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2017-09-28

シルバースターの奇襲とQBキャメロンの逆襲 富士通〇45-23●アサヒビール(9月10日、富士通スタジアム川崎)

2017Xリーグ「強豪対決X番勝負・その2」

Xリーグ・レギュラーシーズン「強豪対決X(じゅう)番勝負」の「その2」は、9月10日に富士通スタジアム川崎を舞台にした富士通フロンティア―ズ対アサヒビールシルバースターの「川崎ダービー」について記す。

【富士通 vs アサヒビール】第4クオーター、富士通QBキャメロンが、WR強にTDパスを投げる。パス22/30で340ヤード、4TD。ラン5回20ヤードで1TDと、文句なしのパフォーマンスだった

■「サイレントカウント」巡る攻防

試合開始冒頭から、アサヒビールが奇襲を仕掛けた。富士通オフェンスの2プレー目。富士通のショットガンフォーメーションに対し、アサヒビールDL陣が一斉にスタートして、富士通OL陣に襲い掛かった。C(センター)の山下公平がワンテンポ遅れてボールをスナップ。QBコービー・キャメロンがキャッチできなかったボールを、アサヒビールDLで主将の小林貴が拾い上げ、一直線でエンドゾーンに走り込んだ。試合開始わずか12秒での先制タッチダウン(TD)だった。

筆者は、このプレー時に、通常のようにボールキャリアーにではなく、C山下を中心にしたラインオブスクリーメージ(LOS)にレンズを向けていた。何かが起きる予感と伏線があったからだ。前節の開幕戦、富士通はLIXILディアーズに30-0で快勝したが、オフェンスに気になる点があった。ディレイオブザゲームの反則が2回もあった。この反則は、一般的には未熟なQBが引き起こすことが多いのだが、Xリーグでも1,2を争う好QBのキャメロンに問題があったわけではない。C山下のスナップのタイミングが合わなかったのだ。

少々細かい話をする。フットボールはオフェンスとディフェンスのだまし合いだ。オフェンスはQBの「レディーセット、ハットハット」という掛け声とともに始まると思いがちだが、現代フットボールでは、QBが声を出さずにある特定の動作によって無音でスタートする方法がある。サイレントカウントというもので、NFLなどでもQBがリズムを取るように足を何度か上げ下げする動作や、柏手を打つように手を鳴らすなど、様々なサインがある。

富士通でキャメロンが使っているサイレントカウントは利き腕と反対側の左手を小さく上げ下げする動作をサインとしている。動きが小さいためディフェンスからは識別しにくい一方で、オフェンス、特にCにもスナップのタイミングを掴みにくい。NFLでこのサイレントカウントを使うチームは隣のG(ガード)がQBを振り返って確認し、Cの体を叩いて知らせるなどの手段をつかうことがある。

富士通では、Cが股の下からQBの動きを確認してボールをスナップするのだが、山下は前の試合でこの確認に手間取ってディレイの反則を取られていた。山下は昨年までのC岩井悠樹が引退したために、今季からスターターに昇格した。春も全試合に出場していたが、キャメロンは春は全休していたため、実戦でこの2人がコンビを組んでプレーするのはこの秋からだ。富士通の藤田智ヘッドコーチも「山下はもう少し時間がかかるだろう」と、LIXIL戦の後に語っていた。

アサヒビールはこの数少ない富士通の「弱点」を試合の冒頭から突いたのだった。今季昇格した有馬隼人HCらしい、大胆かつ細心で、周到な奇襲攻撃といえた。

【富士通 vs アサヒビール】アサヒビールDL陣が仕掛けた。富士通のC山下はボールをスナップしておらず、ディフェンスのオフサイドのようにも見えたが

■「銀の星」の攻勢、富士通の冷静

ただ、プレーとしては、筆者にはディフェンスのオフサイドに見えた。山下はボールをスナップしていなかったし、OLのフォルススタートとも見受けられなかった。撮影した写真を確認するとディフェンスがスタートして連写4コマ目まで、山下はボールをほとんど動かしていなかった。イエローフラッグが出なかったことに、富士通サイドラインは激高した。OLを指導するケビン・ライトナーコーチは、「コウヘイ、コウヘイ」と大声で山下を呼び寄せるとプレーを聞きただし、他のOLにもフォルススタートなどが無かったか確認した。藤田HCも、審判にプレーの説明を求め、確認をしたのではないかと思う。

一度下された判定は、当然のことだが覆らない。富士通は次のオフェンスドライブに向かったがあっさり3&アウトに終わった。アサヒビールは、すかさず、大型パワーバックの柳澤拓弥がゴリゴリと力で押し込んでTDを奪った。ポイントアフタータッチダウン(PAT)は失敗したが、開始3分にも満たない時間帯で13点をリードした。モメンタムは完全にアサヒビールだった。

