方々、応援団に巻いてほしいベルト。今度は本当に自分の夢を追いかけます」──。三度目の正直を果たし、悲願の王座に就いたはずだが、ベルトを決して腰に巻かず、「みんな、巻いて!」と夫人や集まった仲間たちに渡して喜びを分かち合った。
敗れた小野。「第三者から見れば、止められてもおかしくなかった。ポイントも第三者が採点したものだから。相手の方が上だった」と毅然として振り返った。
「今日獲る前に肩を並べるって言ってたんですけど、その選手の努力、背負ってるものを知ってるので。気安く言えない。その選手に敬意をはらって、“”今日は”言わない」
2007年10月。堀川謙一(当時SFマキ)が田中教仁(当時ドリーム)を判定で破った。月日は流れ、一方の堀川は日本ライトフライ級王座を制し、拳四朗(BMB)に明け渡した。そして田中は5年のブランクを築いたのちに移籍して再起。あれから10年が経過し、ふたりは巡り巡って、時を同じくして三迫ジムで同僚となった。“拳友”は、若く活気のあるジムに、いぶし銀の輝きを放ちながら溶け込んでいる。
堀川は、来月14日、王座返り咲きを狙う。田中が姿を消したリング上を、何かを思い耽りながらじっと見つめ続ける。33歳から38歳へ。言葉にせずとも、心は確実に伝わるものだ。
文&写真_本間 暁
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