文&写真_本間 暁
WBO世界スーパーフライ級チャンピオン、井上尚弥(大橋)のアメリカ・デビュー戦が刻々と近づいてきた。
9月9日(日本時間10日)、カリフォルニア州カーソンのスタブハブ・センター。挑戦者は同級7位のアントニオ・ニエベス(アメリカ)。井上尚弥にとって、これが6度目の防衛戦になる。
この試合についての展望記事は、現在発売中の『ボクシング・マガジン9月号』に掲載しているので、こちらをぜひご覧いただきたい。
さて、われらが尚弥を本場のファンに披露する日まで約3週間となった8月17日、会見&公開練習が行われた。
「試合に関しては何も心配はありません。唯一不安なのは、ロサンゼルスは汗が出づらいということ」(尚弥)
なので、体重調整を日本できっちり行い、現地入りしてからは微調整で済ませるという計画。日本を出発するのは9月3日だというから、これから2週間が本格的な減量期間となる。
われわれ記者に披露してくれたのは、シャドーボクシング、父・真吾トレーナーとのミット打ち、ドラムミット打ち、サンドバッグ打ち。やっていることは他のボクサーと変わらないのは、『井上尚弥の日常業務』(ボクシング・マガジン2016年4月号掲載)で取り上げたとおり。だが、その質があまりに高い。
誰もの目を惹くのは、破壊力あるパワーパンチ、スピードであるのは間違いない。けれども、つぶさに観察していれば、“打ち終わり”にこそ、“モンスター”尚弥の凄みがあるのだと気づくのだ。
右ストレートを打った後のステップバックは、本誌やこれまでのコラムでも散々書いてきたが、打った後の腕の戻し(ときには打つ前よりさらに高く締める)、ダッキング、サイドステップ、ウィービングしながらの回り込みなどなど、実にキメが細かい。
ミットの“リターン”があれば、もちろんどのボクサーも反応するはずだが、今回は、真吾さんのリターン自体がない。つまり、それがなくても、一連の動作の中のひとつとして、すでに体に染み込んでいるということ。意識せずとも、ナチュラルな動きとなっているということなのだ。
打ったら動く。バランスを元に戻す。
指導する側も、やる側も当然わかっている。けれども、それがなかなかできない。理由は様々あろうが、この基本中の基本動作をやり続けること、しかも無意識にできるようになることほど難しいことはない。
あれだけのスピード&パワーを持つ尚弥のこと。
対戦相手は、ビビッてリターンやカウンターなんておいそれと打てない。
でも、尚弥はそんな自分の武器に酔いしれることなく、いつの日か“打ち返してくるだろう強敵”をイメージしながら、ボクシングを始めたその日から続けている基本の反復を、いまでも大切にしているのだ。
尚弥の試合映像を持っている方は、鮮やかなKOシーンばかり見ないで、“打ち終わり”の尚弥の反応をぜひ見てほしい。井上尚弥に憧れてボクシングをしている少年少女、アマチュアで頑張っている選手、同じプロで戦っている選手たちにも、もちろん参考にしてみてほしい。
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