写真上=熊本のS&Kジムに今大会2つめの優勝をもたらした藤川
写真◎ボクシング・マガジン
熊本のS&Kジムが2冠を達成した。ミニマム級の竹田宙に続き、サウスポーに構える藤川祐誠が、19歳の強打者、石川春樹(RK蒲田)を巧みにコントロールしてバンタム級の全日本新人王を射止めた。
石川は本来、今年のルーキートーナメントの目玉になるはずだった。東日本決勝こそ2-0のきわどい判定だったが、それまでは無傷の5連続KO勝ちだ。その石川に対し、藤川はアウトボクシングと、ときに果敢なボディ攻めと手法を巧みにチェンジしながら、戦える場を与えなかった。ひとりのジャッジは引き分けとしたが、内容的には藤川の快勝に見えた。
初回から左ストレートのカウンターをヒットし、2回も大半はアウトボクシングで流れを確保する。ラウンド終盤、石川のボディ連打があると、続く3回には逆にボディブローで動きを止める。4回には右フックから示現流の真っ向斬り落としのようなチョッピングレフトまで見せ、主導権を握り続けた。
「喜べるような内容ではありません」
藤川のコメントは意外だった。実際、表情も浮かない様子が見える。
「ベストの自分を出したかった。でも、今日は半分くらい」
もっと強い藤川祐誠がいると言いたげだ。今日はそんな最大級の自分で戦いたかったという。
熊本県菊池市に生まれ、地元の菊池高校でボクシングに所属し、15勝(6RSC)6敗の戦績を残した。そして今は熊本県立大学に通いながら、プロ活動している。
菊池市と言えば、昨年の熊本地震で最大級の被害を受けた町である。
「半年間、大学にも行けなかったし、ボクシングジムにも行けませんでした」
そして、こう続ける。
「もし、菊池にいいニュースとして持って帰れるのなら、それは嬉しいですね」
内容を求めるのはボクサーとしての性。結果については傷ついた仲間とともにする共生の歓喜。最後の言葉を口にしたときだけ、ふとそんな境遇を思い出したように、藤川は初めてほろりと笑みをこぼしたのだ。
取材◎宮崎正博
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