上写真=田中(左)は粉川を相手に堂々のボクシングを見せた
「年間最高試合」の呼び声高い9月24日のWBO世界フライ級タイトルマッチ(vs.木村翔=青木)で、2-0の判定勝利。ミニマム級、ライトフライ級に次いで3階級制覇を達成した田中恒成(畑中)が21日から関東へ出稽古。来年3月に予定されるV1戦に向けて、壮烈なスパーリングを繰り広げた。
地元・名古屋を離れ、東京を中心に腕試しを繰り返すスタイルは、着実に田中恒成の血肉となっている。ライトフライ級王者時代、現WBO同級王者アンヘル・アコスタ戦に向けてのプロモーションを兼ねてプエルトリコへ飛んだ。見知らぬ街、敵地…と不安要素は多かったはずだが、そんな環境で“自分”を出す。その経験がベースとなり、“ボクシング研き”の旅へと連なっているのだ。
21日には横浜のE&Jカシアスジムで、OPBF東洋太平洋ミニマム級チャンピオン小浦翼と手合わせ。「ちょっと体格差があった」と恒成。スタートはミニマム級だったが、成長期を経て、フィジカルトレーニング効果も相まって、現在はフライ級ながら、体はぐんぐんと大きくなっているのだ。
そして22日は、「もう、何度もお世話になっている」という角海老宝石ジムへ。先ごろ、同ジムへ移籍した元OPBFスーパーフライ&日本フライ級王者・粉川拓也と4ラウンドのスパーリングを敢行した。
「粉川さんとも、何度もスパーしてます。細かい連打と変則が嫌な印象です」と語った田中だが、それを出させない。「スピードについていけなかった。ハンドスピードというよりも、体全体のスピードです」と粉川も舌を巻いた。とにかく速い。打ってはピョンと下がり、リターンを打つ間合いを崩す。そして、右前に入ってきたかと思ったら、左サイドへ瞬間移動。きっと、粉川からしたら、“消える”感じだろう。そして……。
「パンチのパワーも印象的でした。特に右です」(粉川)
強烈な右ストレート、フックを叩き込んでおいて、痛烈な左ボディブロー。粉川も、奇をてらった右アッパーカットをヒットしてみせたが、田中が“速い”、“巧い”、“強い”の三拍子を披露したかたちだ。
「力んじゃってダメでした」と田中は恥ずかしそうにつぶやいたが、スパーも本番という考え方ができている証拠なのだろう。それは、1年前に本誌企画で実現した井上尚弥(大橋)との対談が大きく影響しているという。
「尚弥さんとの対談でいちばん強く心に残っているのは、『スパーでも本気で相手を倒しにいく』という言葉」。
ステップバック、ウィービング、ヘッドスリップ、ダッキング、パーリング、グローブキャッチ…。ディフェンス技術はひととおり一流なのに、試合では余計な被弾も多く見られる。それを田中は「集中力の問題」と語る。
井上尚弥の言葉は、きっと攻撃のことだけを指しているわけではない。「スパーも試合と同じ」と解釈することができる。“モンスター”はそうやって、日ごろから攻防いずれに関しても集中力を研ぎ澄ましているのだ。
この日の田中の所作にも、より防御に関する集中力の高さが感じられた。この積み重ねは、3階級制覇を果たしトップボクサーとなったいまも、極めて重要である。決して、現状に満足せず、貪欲に一つひとつ、一歩一歩ステップアップを目指す。それが何年後かにきっと、さらに大きな華を開かせる。
文&写真_本間 暁
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