1月3日に行われたアメリカンフットボールの第71回日本選手権・ライスボウルは、社会人王者の富士通フロンティアーズが37-9で学生王者・日本大学フェニックスに快勝し、2年連続3度目の日本一となった。日大は、運動量の多い激しいプレーを展開し続けたが、安定したフットボールを展開する富士通のペースを最後まで崩すことができなかった。ライスボウルのMVP(ポール・ラッシュ杯)には、富士通のQBコービー・キャメロンが2年連続で選ばれた。
日大ディフェンスがキャメロン対策として考えたのは、やはりQBへのプレッシャーだった。キャプテンのDL山崎奨悟率いるDL陣が激しいラッシュをかけるだけでなく、モーゼス・ワイズマン、楠井涼らLB陣、さらに時として小田原利之やブロンソン・ビーティーらのDB陣も加わって多彩なブリッツを仕掛けた。
12月18日のジャパンXボウルでは、強力なIBMディフェンスに相手に完璧なパスプロテクションを見せた富士通OL陣も、この日の日大ディフェンスのパスラッシュには手こずった。インサイドからワイズマンが前に上がり、キャメロンの正面でブリッツに入る構えを見せる。しかしそれはディスガイズで、宮川泰介や伊東慧太の外からのプレッシャーにシンクロして、さらに外から楠井や小田原がラッシュしてくる。
5~7人をQBに向かわせる日大のアグレッシブなディフェンスに、富士通のプロテクションは何度も切り崩された。キャメロンが追い回されるシーンが続いた。しかし、そこからがキャメロンの真骨頂だった。
キャメロンは日大のパスラッシュを逆手に取った。前陣強調で、ブリッツを多く入れるディフェンスでは、ダウンフィールドではDBがレシーバーをマンツーマンでカバーせざるを得ない。自身がサックさえされなければ、元来、身体能力が高い富士通レシーバー陣なのだから、1対1で競り勝てるシーンが出てくる。レシーバーの能力に合わせたロングパスで、TDを次々に決めた。
富士通が7-0で迎えた第2クオーターの冒頭、相手陣に入った好位置からとなったオフェンスで、日大ディフェンス陣のパスラッシュは5人、ランを警戒したのか、さらに2人がミドルゾーンに残った。キャメロンは躊躇なく右サイドを縦に上がったWR中村輝晃クラークへロングパスをヒットした。日大のDB吉田朋春は中村クラークのスピードについて行けず、49ヤードのTDとなった。ワンプレーでリードを14点に広げた。
このTDが、中村クラークの縦のスピードを生かしたものならば、第3クオーター1分、WR強盛へ決めた37ヤードのTDパスは、185センチと長身で腕も長い強の「高さ」を生かしたパスだった。いずれもカバーはマンツーマンだったが、付いていたDBを責めるのは酷というものだろう。キャメロンは、これらTDが決まったパスだけでなく、オフィシャルリビューでインコンプリートとなったり、反則でノープレーとなったパスも含めると、ロングパスを連発し、日大DB陣を翻弄した。
常に冷静に見えるキャメロンだが、フィールド上では意外と短気で、フラストレーションを露にする場面も多い。この試合でも、特に前半そういう場面が何度も見られた。第2クオーター途中でQBに控えの平本恵也が入ったのは、頭を冷やさせる意味もあったのではないだろうか。ただ、IBMのケビン・クラフトやノジマ相模原のデビン・ガードナーといった他の米国人QBとキャメロンとの違いは、そのフラストレーションをプレーに持ち越さないことだ。
象徴的だったのが前半3回目のドライブだ。自陣内で、RBに入った猪熊星也へのピッチが、オフィシャルリビューの結果、後方へのパスのファンブルと判定が覆り、ファーストダウンまで14ヤードとなった。しかも、判定に時間がかかって3分以上試合が中断した。ノーハドルでリズムよく攻めるのが持ち味の富士通にとっては余計な中断だった。
開始後のプレーで、日大はブリッツを入れ、5人でラッシュ。DL山崎がOL勝山晃のブロックをかいくぐってキャメロンに手を掛けた。QBサックかと思った瞬間、キャメロンは山崎を振りほどいて右にロールした。そして中村クラークに24ヤードのパスを通した。
このパスが、それまで無得点だった試合の流れを変えた。次のパスは中村クラークへのポストパターンで、中村がもう一人のWRとクロスしたため、DBのカバーがずれて45ヤードのロングゲインとなった。ゴール前4ヤード。RBジーノ・ゴードンがフラットゾーンのパスコースに出るとキャメロンのパスをあっさりキャッチした。第1クオーター13分、富士通の先制TDだった。後で映像を見ると、前の2本のパスを意識したのだろう。日大のパスカバーが中村クラークに集中し、ゴードンがフリーになっていた。
12月の記者会見で日大の内田正人監督は「学生らしい運動量の多いフットボールで食らいつきたい」と語っていた。その言葉通りのプレーを見せた。キャメロンをあそこまで追い回すことのできるチームは、Xリーグでもなかなかない。胸を張れるディフェンスだったと思う。しかしそこで終わらないのが、修羅場をくぐって来た米国人QBだ。
キャメロンのパス成績は17/29で275ヤード、3TD1Int、成功率は58.6%と、いずれもJXBを下回った。だが日大ディフェンスの強いプレッシャーに負けず、勝機を作り出した。MVPにふさわしい活躍だった。
2年連続のポール・ラッシュ杯は、史上5人目で、QBとしては、松岡秀樹さん(日大、レナウン)、東海辰弥さん(京大)、菅原俊(オービック)に次いで4人目となった。3年連続は菅原しかいない。キャメロンに3年連続を許さない奮起と努力を各チームディフェンス陣に期待したい。それが日本のアメリカンフットボールを進化させる力になるのだから。【小座野容斉】
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