とうとう実現したWBO世界スーパーフライ級チャンピオン井上尚弥(大橋)vs. WBO世界ライトフライ級チャンピオン田中恒成(畑中)の夢の対談!
およそ3時間にもおよんだ大盛り上がりのトーク。現在発売中の『ボクシング・マガジン12月号』の5ページではまったく掲載しきれない──。
というわけで、その“プロローグ”から引き続き、『ボクシング・マガジンWeb』に、ほぼすべてを掲載してしまおう、ということになりました。今回はその第1弾! Vol.4まで続く予定なので、乞うご期待!
構成/本間 暁 写真/高塩 隆
Structured by Akira Homma Photos by Takashi Takasio
尚弥 高校のころは、自分はボクシングの友だち、まったくいなかったもん。
恒成 でも年上の先輩方と、かなりあった感じですよね。代表とか。
尚弥 ああーそうだね。でも、いっても中澤奨、藤田大和……
恒成 あのーもっと上の。
尚弥 須佐(勝明)さんとか村田(諒太)さんとかね。一緒に合宿やったりとか一緒に試合行ったりもしてたから。
恒成 オレ、2年生のときに2回だけ国際大会に出させてもらったんです。世界ユースとアジアユース。同級生で双子の沖島兄弟(輝、翼)と1個上の人と、あと2個上で藤田健児さんがいたんです。
オレたちは事前に集まって空港に行ったんですけど、健児くんだけは直接空港に来る。オレたちは初めてもらったジャージと靴を履いてたんですけど、健児くんだけ靴が違う。白いスニーカーを履いてきた。だから、『やっぱ違うなぁ、格が違うなぁって』
一同 (笑)
恒成 じゃ、自由時間! とかなって、健児さんに「みんな行こっか」みたいなことを言われて、「お、いきなり仕切り出したぞ」とか言って。
(一同爆笑)
恒成 飛行機乗る前に、健児さんにジュース1本買ってもらって、「やっぱスゲーな」みたいに言ってて(笑)。そうしたら、それまで「藤田さん」か「健児さん」ってみんな呼んでたんですけど、「なんか俺だけ“さん付け”で呼ばれて、すごい距離感を感じるんだけど」って言うから、「じゃ、フジケンで」ってそっから。
(一同爆笑)
尚弥 結局いじっちゃうんだよね(笑)。自分も1年で行ったときに、中澤さんと藤田大和と、2つ上が青木(貞頼)さんで……。
恒成 ちっちゃくて強い人ですよね。
尚弥 そうそう。で、やっぱ陰であだ名をつけて中澤さんといじっちゃったりして(笑)。
──尚弥選手はいじるの好きですもんね(笑)。浩樹選手とか。
尚弥 あいつはいじり倒してますけどね。
恒成 優しくしてくれるから調子に乗っちゃうんです。
尚弥 だから最近、中澤奨もいじり倒してる(笑)。中澤さん、「俺、いじられキャラちゃうで」って言いますけど(笑)。
恒成 かなりいじりそうですもんね。
──尚弥選手は、年上と接する機会が多いイメージがありますよね。
尚弥 多いですね。
恒成 高校のときは別格感が凄かったんで。
尚弥 そう?(笑)
恒成 いや、そう? って言われても(笑)。
尚弥 そう、かな? みたいな(笑)。
恒成 尚弥さんとはインターハイで1回一緒だっただけなんですけど、別格な感じはみんな持ってたんで、友だち感覚みたいなのは難しかったと思います。
尚弥 みんな、引いてたのかなぁ(笑)。
恒成 高校の部活じゃなかったのが大きいんじゃないですか。
尚弥 それもあるんだよね。亮(松本)も横浜高校だけど団体じゃなかったし、浩樹、律樹(内藤)も。
恒成 神奈川のメンバーで仲良かったんじゃないですか。
尚弥 そうだね。めっちゃ仲良かった。そこまでの上下関係もないし。
──代表になると、スッと入ってましたよね。
尚弥 年上は入りやすいんですけど、年下だとどう接していいのかわからない。
恒成 たしかに、尚弥さんが年下といるイメージは皆無です。
恒成 練習は他の選手と一緒の時間なんですか。
尚弥 基本、うちのジムはバラバラだね。
恒成 井上家3人でやるんですか。
尚弥 最近、浩樹(従兄)は一緒じゃないときが多いかな。
恒成 空間に2人しかいなんですか。
尚弥 いや、そんなことないよ。2フロアあって、一般の人もどっちでやってもいいから。
恒成 オレ、ひとりでやってもやる気が出ないんで。めちゃくちゃ混む時間に行って、占領する(笑)。
尚弥 それはね、正解!(笑)。自分も混む時間がいい。でも、お父さん(真吾トレーナー)が嫌がる。練習しづらいから。
恒成 練習はしづらいときもあります。もう完全に気持ちの問題だけです。
尚弥 周りでみんなバンバンやってくれるほうが、こっちもノッテくる。だけど、15時とか16時に行くと、だーれもいない。タク(弟・拓真)と2人だけ。
恒成 合宿走り込み行きます! っていって、ひとりでやるよりみんなでやったほうが頑張れるのと一緒ですね。
──恒成選手は、他のジムがどうなってるか、ちょっと前までわからなかったですもんね。
尚弥 最近、よく角海老宝石に行ってるよね。
恒成 角海老だけですね。
尚弥 来てよ大橋ジムも(笑)。
恒成 え! いいんですか! なんとなく、なんか……
尚弥 来づらい?
