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2017-12-30

はるばる日本にやってきた海外ボクサー それぞれの“きっかけ”

文/船橋真二郎  写真/本間 暁

 ボクシングを始めるきっかけは人それぞれ。では、来日する海外のボクサーは――。

尋ねてみると、なかなか興味深いものもある。

 最近、特に印象に残っているのは、2015年5月、現WBA世界ミドル級王者、村田諒太(帝拳)と対戦したダグラス・ダミアオ・アタイデ(ブラジル)。

 サッカー王国のボクサーがグローブを握ったのは“縄跳び”がきっかけ。
ある日、訪れたボクシングジムで、ロープを飛んでいるボクサーの姿を見て、
「とても美しく感じられたから」というのが、アタイデの答えだった。

 今日30日、明日31日に行われる5つの世界戦に合わせて、国の異なる4人のボクサーが来日。
それぞれ横浜、東京のリングに上がる。

 WBO世界スーパーフライ級王者の井上尚弥(大橋)に挑むヨアン・ボワイヨ(フランス)とは、
残念ながらタイミングが合わなかったのだが、その他の3人に尋ねてみた。

 まずは今日30日、横浜文化体育館でWBC世界ライトフライ級王者、拳四朗(BMB)に挑戦するヒルベルト・ペドロサ(パナマ)。

アルチボルト・トレーナーの前フリの後、ペドロサは「エル・カシーケ!」と常に叫ぶ。陽気なコンビだ

 コロンビアとの国境に近い密林地帯の民族出身。もともと独自の言語を持ち、今ではスペイン語を操るものの、あまり得意ではないというペドロサに代わり、トレーナーのフリオ・セサール・アルチボルト氏が説明してくれた。

「貧しく、銃弾が飛び交うような危険な地区」に生まれ育ったという若者が、ジムにやってきたのはスパーリング・パートナーの募集を見て。

よほど腕に覚えがあったのか、想像をかきたてられるが、
「ボクシングのおかげで道を外れなかった」とはペドロサ本人。

スパーリング・パートナーを続けていくうちに自身もやる気になり、アマチュアのリングに上がるようになる。

 当初は「気にもかけなかった」というアルチボルト氏が、ペドロサを指導するようになるのはアマ9戦目から。

 スパーリングで見せる「勇敢なハート」に驚かされ、そこにテクニックを加えた。

 アルチボルト氏が“エル・カシーケ(酋長)”と名付けた愛弟子は、
「ハングリーさと強いハートでは負けない」

父、マネージャー親子、トレーナー。チーム・チョコロンシートは結束が固そうだ

 明日、大晦日、大田区総合体育館で京口紘人(ワタナベ)のIBF世界ミニマム級王座に挑む
カルロス・ブイトラゴ(ニカラグア)。

「始めたきっかけは家族の血」

 父のマウリシオは、かつてニカラグアの英雄、故アレクシス・アルゲリョと拳を交えたこともあり、通算「93戦した」という元ボクサー。

 息子カルロスは、9歳でグローブを握ったときから情熱があふれ、「これぞと感じた」という。

 ちなみに本誌・中南米担当の信藤大輔さんによると、カルロスの愛称である“チョコロンシート”のもとになった、“チョコロン”(昆虫の名前)の愛称を持っていたマウリシオの兄弟ミゲルは、ニカラグア代表のサッカー選手として有名な存在で、アルゲリョとも親交のあったニカラグアの、いわばスポーツヒーロー。

 そういう縁もあり、アルゲリョの薫陶を受けた“最後の弟子”がカルロス。

「規律ある生き方と謙虚さを忘れなければ、遠いところまでいける」

 師に繰り返し教え込まれたことばを胸に、フィリピン、タイ(2度)で叶わなかった夢をつかみに来た。

 声も小さく、寡黙な印象のメリンドだが、口を開けば自信みなぎる発言を繰り返す

 ブイトラゴと同じく、大晦日、WBA世界ライトフライ級王者の田口良一(ワタナベ)との王座統一戦に臨むIBF同級王者のミラン・メリンド(フィリピン)。

 きっかけは「6歳のとき、父親がボクシングのグローブを買ってくれたこと」という。

「ストリート・ファイターだった」という父親は、どんな思いで幼い息子にグローブをプレゼントしたのか──。

「僕がスパーリングをしているところを見て、お父さんが笑顔になるのが嬉しかった」とメリンド。

 それからジュニアを含め、アマチュアで11年間に約600戦し、17歳のときにプロデビュー。

 2度の世界挑戦失敗を経て、今年5月、日本で八重樫東(大橋)を初回TKOで下し、
赤いベルトを巻いた息子を父親は誇りに感じているという。

 メリンドが目指すのはライトフライ級で「4団体制覇」と大きい。

 それぞれの国で、さまざまなきっかけでグローブを握る。
その思いと思いが日本のリングで交わる。

 双方の背景を知れば、見方もまた変わってくるのではないだろうか。

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