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2017-09-27

巨漢トゥアウの秘めた能力が呼んだ伏兵・福岡の3サック IBM〇38-34●オービック(9月5日、東京ドーム)

2017Xリーグ「強豪対決X番勝負・その1」

2017年のXリーグ・レギュラーシーズンの強豪対決の中から10試合を選び「X(じゅう)番勝負」として、勝負の裏側を探っていく。「その1」では、9月5日に東京ドームで行われたIBMビッグブルー対オービックシーガルズの対戦を振り返る。

【IBMvsオービック】DEとして外からラッシュする構えを見せるIBMのトゥアウ

■パスラッシャー、トゥアウ

第3クオーター、オービックの攻撃で、筆者はファインダーの中でIBMディフェンスの変化に気が付いた。IBMのチャールズ・トゥアウがDEの位置にいた。しかも3ポイントせずに、立った状態からからパスラッシュをかけようとしていた。

IBMのトゥアウは今季から加入した注目の米国人選手だ。身長196センチ、体重141キロと、日本に来た外国人選手の中ではトップクラスの巨体を誇る。NCAAのFCS(旧Div.1AA)テキサスA&M大学コマース校から、2015年NFLのチーフスにドラフト外で入団、夏季キャンプまで帯同し、翌年はドルフィンズとオフシーズンロースター契約を結んだ実力を持つ。巨体と経歴から、DTもしくはNTとしてランストップを主任務とするものだという先入観があった。

事実、試合開始時のトゥアウのポジションは(前傾して片手を突いた)スリーポイントのNTだった。IBMの山田晋三ヘッドコーチ(HC)は「前半、オービックオフェンスに21点を取られたところまでは、チャールズにインサイドを守らせていたのが、外にポジションを移した時からいろいろ機能し始めた」という。もう一人の米国人、DEジェームス・ブルックスと2人がアウトサイドからラッシュしてプレッシャーをかけることによって、ブルックスとトゥアウのどちらかが抜けてオービックのRBをタックルしたり、QB菅原俊にプレッシャーをかけたりできるようになった。

山田HCによれば、元々トゥアウはDEで、大学3年時にはシーズン12.5サックのパスラッシャーだった。NFLを目指すためにインサイドのDLに転向して体重を増やしたという。

【IBMvsオービック】オービックQB菅原をサックするIBMのDL福岡

■「1対1」で勝った福岡

トゥアウの意外な能力と、切り札的なDEブルックスのコンビネーションは、3人目のDL福岡祐希の活躍を引き出した。福岡は菅原を3回サックして計24ヤードもロスさせ、序盤から好調だったオービックオフェンスの歯車を狂わせた。

関西大学出身、社会人2年目の福岡は去年まではDEをプレーしていたが、今季はNTでプレーすることになった。178センチ、107キロは、日本人DLとしても、どちらかと言えば小さい部類だ。だが「両サイドのジェームスとチャールズにブロックが集中することが分かっていた。あとは自分がどれだけ1対1の勝負で圧倒できるか」と考えていた。

 「第2クオーターの半ばからは、(チャールズと)クロスしてのラッシュが多めに入っていたので、そこで自分が相手OLより早く動くことに集中した」という。「とにかく1対1の勝負で負けない。しつこく、低く、速くということを強く意識してきたのがよかった。練習通りだった」と笑顔を見せた。

【IBMvsオービック】オービックのRB李にタックルするIBMのトゥアウ

【IBMvsオービック】オービックQB菅原をサックするIBMのDL福岡。このプレーで福岡は外から中へ、左側のDLトゥアウは中から外へクロスしている

■DB小林を追えなかった理由

IBMディフェンスラインのパワーは、鍛え抜かれたオービックOLであっても負荷が大きかった。勝敗を分けたビッグプレーは第3クオーターのDB小林達真の98ヤードインターセプトリターンTDだが、小林を最後まで追うことができたオービックの選手は、プレーサイドでブロッカーをしていたTE安東純貴だけだった。

このプレーは、ゴール前ショートのオフェンスだったため、ランで力の勝負に出たフリをしたオービックは、右サイドに安東、左サイドにOLをもう一人増やしたのに加えて、TE森章光をスプリットでレシーバーに入れていた。自慢の快足レシーバー陣の中では、WR木下典明しかフィールドにおらず、それも、小林がリターンしたのとは反対サイドの一番外側と、遠く離れていた。

【IBMvsオービック】DEとして外からラッシュするIBMのトゥアウ。対決するオービックOLマイアバが小さく細く見える

■「NFLでOL適性」の意味

試合を通じてトゥアウのインサイドワークの高さとコンディショニングの良さが目についた。140キロを超える体重と、実戦でのブランクを考えると、スタミナ面の心配があり、サードダウンロングのパスシチュエーションではサイドラインに下がるだろうと予測したが、必ずしもそうではなかった。また、DTとDEの両方を器用にこなしただけでなく、インサイドのDL福岡とクロスしてラッシュするなど、複雑なプレーにも対応した。チームに合流して半月余りしかたっていないとは思えない動きだった。

トゥアウのプロフィールで気付いたのは、チーフス時代にOLに転向していた時期があったという記述だ。NFLでも、NCAAでも、DLは出ずっぱりということはない。サイドラインで休ませてリフレッシュさせた方が良いからだ。一方で、OLはよほどの大差がつかない限り、ゲーム中で交代するということはない。

さらに現代のOLは、ゾーンブロックが主流でダウンフィールドまで走ったり、トラップ、プルアウトなど複雑な動きができて当たり前だ。NFLのレベルで一時的にせよ、OLとしての適性を見出されたトゥアウは、巨体からくる怪物的なイメージとは裏腹に、身体能力だけでなく、高いプレー理解とフットボール知能を持っていたということではないか。

春のパールボウル、秋の開幕戦と連戦し、ついに念願のオービック戦初勝利を果たした山田HCは「今年3度目の対戦は必ずある」と断言する。開幕戦を負傷欠場した、オービックのQBイカイカ・ウーズィーも復帰していることだろう。決着をつける戦いはどのようなレベルになるのか、今から楽しみで仕方がない。【小座野容斉】

◇DLチャールズ・トゥアウ

日本のフットボールはグッドだ。プレーヤーはとてもコンペテティブでレベルが高い。このようなゲームに出て勝つことができて、とても幸せだ。自分はDTとDEのトゥィナーで、カレッジではどちらでもプレーしていた。やれと言われればどちらでもプレーできるし、自信はある。これからもチームに貢献したい。

【IBMvsオービック】DTとして、OLのCとGの前にセットするIBMのトゥアウ

【IBMvsオービック】オービックのQB菅原にプレッシャーをかけるIBMのDEブルックス

【IBMvsオービック】IBMのブルックス(34)とトゥアウをしり目にファーストダウンを奪うオービックのRB李

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