Xリーグ・レギュラーシーズン「強豪対決X(じゅう)番勝負」の「その5」は、10月1日、相模原ギオンスタジアムで対決したノジマ相模原ライズ対IBMビッグブルーの対戦にスポットを当てたい。
子どもは正直だ。ヒーローにあこがれる。ノジマ相模原がIBMを49-42で破った後、相模原ギオンスタジアムのメーンゲート前で行われたサイン会で、QBデビン・ガードナーの前に並んだファンの列は隣の選手とは長さがまるで違っていた。男の子も女の子もガードナーの前に列をなした。ミシガン大を卒業後、大学院で社会福祉学を学び、児童教育が専門だったというガードナーは子ども好きだ。満面の笑顔で、子どもたちの帽子やシャツにサインをして、一緒に記念撮影に応じていた。子どもたちだけではなかった。年に一度のノジマ相模原のホーム開催を、実習として手伝った大学生ボランティアたちも、記念撮影をせがんだ。女子学生は口々に「かっこいい」を連発していた。
米カレッジフットボールの名門を5校上げろと言われたら米国人の誰もが、必ずその一つに選ぶであろうミシガン大。その名門中の名門で3年間エースを張ったQBガードナーにとって、来日2年目にしてのベストゲームが、この日のIBM戦だった。パス27/37、成功率72.97%、405ヤード、4タッチダウン(TD)、ラン11回、100ヤード、3TD。ノジマ相模原の全TDをたたき出した。さらにポイントアフタータッチダウン(PAT)で2ポイントコンバージョンをランで成功させた。この場面、ガードナーはまるで歌舞伎の「元禄見得」を切るようなポーズでエンドゾーンに飛び込んだ。背が高く、頑健で、足が速く、強肩という、日本人では持ち得ない身体能力が、オフェンスの様々な局面で躍動し続けた。デュアルスレットQBが、オフェンスの中で機能するとこうなるという見本のような試合となった。
試合は序盤から、シュートアウトに突入した。ライズのオフェンス、ファーストシリーズは敵陣22ヤードまで攻め込んだが、ガードナーのパスがインターセプトされた。ビッグブルーはQBケビン・クラフトがTEジョン・スタントンをメーンターゲットにパスを決めてあっさりTDを奪って先制する。この後はTDを応酬となり、第1クオーターだけで、14対14。両チームのオフェンスがまったく止まる気配がなく、どこまで点が入るのかと感じた。
しかし、第2クオーター、流れは変わる。ライズは、ライズ3本目のTDは2プレー25秒、4本目のTDは3プレー40秒という速攻で決めた。一方、ビッグブルーはクラフトのパスのタイミングがすこしづつずれ始め、反則などもあってTDが奪えないシリーズが生じてきた。結局35-21で後半へ折り返した。
前半で、ガードナーのパスは300ヤードに達していた。後半、ライズはプレー選択でランを増やした。第3クオーターにゴール前でガードナーが自らキープしてTDを奪った。第4クオーターには、敵陣21ヤードまで攻め込んでパスを狙った場面で、ラッシュして来たビッグブルーのDEジェームズ・ブルックスに捉まったが、ほとんど仰向けに倒れながら投げ込んだパスを、WR鈴木謙人がキャッチした。アクロバティックなプレーにライズ側のスタンドは沸き返り、サックを決めたと思っていたビッグブルー応援席は黙り込んだ。このシリーズも最後はガードナーがエンドゾーンに持ちこんでTDを奪った。49-28。結局このTDが勝敗を決めた。
プレーヤーとしてのガードナーの魅力は、人に対する強さだ。第4クオーターのほとんどサックされた体勢から決めたパスも驚かされた。しかし、筆者が試合の流れを変えたと感じたプレーは、第2クオーター最初のオフェンスだった。2本目のTDをパスレシーブで記録したRBシオネ・ホマが脚部を負傷、宮幸崇がRBに入った。