しかし富士通は、まったく慌てていなかった。そしてQBキャメロンは冷静でいながら燃えていたと思う。先制されたTDは若い山下をリードできなかった自分の責任でもある。こういう時、米国人選手は、必ずビッグプレーで取り返しに来る。予測は当たった。キャメロンは4プレー目に「ホットライン」WR中村 輝晃クラークに目の覚めるようなポストパターンのパスを突き刺した。中村クラークはそのまま走り込んで59ヤードのTDとした。次のドライブも、またしても中村クラークだった。サイドライン際でパスをキャッチすると、アサヒビールDBをかわして独走しあっさり逆転のTDを決めた。

【富士通 vs アサヒビール】第1クオーター7分、QBキャメロンからのパスをキャッチした富士通WR中村クラークがサイドライン際を走り切って逆転のTD.jpg

■前半最後のビッグプレー

それでもアサヒビールは食い下がった。第2クオーターにかけて12プレー64ヤードを進むと、この日好調のK飯島良紀が45ヤードのフィールドゴールを見事に決め、再びリードを奪った。富士通のオフェンスを2回続けてパントとして、第2クオーター5分からの攻撃では、6分以上をかけて14プレー64ヤードを使い、残り3秒でFGを狙った。

このシーンでは、富士通のLBトラショーン・ニクソンがアサヒビールの壁を割って入り込んだ位置でFGをブロックした。飯島のキックは距離が出るものの、弾道が低いことを見越したファインプレーだった。このボールを拾い上げたDBアルリワン・アディヤミがリターンTDを決めた。ところがリターン中に反則があり、TDは取り消された。その代り反則によって富士通はエキストラの1プレーが与えられた。

1プレーしかない状況ではヘイルメアリーパス以外にはない。キャメロンは、冷静に狙いを定めるとエンドゾーンへ向かって腕を思い切り振った。アサヒビールディフェンスも万全だった。富士通がエンドゾーンにレシーバー3人を送り込んだのに対し、アサヒビールは4人のDB陣がいた。ボールはアサヒビールが弾き、前半終了と思われた時。少し遅れてWR強盛が走り込んできた。リバウンドボールを確保した強はエンドゾーンに走り込んでTDとした。こういうキャッチが本番でできるのが『球際の強さ』だ。藤田HCが試合後に「あれが一番大きかった」と語ったプレーだった。

【富士通 vs アサヒビール】第2クオーターのラストプレー、QBキャメロンの「ヘイルメアリー」パスはリバウンドして富士通WR強の前に飛んだ

【富士通 vs アサヒビール】第2クオーターのラストプレー、QBキャメロンの「ヘイルメアリー」パスを見事にキャッチしてTDを決めた富士通WR強

■「我々は一つだ」

流れは2度とアサヒビールに戻らなかった。富士通はRBジーノ・ゴードンの47ヤードラン、キャメロンのキープランでTDを重ねると、第4クオーターには、キャメロンが強に2本目のTDパスで勝負を決定的にした。終わってみればダブルスコアに近い点差となった。

キャメロンのスタッツはパス22/30で340ヤード、4TD、ラン5回20ヤードで1TD。文句のつけようのないパフォーマンスで冒頭の失敗を完全に拭い去った。結果論かもしれないが、シルバースターの奇襲は、キャメロンのスイッチを入れる形となった。

試合後の選手ハドル。キャメロンが、自ら求めて発言した。「今日のゲームは、我々はよくないスタートで、タッチダウンを取られ、相手にリードされた。しかし、オフェンス、ディフェンス、キッキングがバラバラにならなかった。一つのチームとして団結して戦って、逆転して勝利を収めた。この勝利は大きい。これからも我々は一つのチームとして戦っていくんだ」と、静かに力強く皆に語り掛けた。

このQBがいる限り、王者・富士通に勝つのは容易ではない。それを改めて感じさせられたゲームとなった。【小座野容斉】


◇富士通WR 強盛

・前半最後のヘイルメアリーパスをキャッチした

たまたま。日頃の行いが良かったのか(笑い)。ボールが飛んできたときは「あ、来た」という感じだった

・リバウンドボールを捕るために、少し遅れて走っていた

そうです。あれはデザインプレー。デザインとしては練習をしているけれど、特別にヘイルメアリーパスの練習としてはやっていない。

・キャメロンが良かった

最後のハドルでも発言したけれど、彼はとてもリーダーシップがある。試合の中でも今日は気合いが入っていた。

・序盤でポンポンと点を取られた

ちょっとリズムに乗れていない感じではあったけれど、崩れずに頑張ることができた。サイドライン自体は雰囲気は悪くなかった。あそこで崩れずに、自分たちを信じてやるべきことをやれたのは、成長かなと思う。

【富士通 vs アサヒビール】第4クオーター、この日2本目のTDを決める富士通のWR強

【富士通 vs アサヒビール】富士通QBキャメロンの動作を確認するC山下

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