恒成 いえ、そんなことはないですけど、どう連絡を取ればいいか……。
尚弥 大橋会長も喜ぶと思うよ。
──尚弥選手がどんな練習をしてるか、恒成選手は前から気にしてましたから。
尚弥 いたって普通だよ。
恒成 そうやって聞くんですけど、凄いから、でもなぁ……っていう気持ちがずっとあって。でも最近、オレらとは比べものにならんぐらい基本のレベルが高いんだって思い出して、ホントに基本やってるんだろうなって思うようになってます。
尚弥 基本しかやってないよ、ホントに。ねぇ!
──はい、そうですね!(笑)
恒成 すぐ違うことに手を出したがるんです、オレらは(笑)。
尚弥 (笑)。ミットなんか、ジャブ、ワンツー。だいたいそれしかやってない。あとは、自分で考えれば、そんなものはスパーでも試合でも出るからね。どの選手よりも考えてやってる自信はある。シャドーひとつにしても。
恒成 あ、ちょっといいですか? オレもそれありました。だけど、飯田(覚士)さんとしゃべっとると、自分がアホらしく思えてきました。
尚弥 え、どういうこと?(笑)。
恒成 すごい考えてやってるつもりで、誰の意見も、いやいやこうだろって、全部優るものを持ってた“つもり”でいたんです。それくらい考えてたんですけど、飯田さんとしゃべると、すべて見透かされとるように感じて。なんか違うのかな?って、ようわからんくなって(笑)。
尚弥 (笑)。自分、練習量はそんな多くはない。でも、“より考える”だね。
──お二人の練習を見ていて、いちばん感じるのはイメージトレーニングができていること。ただ打ってよけてではなく、きちんと相手を想定して動いている。相手が見えるんですよね。
尚弥 自分、恒成の練習も映像で見たりしてるけど、シャドーとかも相手がすごく見えますもん。
──練習の映像も見てるんですね!
尚弥 日本の選手の映像は、試合も練習もけっこう見てますよ。
恒成 マニアなんですか?
尚弥 いや、マニアじゃないけど(笑)、自分のためになるものは見る。
恒成 日本よりも、レベルの高い海外の選手を見るイメージがあったんですけど。
恒成 尚弥さんは、トップ選手とだいたいスパーもしてますもんね。あ、いまセルバニア(ゼネシス・カシミ)来てますよ。
尚弥 そうなんだ!
恒成 「(11月)10日までいて、12日からまたナオヤのところだよ」って(笑)。めっちゃ巧いですね。ガードが凄いです。
尚弥 堅いね。
恒成 1発目(を打ってもガードが堅くて)でブレないから、2発目を(ボディワークで)よけたりできる。
──ガード堅いなら、殴り甲斐がありますね(笑)。
尚弥 (笑)
恒成 毎回やってるんですか?
尚弥 うん。初めてやったのが去年、福井のイベントで。「めっちゃ強いじゃん」って思って、それから練習で呼んでもらえるようになって。そんでまあ、腰やっちゃうよねみたいな(笑)。
(一同爆笑)
尚弥 そのとき、フィリピンから3選手呼んでもらって、セルバニアも含めて4人で3ラウンドずつやってもらって、それで腰ぶっ壊れて……。
恒成 最近、フィリピンの選手3人来てた中のひとり、翔太(林)さんと試合やったんじゃないかなぁ。翔太さんTKOで勝ったんですけど、決まり方が、脇腹が痛いからって。元から痛めてたっていうから、ああ、犯人ここにおったなぁって(笑)。
(一同爆笑)
尚弥 フィリピンの選手は良い選手が多いけど、根性ないんで。
恒成 フィリピンって呼んでも呼んでもどんだけでもいますよね。
尚弥 めちゃくちゃいるねー。まだいるんかい! みたいな(笑)。最初は頑張るけど、最後はやられないために頑張って耐えてる。それじゃ、練習にならない。でもセルバニアはぜんっぜん違う。
──尚弥選手とスパーした選手は、「あのパンチをもらってるから、試合は怖くない」って聞くんですが、一方で、某選手からは「『井上尚弥 被害者の会』をつくって座談会するってのはどうですか?」って企画の持ち込みもあります(笑)。
尚弥 なんスかそれ!(笑)
恒成 それ面白そうですね!