ファーストダウン、ビッグブルーDLのブルックスとチャールズ・トゥアウが同時に侵入してきた。「QBサックだ」。そう思った瞬間、ガードナーは軽く右腕をふった。アンダーニースの宮幸にスクリーンパス。宮幸は快走し、敵陣深くまで侵入した。筆者は当初、チェックダウンと思ったが、改めてビデオを見るとデザインされたパスだったようだ。ただ、195センチ123キロのブルックスと、196センチ141キロのトゥアウに目の前まで迫られても、まったく臆するでもなく正確にパスを決められるガードナーの胆力に改めて驚いた。相手のクラフトが、DEだけでなくLBや様々な位置にセットするライズの新米国人、マリオ・オジョムリアに気を取られて徐々にパスのタイミングを狂わせたのと対照的だった。
しかし、これだけの能力を持つQBでありながら、ガードナーのオフェンスにはいつも不安定さがつきまとう。この試合も、最後に1TD差まで追い上げられたきっかけは、自陣でガードナーがショットガンから慌ててセットバックに切り替えてボールをファンブルし、ビッグブルーにリカバーを許したことだった。タイムアウトをコールすればよいだけで、慌てる必要はなかった。しかし、前戦のオービック戦も、そして昨年、ゲーム終盤の競り合いの中で何度もミスを犯した場面でも似たような場面は目に付いた。ディフェンスの選手の能力にではなく、局面に負けてしまうところが多いように感じる。それが、日本に来て2年たちながら彼の能力で勝ち切った試合が少ない理由だろう。
この試合、ガードナーの強肩が切り開いた試合というよりは、パスとランのバランスアタックに近かった。ライズのプレー選択はパス37回、ランは最後のニーダウンを除いて28回。第1クオーターだけで7回49ヤードをゲインしたホマ。交代して、実質的なランプレーのスクリーンパスも含めれば100ヤードを走った宮幸の力があったため、ガードナーのスクランブルやQBキープが生きた。ミシガン大時代から、ガードナーはランが好調なときはパスも好循環に入る。200ヤードを超えたランオフェンスがパスによる400ヤードと4TDにつながったといってよい。
筆者は個人的にはディフェンシブなゲームを好むが、シュートアウトゲームを否定しない。招待された地元相模原の人たちの中には、初めてアメリカンフットボールを見た人も多いはずだ。「頼りになる、かっこいいQB」がTDを量産したこの試合にフットボールの魅力を感じたのではないか。しかし、その地元の人たちの感じた魅力を発揮し続けるためには、ランゲームをより一層磨き、ガードナーが局面でもぶれずに冷静な対応を続けることが重要だ。それがライズの悲願、日本一への道ではないだろぅか。【小座野容斉】
・この勝利について
・去年から「スーパー9」のチームに勝てなかった。そこを乗り越えられたが
・ホマが負傷して、代わりに入った宮幸が良い働きをした
・なんといっても7TDのガードナーに尽きると思うが
・八木を始め、出島、鈴木とだいぶ日本人のレシーバーにあってきたと思うが
・ガードナーは、相手のブルックスやトゥアウに対してそれほど神経質にならないでプレーできていたように感じるが
・次はLIXIL戦、昨年非常に好ゲームを展開しながら惜敗した相手だが
・「敵は我にあり」ということか
・このゲームのスタッツは、IBMが556ヤード、あなたたちのチームが611ヤードだ。あなたたちのオフェンスがこれをやった
・だがこの試合は15分クオーターではなく、12分クオーターだ。
・この結果にどんなことを感じているか
・IBMのジェームズ・ブルックス、チャールズ・トゥアウという米国人選手についてどう考えているか
・第2クオーターの宮幸へのパスは、
・宮幸のランアフターキャッチも凄かったが、ジェームズ、チャールズが凄いラッシュをしてきたのに、ナーバスにならずに落ち着いて決めた
・5年前からは考えられないくらい、高い能力があるNCAAフットボールで活躍した選手がXリーグに来るようになった
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