文&写真_本間 暁
約2時間ほどのランチ&休憩を経て、午後のトレーニングは海から一転して山。宿泊施設自体が山の上の上という立地なのだが、「この裏にめっちゃエグイのがある」と尚弥、拓真、浩樹が口をそろえる階段へ。
「どうやったらあんなの見つけるんだか……」とボヤく3人が向かう道中の坂がこれまたとんでもない。車でも上るのにひと苦労の急斜面だが、「いつもはここでダッシュの練習をしている」という。それはとんでもない領域の話だ。
階段へ向かう坂を上っただけで、すでに記者のお尻や太ももは張ってしまったのだが、目の前に現れたのは、これぞモンスターな階段だった。上から下までトータル270段! 3パーツに分かれていて、曲がりくねっていたり、傾斜が異なっていたりと、変化があるのがきっと鍛える側にとっては好都合なのだろう。「今日のトレーニングを含めれば、3000段くらい上ったことになりますね」と高村トレーナー。いや、いつもはダッシュですから……と冷や汗が出る。
4日間の最終日。しかもオーラス・トレなので、「今日は瞬発系はやらない」と高村トレーナー。それでも、彼らの表情は安堵に包まれるわけではない。
★ウォーミングアップも兼ねて、下半身の使い方の確認
★片足立ち。左右とも
★両足にゴムひもをかけて、片足ずつ1段1段上る。これも左右とも。高村トレーナーから「つま先とかかとを真っ直ぐ!」と指示が飛ぶ
★なだらかな坂(50mくらい?)を、両足にゴムひもをかけたまま、1歩1歩歩き、数回往復
★ゴムひもを、持ち手を変えながら様々な軌道で引っ張る
★階段を、1段飛ばしで歩いて上る
★ボールに片手をついて、片手立ち
★ボールに座って、片足を上げる
★ボールに座って両足を上げる
【砂浜編】同様、常に指示が飛び、チェックされるのは体幹、股関節、骨盤、ヒザ、足首、お尻への意識、形、スタンスだ。
まずは意識を常に集中させて刷り込み、当然、日常の動作でも無意識にできるようになることを目指す。
尚弥、拓真、浩樹は、幼少からバランスを意識した、正しいフォームを磨いてきて現在のレベルへと登りつめたわけだが、各部位への意識をより集中させて研ぎ澄ます訓練を続ければ、さらにトップ・オブ・ザ・トップへと飛翔するはず。
あれだけのボクシングを披露し、すでに“完成された”と思われがちだが、そんな彼らでさえも、こういう地道なトレーニングを続けていく──。その意味を考えたい。
そして試合当日──。
5月21日、東京・有明コロシアムで行われたWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチで、井上尚弥(大橋)はリカルド・ロドリゲス(アメリカ)を圧巻の3回KOでV5。試合後、「熱海のフィジカルキャンプの効果があった」と、さらなる安定感、パワーアップに実感を得たという。
また、キャンプ中、オーソドックスだけでなく、サウスポースタンスでもまんべんなく強化に励んでいたが、試合中、長時間にわたって左構えへのスイッチも敢行したところにも、その成果が表れていた。
試合で即、披露してしまう尚弥は凄いが、コツコツと取り組むシーンを目の当たりにして、やはり「練習はウソをつかない」とこちらも実感したのだった。
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