尚弥 じゃあ、作ってくださいよ!(笑)
恒成 どうします? フィリピン選手も混ざってたら。わざわざフィリピンからオレもだよオレもだよって来ちゃう(笑)。
(一同爆笑)
──最高、何級の選手までやったことあるんですか?
尚弥 プロだとフェザー。アマだとライトですね。
──みんな倒しちゃう?
尚弥 まあ、選手によりますね。
──まず凄いのが、スパーでも倒しに行きますもんね。
尚弥 倒しに行きますね。
恒成 飯田さんと話したときに、「練習でもスパーでも本気でやっとる感がないから、それがモロに試合に出とるよね」って言われて。そこで比較に出されたのが尚弥さんで。「練習からホントに倒しにいっとる。だから試合でも全然違う。恒成は本気で倒しにいくことに慣れとらん」って。
尚弥 ああ、それはあるかもしれない。恒成の試合見てて、1ラウンドは、ほわーんとしてるから。それは練習が出るかもしれない。
恒成 オレ、スパー、ほぼやられてますから(笑)。
尚弥 だから自分は、スパーでも1発ももらわないって感覚でやってるし。アマチュアの選手が来たら、判定まで行かせるか! っていう気持ちでやってるから。
──昔からですか。
尚弥 昔からです。高校のときはそんなにスパーやってなかったけど、拓真とお父さんと3人で回して。
恒成 そこ、お父さん入ってるんですか?(笑)
尚弥 高1、高2はマジで五分でやってた(笑)。オレもタクも。高3くらいから、ちょっとなんかこう、差ついちゃったな、みたいな……(笑)
(一同爆笑)
──息子に越えられる親父の心境はわかります……。まあ、試合で何を出すかというための練習ですからね。練習のための練習ではなく。
尚弥 練習でやってないことは、まず試合で出ないかなって思うし。まだだって、練習で100できてることが、試合じゃ50、60しか出てないと思うし。
──あれでも、ですね。
尚弥 アメリカの試合は酷かったですからね(笑)。ホントに酷い。
(一同爆笑)
──力んでるなーって(笑)。左フックを空振りしてバランスを崩すなんて見たことなかったので(笑)。
尚弥 ホンットに素人ですもん(笑)。
恒成 見てる側は、圧倒的に強い、勝つって先入観もあるので、悪いところは目につかないから、誰も言ってこないんじゃないですか。自分の中だけの評価が低くて。
尚弥 いや~、宮崎さん(正博=前・編集長)は突っ込んできましたよー(笑)。「らしくない」と。そのとおりです。平常心平常心って思ってるけど、いざあそこに立つと、やっぱり倒して沸かせたいって思うので。もっと冷静にいけば、もっといい倒し方できたんじゃないかと。まあ、いい経験かなって。次ですね。
恒成 あのー、尚弥さんは1発ももらわない。しょうもないパンチもあんまりもらわないイメージがあるというか。誰でもちょこっとしたパンチをもらうけど、そういうのが極端に少ないイメージがあるんですけど。
オレもだんだんだんだん自信をつけたり、正解だと思ってたのがなんかわからんなって思うこともあったりして……。守りの練習ってしてますか?
尚弥 スパーリング以外ではディフェンスの練習はしないね。マスはたま~にタクとやるくらいで。
──前にWebにも書いた(ボクシング・マガジンWeb 2017年8月18日掲載『基本の積み重ねにこそ“モンスター”の原点がある~井上尚弥の“こだわり”~』<http://www.bbm-japan.com/_ct/17110451>)んですが、1個1個、打ったらディフェンス動作っていうのは、もう癖になってますよね。
尚弥 そうですね。癖ですね。
──凄いパワーとかスピードとか、みんなの目はそっちにばかり行きがちですが、打った後にちょっとずつズラしたり、必ずステップバックしたりというのこそ、本当に凄いと思うんです。
尚弥 癖になってるし、自分が攻撃したら、相手が反応するじゃないですか。それに対しての反応を考えて動いてるし。
──そこはもう、小さいころから真吾さんに言われて、叩き込まれたところですよね。
尚弥 そうですねぇ。細かく言われてきましたから。
恒成 はい!(と手を挙げて) もうひとつ行きます!
