写真上=クルーザー級4冠をかけて戦うウシク(左)とベリュー
写真◎Getty Images
★4団体統一世界クルーザー級タイトルマッチ12回戦
オレクサンダー・ウシク(ウクライナ)対トニー・ベリュー(イギリス)
WBSSファーストシーズンのクルーザー級で優勝し、WBA、WBC、IBF、WBOの主要4団体の世界タイトルを独占したウシクが、ベリューの挑戦を受ける。
予想を立てるならウシクの優位は動かない。このサウスポーはとにかく速くて、またよく動く。パンチ力はさほどではないが、ロングレンジからのしつこいジャブもタイムリーショットはあるし、インサイドでもいやらしくショートパンチを集めることもできる。その戦法にはいよいよ磨きがかかっており、ちょっとやそっとでは攻略できそうにない。
ベリューが頼りにするのはやはり体力だ。コンゴの偉材イルンガ・マカンブを劇的な逆転KOで破り、クルーザー級で初めて世界王座をつかんだ後は、いったんヘビー級でツアーを開始。古豪デビッド・ヘイ(イギリス)を連続してTKOで勢いを増している。巨大化するヘビー級戦線参加をあきらめ、万全を期して本来のクルーザー級に体重を落としてきた。「ウシクの好きなようにはさせない」と勇ましい。地元の熱烈な声援をバックに、どこまで迫れるか。
前座にはアンソニー・クロラ、リッキー・バーンズとふたりの元世界チャンピオンが出場する。3階級制覇を達成しているバーンズはスコットランド出身だけに、それほどでもないかもしれないが、生粋のマンチェスターっ子、クロラは、ホルヘ・リナレス(ベネズエラ/帝拳)に敗れた後も人気は絶大だ。
やや峠を越えた感もあるこのふたりより、出場予定のジョシュ・ケリー(イギリス=ウェルター級)、ドミトロ・マイトロファノフ(ウクライナ=ミドル級)のほうがおもしろいかも。ケリーはプロ6戦目で元世界王者のカルロス・モリナ(メキシコ)にか勝ち、続く7戦目で英連邦タイトルを手にした秀才。もうひとりのジョシュ、テイラーの活躍がものすごいため、影に隠れがちながら、こちらも期待度は高い。プロ3戦目となるマイトロファノフは173cmとミドル級にしては小柄だが、跳ね飛ぶような鋭いステップから切り出すコンビネーションは実に小気味いい。
★クルーザー級12回戦(WBSS1回戦)
マイリス・ブリエディス(ラトビア)対ノエル・ゲボル(ドイツ)
★WBO世界クルーザー級暫定王座決定戦12回戦(WBSS1回戦)
クジシュトフ・グロワキ(ポーランド)対マクシム・ウラソフ(ロシア)
今季のWBSSは3階級が実施されているが、バンタム級、スーパーライト級に比べるとクルーザー級はもうひとつ地味。それでも、この2組はなかなかのカードだ。それにシカゴはアメリカでもっともポーランド系が多い都市でもあり、グロワキには大きな声援が送られるに違いない。
昨年の同大会でオレクサンダー・ウシクに敗れたものの0-2判定と激しく迫ったブリエディスのワンパンチは一級品。当たればヘビー級の巨漢も吹っ飛ぶ。試合運びにもうひとつの冴えがなく、もったりした試合になることも多いが、テンポの速いゲボル相手なら好打戦になりそう。
グロワキは強敵マルコ・フック(’ドイツ)を衝撃KO、さらに人気者スティーブ・カニンガム(アメリカ)を4度も倒してセンセーションを巻き起こして以来3年ぶりのアメリカ見参になる。今度の相手ウラソフはやさしい相手ではない。44戦42勝で現在8連続KO中。やっかいなのは192cmもあるその長身だ。やや後ろ重心のサウスポースタイルから、かき込むような右フック、長い射程の左ストレートとグロワキが得意とするパンチは、ウラソフに届くのか。
同じカードのライトヘビー級10回戦では、カザフスタン生まれのドイツ人、アルトゥール・マン(14戦全勝8KO)がアメリカ・デビュー。ただし、相手はかつてアマチュアの実力ナンバーワンとも言われたアレクセイ・ズボフ(ロシア)だけに楽な戦いにはなりそうにない。
★ライト級10回戦
フェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)対ヤードリー・アルメンタ・クルス(メキシコ)
2年前まで、次世代のトップホープと呼ばれていたのはこのベルデホである。何しろ速いし、センスはあるし、パンチは切れる。ロンドン五輪でベスト8まで進出するなど、アマチュア実績も申し分なかった。ところが、交通事故、故障の連続で1年以上ものブランクを作り、カムバック戦では伏兵にTKO負け。
しかし、見限るのはまだ早い。まだ25歳の若さなのだ。あれだけ評価の高かった素質がしぼんでいるとは思えない。不敗時代からつきまとった、いまひとつの安定感のなさも若さゆえ。もっと経験を積んでいけば快進撃を再開する可能性も十分にある。
今度の相手アルメンタ・クルスは、上位選手の腕ならし的な存在。ここはしっかりと勝って、健在ぶりをアピールしたいところだ。
11月10日、メキシコ・ティファナにはメキシコの女子スターふたりが共演する。
30歳のジャスミン・リバスは2016年にキャスリン・フィリ(ザンビア)に敗れてWBCバンタム級タイトルを失った後もアクティブに戦っている。プエルトリコのスター、アマンダ・セラノには敗れたが、コロンビアのベテラン、リリアーナ・パルメイラをTKOに破ってWBA世界王座に復活した。
もうひとりのヒロイン、ジャッキー・ナバ(メキシコ)はメキシコの元祖アイドルボクサー。もう38歳になるのだが、まだまだ根強い人気を持つ。
リバスはクリスティーナ・デル・バーレ・パチェコ(アルゼンチン)相手に、WBAスーパーバンタム級と新しい世界タイトル獲得に挑む。ナバはカロリーナ・アルバレス(ベネズエラ)とノンタイトル戦。当初はリバスとナバの対決が予定されていたが、まずは顔見せのカードで収まった。
フィリピンのミニマム級のサバイバル戦とも言えるのが、10日、セブ島のミングラニーリャで行われるメルビン・ジェルサレムとトト・ランデロの10回戦。ジェルサレムは2017年、敵地タイでワンヘン・ミーナヨーティンに極小差の判定まで迫った。敗れてかえって評判を上げたが、カムバック戦に敗れて期待度は急降下した。ランデロもWBA王者ノックアウト・CPフレッシュマート(タイ)に敗れた後、南アフリカでシンピウェ・コンコに連敗と後がない。敗れたほうは、第二集団へ下降することになる。
ロシアのエカテリンブルクで開催される興行のメインイベントは、キックボクシングの世界チャンピオンから転向して10戦全勝9KOのアレクセイ・パピン。戦績どおりの爆発力が売りのパピンは、不敗のチェコ・チャンピオン、バシル・デュカルとIBFインターナショナルのタイトルを争う。
さらにこの日はAIBAプロの世界チャンピオンだったミドル級のアルテム・チェボダレフ(ロシア=5戦5勝4KO)、注目のウズベキスタンのサウスポー、ラフシャンベル・ウムルザコフ(5戦5勝4KO)らが出場する。
懐かしいオールド・グレートが気になるならアメリカ・フロリダ州マイアミでの、ユリオルキス・ガンボア(キューバ)とファン・マヌエル・ロペス(プエルトリコ)のダブルメイントもある。36歳のガンボアと35歳のロペス、やや全盛期は遠くなっているが、どんな戦いを見せるのだろう。
文◎宮崎正博
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