文_本間 暁 写真_早浪章弘
ボクサーがどんな極限状態になって戦っているのかは、想像を絶するが、でも、本能と本能のぶつかり合いになった場合、どんなものがにじみ出てくるかは理解できる。
発売中の『ボクシング・マガジン6月号』は、いよいよ今週末に迫った世界タイトルマッチ6戦の展望特集がメインとなっているが、97ページの「ホッとするホットな噺」で、田中恒成(畑中)の興味深い話をひっそりと掲載しているのでご覧いただきたい。
つまり、「リング上では、ありのままの姿がさらけ出されてしまう」ということだ。ボクシングに性格が表れる、とはよく言われる話。それが極限になればなるほど本性はじっとりと顔を出す。だから、「普段はおとなしいけれど、リングに立つと豹変する」なんて表現をされるボクサーがたくさんいるけれど、おそらく彼の性格はそれ。きっと、日常こそものすごい精神力で本性を抑えこんでいるに違いないのだ。
最近、「スイッチのオン、オフ」という言葉がよく使われるが、それはあくまで本人の集中力の問題ではなかろうか。「普段はずぼらな性格だけど、いざリングに立つと、俺は繊細なボクシングをする」──なんていうことは、まずない。人間、そんなに器用にできていない。もし、それができるとしたら、天才中の天才だろう。
ふんふん、なるほどなるほど……なんて、田中恒成にはいつも感心させられるのだが、いや、待てよ。これはボクシングに限った話ではないじゃないか、と自問させられる。
携帯電話料金の振り込み期限ギリギリに支払いをしてしまう私は、いつも校了の直前まで原稿を書いているじゃないか……とか。やっぱり、日常の行為すべてが、仕事に直結してしまうもの。したり顔で偉そうに批評したりしているが、わが身から正さねば──といつも反省することしきりなのである。
そんな風に、わが身を振り返りつつ、身の回りの人にとどまらず、まったくの他人の行為までも観察していると、実におもしろい。
他人の迷惑になっているのにまったく気づかない人は、きっと仕事っぷりも自分本位にやっているんだろうなぁとか。ゴミの分別をきちんとできない人は、きっと物事の分別もつかないんだろうなぁとか。トイレのドアを開けっ放しで出ていっちゃう人は、中途半端な仕事しかできないんだろうなぁとか。
だから、ボクサーたちの試合や練習を見ることはもちろん、インタビュー中のちょっとした仕種を観察したり、他人の応援に来ていた選手の振る舞いを観察したりするのも“取材”の一環。日常の姿までも含めて、あれこれ考えて原稿にしたりしている(つもり)のである。
他人のことばかり書いているが、われわれの記事やページ構成も、それぞれの性格や個性がにじみ出ている。こちらもまた、反省することしきりである。
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