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2018-01-02

【復活!? 編集室点描】2017・12・31 編集部内で『井上尚弥 争奪戦』勃発!?

文&写真/本間 暁

 2017年12月30日、神奈川・横浜文化体育館。
WBO世界スーパーフライ級チャンピオン、井上尚弥(大橋)は、戦前の予想どおり、圧倒的な爆発力、そして相変わらず“もらわない”丁寧さを見せつけて、6位のヨアン・ボワイヨ(フランス)を3回TKOで粉砕してみせた。

 翌31日の一夜明け会見。まだ目の周りがうっすらと腫れぼったい。しかし、これは試合直後に明かされたとおり、当日の朝にできた“ものもらい”の名残りで、打たれた痕跡ではない。
 実は、尚弥が試合当日の朝起きたときはもっとひどい状態だったという。しかし、近所の眼科に行こうにも、年末真っ只中で、どこも冬季休業中。しかも、世界タイトルマッチに臨む選手には、試合後にドーピングチェックが科せられるため、うかつに目薬をさすことなどできない。
 こんな事態が起きたとき、頼りになるのは、やはり大橋秀行会長だ。懇意にしている眼科医をあたり、きちんとWBOの了承を得て、目薬等の治療薬で対処したのだった。

前日の試合を伝える記事を、1紙1紙、食い入るように見つめる

 日刊スポーツ、サンケイスポーツ、スポーツ報知、スポーツニッポン、デイリースポーツ、東京中日スポーツ──。朝売りのスポーツ紙全紙が1面トップで昨日の試合を報じている。
 スポーツイベントも多様になり、さらに芸能記事もトップをバンバン飾るこのご時世。ボクシングが全紙の1面を制覇することは、なかなか困難な状況である。だからこそ、たとえ“相手の役不足”があったにせよ、前夜、井上尚弥がどれほど強烈なインパクトを与えたか、その深度がわかろう。

 井上尚弥の試合は、どれも凄まじい。けれども、個人的な感想を言わせてもらえば、そのグレードはさらに高まった気がした。スタイルはまったく異なるので、言葉として適切かどうかわからないが、まるでマイク・タイソンの試合を見ているような肌感覚。とても軽量級の試合を見ているとは思えない、異質の衝撃。
 本人が言うように、「ひりひりと、シビレるような試合をしたい」というのは、もちろんわれわれにもある。海外のビッグネームとどんな戦いを繰り広げるんだろう、ってそれはボクシングファン全員が夢想する、至福の瞬間だ。
 けれども、もう、そこで井上尚弥が動いている。それを見るだけでも本当に充分感動、いやぜいたく。いやいや、「父さん母さん、彼と同じ時代に生んでくれてありがとう!」って、天国の両親に感謝するレベルなのだ。

尚弥スマイルは、いつだって爽やか。リング上の殺気とのギャップがまた魅力を倍増させる

 本誌『ボクシング・マガジン』では、“絶対”ではないが、「○○選手は△△担当」みたいなかたちが、なんとな~く出来上がっている。井上尚弥に関しては、試合関連は宮崎正博、トレーニング、キャンプ、企画ものについてはワタクシ本間、といった具合の住み分けがなんとな~く。
 特に宮崎は、これまでの記事を読んできた方ならお分かりのとおり、その想いがすさまじく、真吾トレーナー、拓真、浩樹までもが「尚弥LOVEの宮崎さん」と呼んでいるくらい(笑)。
 でも、井上尚弥を書きたい、というのはボクシング記者なら誰もが願うことで、宮崎の強烈な愛(笑)も理解できる。私だって、彼を小さいころから見てきたし、彼の両親(真吾さん、美穂さん)と同い年ということで、「親心」ではないが、そんな目線も多少ある。あ、宮崎には「孫を見るような目」も働いているな、きっと。

 会見が終わり、記者陣との談笑も一息つき、尚弥が帰路につこうとする。
宮崎が「また取材に伺いますので、来年もよろしく!」と声をかける。
だから私も負けじと(笑)「たまには、おじさんの取材も受けてね」とひと声さしこむ。

 敏感な尚弥は、この“攻防”を一瞬にして察知したのか、苦笑いを浮かべて、
「ふたり一緒に来てください!」──。
 世話の焼けるおじいちゃんとおっさんも、まるで対戦相手のように軽く一蹴されてしまった感じだ(笑)。

 前夜、取材を終えて、それでも全然興奮冷めやらないわれわれ編集部員とライター諸氏で、関内駅に程近い中華屋さんに入って一杯。他のお客さんも、横浜文化体育館帰りの人ばかりの様子だった。その中の一組が帰り際に声をかけてきた。ご老人と40代半ば~50くらいの男性。聞けば、体の調子があまり良くないご老人が、「どうしても井上尚弥をこの目で見たい」と言って、わざわざ奈良から駆けつけたのだという。もうひと方は付添いの義理の息子さん。
「古くからのボクシングファンでね。白井義男をはじめ、日本のトップ選手は全員見てきたけれど、間違いなく井上尚弥が日本歴代最強です!」
 おじいちゃんの声が、腕白坊主のように弾んでいた。そう、素晴らしい試合を見ると、みんな子どもの頃に帰ってしまうのだ。われわれも、そんな試合を目の当たりにすると、少年時代に熱狂したあの感覚を、瞬時に呼び覚まされるからわかる。

 尚弥をめぐる“バトル”は、編集部内で続く(笑)。
われわれも、ボクシングに関しては永遠の少年だから。 

2018年はバンタム級で新たな姿を見せてくれるはずの尚弥。本誌ももちろん、引き続き熱烈に追いかけます

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