close

2018-11-11

【ボクシング】苦労人、船井龍一が痛快TKOで SUPERFLYに舞い上がる

写真上=2回、右の一撃でオリボを痛烈に沈めた船井
写真◉小倉元司

 IBF世界スーパーフライ級王座挑戦者決定戦は、日本軽量級陣の層の厚さを世界にアピールする結果となった。同3位の船井龍一(ワタナベ)が7位ビクトル・エマヌエル・オリボ(メキシコ)を2回2分9秒、見事にTKOで切って落としたのだ。

会心の右ストレート

 立ち上がり、船井はやや立ち遅れたかに見えた。小柄なオリボが良く動いて、揺さぶりをかけてくる。船井の手数は少なかった。

「慎重にスタートを切るつもりで、パンチが一発、一発で終わっていました。セコンドから2発3発つないでいけと言われて、2ラウンドに向かいました」

 そんな意識が、実質上のワンパンチノックアウトにつながった。相変わらず動きのいいオリボのアゴに、船井の右ストレートがグサリと刺さった。もんどりうって倒れ込んだメキシカンはかろうじて立ち上がったものの、またロープに突っ込む形でキャンバスに落下。それでも立ってくる。アメリカのベテラン・レフェリー、ロバート・バードは試合続行を認めたものの、フィニッシュまで10秒とかからない。即座に追撃に入った船井が左フックから右をたたきつけると、オリボは崩れ落ち、レフェリーストップがかかった。

「右がタイミングよく当たりました。手応えもありました。これは効いているな、と」

 船井は会心のKOショットを振り返る。そして、これだけは言わせてくれとばかりにこう言葉をつないだ。

「次は世界戦です」

 何度も世界戦を裁いたレフェリーが派遣されてくるなど、これは正式なエリミネーションマッチ(挑戦者決定戦)。大舞台にも臆せず戦い、痛快に勝ったのだから、当然の宣言だ。

アメリカを驚かせてほしい

「チャンピオンのジャーウィン・アンカハス(フィリピン)はサウスポーだけど、左相手には自信がある。『SUPERFLY』にも出たい」

『SUPERFLY』とは文字どおりスーパーフライ級のトップ選手ばかりを集めて行うアメリカの人気イベント。これまで3度開催され、ケーブルテレビ最大手HBOが放映してきた。そのHBOはボクシング放映から撤退したが、HBO以上に視聴者を持つスポーツ専門ステーション、ESPNがこれを引き継ぐ方針という。

「世界戦はこれから交渉して半年以内に決めたい。アンカハスはアメリカのプロモーション(トップランク)の所属だし、いずれにしろ場所はアメリカになるんじゃないですか」(渡辺均・ワタナベジム会長)

 村田諒太の活躍、井上尚弥の大爆発で、世界から注目され始めた日本のボクサーたち。船井には、こんなエースも隠れていたのかと、アメリカを驚かせてほしいもの。

 なにしろ、船井は苦労の末にここまでたどり着いたのだ。いま33歳。キャリア13年。38戦(31勝22KO)。7度も敗北し、うち3度はストップ負け。それでも這い上がり、ここ5年間は15戦14勝(11KO)。とことん努力を積み上げてきた。

「長かったなんて思いません。そのときそのときを一所懸命やってきましたから。それよりも、こんな僕にずっとチャンスを与えてくれた渡辺会長、教えてくれた高橋智明トレーナーに感謝しています」

 一途な純情は、もうすぐ“晴れの日”に着地する。

キャリア13年。「長かったなんて思わない」と船井

文◉宮崎正博

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事