平成最後の全日本選手権で“台風の目”となったのは、出場最年長の加藤博剛(千葉県警察=33歳)だった。オリンピックの代表争いに名前はないが、全日本の舞台で輝きを放つベテランに迫る。
※写真上=全日本選手権に11回目の出場を果たした加藤選手
写真◎近代柔道
体重無差別で争われる4月の全日本柔道選手権で準優勝した加藤博剛(千葉県警察)は、かつて国士舘大の先輩にこう言われたことがある。
「お前のはもう柔道じゃないな、『加藤』だな」
その柔道があまりに独創的すぎて、もはや柔道というジャンルではくくれない、だから名前を取って「加藤」ということらしい。先輩、なかなかのセンスです。オリジナル技術の開発に至福の喜びを見出す後輩にとっては、最高の褒め言葉だ。
全日本選手権でも初戦からその独創性が炸裂、会場をドッカンドッカン湧かせていたが、この日のハイライトは準々決勝の影浦心(日本中央競馬会)戦だっただろう。
組み手争いがいよいよ本格化しようかという試合開始16秒、影浦の右釣り手を左の脇で挟んで動きを制御したかと思うと、くるっと宙に舞わせて「一本」。この日の体重が105kgだった加藤が、120kgの影浦を、力みなく軽々とでひっくり返した動きは、世界最先端のパワー柔道とは一線を画すアプローチ。まるで古武術のようで、人間の身体をよくよく理解しているからこそできた技に見えた。もうここまで来たら、本人が目指しているという「全日本の名物おじさん」では役不足。「名物達人」と言いたくなるようなレベルである。
もちろん新しい技術が試合で使えるようになるにはそれなりに時間がかかる。しかも、最近ではインターネットもじゃまをする。今年は全日本に向け準備していたとっておきの新技があったのに、大会前にその動画がネット上に拡散してしまったという。
「ほんと、ひどいっすよねぇ」
黒々とした眉をハの字にして嘆いてみせたが、うーん確かにそうだけど、でも、それはそのまま受け取れない。拡散したなら、むしろそれを逆手に取って、その上をゆく技に仕上げればいい。この人ならそんなふうに面白がっていそうな気がするからだ。
「ははは。そうっすねぇ。実は今日も1回使ってみたんですけど、うまくいかなかったっすね」
え? どの試合のどの場面ですか?
「ははははは。それはもちろん言えないっすよ。来年までしっかり作り上げてきます。出られたらですけど!」
はい、来年の「加藤」を楽しみに待ちたいと思います。
文◎佐藤温夏
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