一同 (笑)
恒成 「1分半で距離をつかむ」ってどこかで読んだことがあるんですけど。距離感をつかんだとかわかったってことがあるんですか? オレもう、距離感のことが一切わからなくて……。
尚弥 あるよ。ジャブが当たった瞬間わかる。
恒成 ちょっと曲がっとったら、そこを修正するとか。
尚弥 いや、もう最初の1発でしっかり伸ばしきったジャブを当てるのね。初見の相手だったら、まずここで(と両手で目の前の空間を囲う)相手にパンチを出させて、まず確認する動作から始めて。それが終わったら、自分のジャブを当てる。そのジャブが当たったら──
恒成 ここの空間で、これ以上入らずこれ以上離れず、くらいで。
尚弥 そうそう。あとは、ガーッとくっついて、相手のパンチ力を確認して。それがだいたい1ラウンドでわかるかなって。
恒成 試合前のスパーリングで、「今日ちょっと悪かったね。距離の修正が必要だね」って言われても、どうしていいのかわからんもんで、もらっとるんだけどっていう。
尚弥 まあ、まあ、そうだね。
恒成 だから、いままでは距離感っていうことに関しては、調子いいのか悪いのかくらいにしか思ってないときがあって。いいときはめちゃくちゃよけれるし、悪いときはよけれないし、普通のジャブですらもらうし、わからんなと。なかなか訊ける人もいないし、機会もないんで。
尚弥 距離感については、オレがこう言ったからってできるもんじゃないし、あとはもう自分の感覚で作り上げるものだから。自分も教わって作るようにしたんじゃなくて、やってくうちに自分の感覚とか、こうしたら自分の距離を作れるんだなって。
──それが1分半。
尚弥 ジャブが当たった瞬間。
恒成 それでいうと、1分半かかってないときが多いですね。
尚弥 そうだね。
恒成 なんかオレ、一応、名古屋で偉そうにやっとるんですけど(笑)……
(一同爆笑)
恒成 いや、まあそんなつもりはないんですけど、なんでもわかっとる体で来られるんですけど、実際、人に訊けないとか、訊いてもわかんないんだろうなぁとか。当たり前のことをわかってないことが結構多くて。だから距離感とかもっと難しいこととかも、オレの考えを凌駕する人、自分より全然強い人に言われたら、それをスッと受け入れられるから、それを望んでました(笑)。
一同 (笑)
──凄い世界ですよね。
尚弥 もう、ミリ単位の世界ですからね。今日できたのに明日できないとか当たり前ですからね。
──尚弥選手でもありますか。
尚弥 ありますよ! その日の体調によってもまったく違うし。普段、ジャブの差し合いでもらわないのに、ちょっとした間のズレでもらったり。
恒成 もらうときともらわんときの違いは?
尚弥 集中力だね。初めてスパーやる相手は、マジで集中してるから絶対にもらわない。でも、慣れてきた相手だと、距離感とかも疎かになるから。
──普通の感覚だと、逆の気がしますけどね。
尚弥 ああ、スタイルとかわからないから。
恒成 もらう人はもらうけど、集中力がケタ違いに違うから。もらう人なら、初めての人の方がもらうと思います。
尚弥 日本ランカーとかノーランカーに限ってやりづらいんですよね。捨て身で来るから。わけわかんないタイミングで打ってきたり(笑)。
──この前、○○選手とやったんですよね。ブッ倒しましたか?
尚弥 いえ、ブッ倒すまではいかなかったですね。
恒成 ぷっ倒したくらいですか?(笑)
(一同爆笑)
恒成 スパーNGって言う選手もけっこういるんじゃないですか?
尚弥 ○○ジムは多いね。拓真ならいいけど……みたいな。
恒成 それはもう、そのジムだけで『被害者の会』ができるんでしょうね(笑)。
一同 (笑)
恒成 「どうやったら、そんなに強いパンチを打てるんですか?」って訊かれないですか。
尚弥 めちゃくちゃ訊かれるね。なんなんだろうなぁ。
恒成 ライトフライのときから、いまくらい強かったのかとか。
尚弥 ライトフライのときもスパーではバンバン倒してたけど、49㎏に落とすとメチャクチャ弱くなっちゃう(笑)。
──そこはいまの恒成選手もそうですよね。
恒成 自分でもパンチ軽っ! って思います。
尚弥 恒成もゆくゆくは階級上げるんだよね? いま、自分がいるスーパーフライ級、面白いからね。だから、どんどんTwitterで呼びかけようかなって。
(一同爆笑)
──Twitter、やっと始めましたもんね。
尚弥 始めたくなかったんですけど。「やったほうがいいよ」って言われて。
恒成 もしかして、ネット音痴なんですか?
尚弥 音痴だよ(笑)。
恒成 (笑)。パソコンとかもできないんですか?
尚弥 できない(笑)。
恒成 勉強は?
尚弥 勉強はねぇ……まあ、やればできるかなっ!
(一同爆笑)
~To be continued~
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