Xリーグ・レギュラーシーズン「強豪対決X(じゅう)番勝負」の「その3」は、9月17日、富士通スタジアム川崎で対決したオービックシーガルズ対ノジマ相模原ライズの雨中の決戦を取り上げる。
フットボールは、詰まるところタックルとブロックという。その基本で、シーガルズは、米の名門ミシガン大から来た凄い男たちを乗り越えた。副将のDB砂川敬三郎、そして主将のTE安東純貴が見せたプレーだ。
砂川敬三郎はタックルだ。
第1クオーターに3回のドライブで1度もファーストダウンを更新できなかったノジマ相模原。第2クオーターからオフェンスを切り替えた。新米国人選手シオネ・ホマをブロッカーではなく、ボールキャリアーとして、ランゲームを組み立て始めたのだ。大型FBタイプのホマは、所属していたミシガン大がワンバックのスプレッドオフェンスだったため、RBとしてプレーする機会がほぼなかったが、その能力はジム・ハーボウHCからも買われていたほどだ。効果はてきめんだった。ホマはタックルをものともせず進み、コンスタントに6~7ヤードを進んだ。183センチ105キロを止めに上がって来たDB三宅剛司はタックル時に負傷、担架に乗って退場した。
ホマの突破力が、前半2インターセプトと乱調だったQBデビン・ガードナーに安定感を与えた。
第3クオーターに14点差となった後のドライブ、ガードナーはWR出島 崇秀、八木雄平にパスを決め、さらには自らのランでゴール前に迫った。ファーストダウン残り1ヤードでガードナーがエンドゾーンに向けてボールを突き出した次の瞬間、そのボールが弾かれて転がるのを、ファインダーの中で確認した。ガードナーから見て左側のディフェンスプレーヤーがタックルして弾いたのだ。カメラの背面液晶で確認すると、やはりオービックの背番号1番・S(セーフティー)の砂川だった。
ボールは、オービックのLB寺田雄大がリカバーした。ノジマ相模原にとってこの試合の4ターンノーバーの中で最も痛恨のプレーとなった。
第4クオーターにもパスをインターセプトした砂川だが、最後の砦であるSとしての真骨頂はその次のドライブに訪れた。スクランブルに出たガードナーが、ボールを狙ったDLケビン・ジャクソンのタックルをかわすとロングゲインした。次の瞬間。170センチ74キロの砂川が193センチ100キロのガードナーに肉薄すると片足にタックル。ガードナーはもんどりうって倒れた。このプレーでは、WR出島がダウンフィールドでCBをブロックしていたため、ガードナーを止められるのは砂川だけ。抜けられたらTDは間違いない場面で文字通り体を張ったタックルだった。
安東のプレーは、貴重な追加点をもたらしたブロックだ。
後半開始のドライブ、オービックは着実にボールを進めた。QB菅原俊はゲームマネジメントに長けたQBだ。ハーフタイムに休息を取り、濡れた体や手を拭いて、少しでも良い条件で始められる最初のドライブを得点につなげたいという意図が十分に分かった。自らのスクランブルでレッドゾーンに入ると、RB望月麻樹にボールを託した。右オフタックルを突いた望月は11ヤードを進んでTD、待望の追加点を奪った。
望月がラインオブスクリーメージを抜ける瞬間、ファインダーの中で、何か激しいコンタクトプレーがあったように見えた。直ぐにカメラの背面液晶で再生して確認した。1人の選手が、ノジマ相模原のDEマリオ・オジョムリアを完璧にブロックしていた。安東だった。
オジョムリアは、ミシガン大の最終学年で負傷し、シーズンの6割以上を休んだ。ハーボウHCはこの年をレッドシャツ扱いとしてもう一年大学に残留させようと考えたほど、彼の力を評価していたという。また米スポーツ専門局、ESPNの評論家、メル・カイパー・ジュニアも彼をNFLドラフトで注目の下位指名候補として挙げていた。この日の試合でも4タックル、2サックを決めるなど実力を見せていた。
彼のようなDEが相手では、日本を代表するOL、例えば富士通の小林祐太郎のような選手でも苦戦するのは間違いない。それをたった一人で見事にブロックしてみせた40歳・安東の底知れないパワーに畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
ノジマ相模原は、3インターセプト、1ファンブルロストと、4つのターンオーバーを喫した。「雨中のゲームでのボールセキュリティの甘さ」と言ってしまえばそれまでだが、決してノジマ相模原が甘いフットボールをしていたわけではない。レンズを通して見た両者の戦いはハードで、骨や肉の軋む音が聞こえてくるようだった。そんな中で3度にわたって攻め込まれたレッドゾーンを、オービックディフェンスが集中力と球際の強さを発揮してボールを奪い取り、切り抜けた。
オフェンスの獲得ヤードはオービック219ヤードに対し、ノジマ相模原が270ヤード、ファーストダウンの数はオービック14に対し、ノジマ相模原が18。ペナルティーによる罰退も、オービックの3回35ヤードに対し、ノジマ相模原は2回10ヤード。ランオフェンス以外のすべてでノジマ相模原を下回った。フットボール的には決して褒められない内容もあった。しかし 開幕のIBM戦に大量失点で敗れ、後がない戦いを、最後までシーガルズらしい体を張ったプレーで勝ち切った。
試合後のハドルを終え、我々の前に立った古庄直樹ヘッドコーチに、筆者は「ナイスゲーム、と言ってよいのでしょうね」と声をかけた。古庄HCは一呼吸置き、「ナイスゲームですね」とはっきり答えた。
筆者には、シーガルズがプライドをかけて戦い、守ったゲームだと感じられた。古庄HCの目にも、そしてこの日が誕生日だった並河研代表の目にも、きっと同じように映ったに違いない。【小座野容斉】
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